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臆病モノ

『足元に居る』『とおる』『祓えない』のお話に出てくるMさんのご実家。

少し古いだけで普通のお家なのだが、何故かお化け屋敷のように色々いるらしい。
かと言って特に大きな害はないそうだ。
案外貴方のお宅もMさんのご実家と同じように、見えないだけで色々いるのかもしれない。

今回は霊と意思疎通をしたお話。

改築して出来た新2階は、Mさんのお部屋の他に6畳のお座敷がある。
Mさんの部屋とはふすまで仕切られており、この2間は階段に繋がる廊下と御手洗いに繋がる廊下の間に挟まれる形だ。
またお座敷には神棚が据え置かれた。祭事があればその座敷で行う事になっている。

Mさんのお部屋には『とおる』の白い着物姿の女性の他に、もう一体の霊がいたという。

Mさんが部屋に入ってからしばらくしてから気付いた位、薄っすらとした影のようなモノだったらしい。
全身灰色のモノクロで色彩が全く無く、他の霊なら比較的ハッキリ見える筈のMさんでさえ、目を凝らさないと認識できない位に存在感が無い、若い男だったそうだ。

白いシャツに長ズボン。裸足。短髪。
部屋の隅でヒザを抱えてじっと動かない。

Mさんは経験上、こういうボンヤリしたモノは無視していれば何れどこかへ行ってしまうか消えてしまう事が分かっていたので、気づいて直ぐに無視を決め込んだそうだ。

とはいえずっとそこにいる訳だから、仮にも乙女の端くれ、着替えの時や趣味の作業中など事ある毎に存在を思い出してしまう。
非常に鬱陶しく感じる様になり、ある時の作業中にとうとうブチ切れて灰色の男へ向けて不満をぶつけてしまった。

「おいお前!鬱陶しいから私の部屋から出て行けよ!」

ヘタをしたら「気づいてくれた」と付きまとわれる可能性もあるので、ハッキリ言って良い方法ではない事はわかっているつもりだったという。

灰男は体育座りのまま一瞬掻き消えそうになったが、辛うじて姿を消さなかったそうだ。
その様子を見たMさんはまたイラっとして舌打ちまでしたが、そのまま手元の作業を進める事にした。

暫らくして、『怖くて・・・』というか細い声男の声が聞こえた気がした。
Mさんはハッとして灰男の方を見る。

灰男はそのままの姿勢だったが、次の細い声は聞こえたという。
『怖くて・・・出られない』
その時は、はぁ?!喋るのかよ?!と思ったそうだ。

ほぼ反射的に「怖いって何よ?」とトゲトゲした言葉が出たのは仕方ない。
しばらく返事を待っていると『・・・怖いモノがあるから・・・』と返事があった。

怖いものって何だ?出られない?
ここで頭にイメージが浮かぶ。隣の座敷にある神棚だった。
新しく出来た神棚が怖くて移動できない?理由はよくわからないが辻褄は合うかもしれない。

少し考えたが解決案は浮かばないし、結局特に手助けする気にもならなかった。「いいから出てってよ。」

冷たく言い放つと、しばらくして灰男はホタルがゆっくり点滅する様に消えたり現れたりを繰り返した。
数回繰り返した後に消えるのを止めた。
まるで「ほらね?」とでも言っているかの様に感じたそうだ。
再びイラっとしたという。

Mさんはバッと立ち上がり、隣室へのふすまをガラッと開け放ち、座敷をドスドスと横切って、中庭に面する座敷の窓をガラリと開いた。
そして自分は神棚の前に立ち、「ほらっ!怖くないから早く!」と急かした

灰男の様子は変わらないのだが、何となくモジモジしている様で妙に腹が立つ。
「はやく!!」

灰男は体育座りのままスライドし、時折足を止めるかのように様に点滅しながらゆっくりと座敷に入ってきたという。

その様子は「ハッキリ言って気持ち悪い」と感じたそうだ。
恐らくビクビクしながら抜き足差し足で部屋に入ってくる人物を想像すればピッタリ当て嵌まるのではなかろうか。

灰男はMさんや神棚へ見もせず、ゆっくりと座敷を横切り窓の方へ向かった。
そして窓の手前で消えたかと思うと、次の瞬間に正面をこちらへ向けた状態で窓の外にいたという。

その様子をMさんは目で追っていたが、外へ出た事を確認すると即座に窓を閉め、障子をピシャリと閉じた。

その時以来、灰色の男は家の中で見掛ける事はなくなったそうだ。

しかし時折、例えば白い着物の女が部屋を横切る深夜1時頃に自室から座敷へ避難した際には、窓の外から何だか何かの視線を感じる時があったという。

障子を開いてみれば、相変わらず目を凝らさないと見えない位に薄っすらとした体育座りの灰色の男が、本当に時折窓の外からこちらを見ているのが見えるそうだ。
「今でもいるんじゃないかな?」

というお話を、YさんはMさんと一緒に深夜1時頃に神棚のあるお座敷で同人誌の原稿を描きながら、『何だかさっきから視線を感じるんだけど・・・?』と言った時に聞かされたそうである。

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