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退院の日

Yさんから聞いた短い話

Yさんの義母は狭窄症の治療で1ヵ月程入院していたらしい。
術後の経過も良く、退屈な入院生活に飽き飽きした頃、退院日が決まった。
その日のお昼には帰ってくる予定だ。

Yさんは当日の朝に朝食の用意をすべく、エプロン姿で台所に立った。

テーブルを拭いたりお皿を準備したりしていたところ、1ヵ月間使われていなかった義母のイスに、背凭れの隙間越しから黒い猫が背中をこちらへ向けて丸まっているのを見て驚いたという。

あっと思って一瞬目を逸らし、野良猫かもしれないので改めて確認しようと見直すが案の定消えていたらしい。

この家で猫はもう永い間飼っていない。
最後に飼っていたのはもう7年以上前になる筈だ。

その猫は足先と鼻下だけが白い殆んど黒猫のタビーだったと。
Yさんがお嫁に来た時にはもうヨボヨボで、それから1年程でお別れしたが、その姿形はYさんも知っている。

義母に懐いていたので、
「お義母さんのお見舞いに来たのかな?」
とYさんは洗い物をしている旦那さんに報告したという。

猫はすぐ恩を忘れる薄情モノだと言うが、どうやらそういう訳でも無いようだ。

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