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お引越し

琴浦のGさんから聞いたお話。

Gさんの娘さんが大阪の北区にある大学へ通う為、市内から少し離れてはいるが交通の便は良い地区にアパートを借りたそうだ。
とは言ってももう20年程前のお話であり、震災の後でゴタゴタしていた頃だったからか、安普請の壁の薄い2階建ての真ん中部屋で、それでいて人の出入りは激しく、安いだけが魅力の暮らせるだけまだマシな物件だったという。
娘さんもそんなに長くは住んでいない。

内見の際、娘さんは部屋の奥の窓際から嫌な気配を感じたそうだ。
所謂霊感というヤツなのだが、自身でも何となく感じる程度の力しかないと自覚していたという。

ただ前述の通り立地の利便性は高く、開校まであまり時間もない上に他に当てもなかったからか、しばらくはその部屋に落ち着く事に決めたそうだ。

そうと決まれば話は早い。
引っ越しの時に小さな折り畳み机、小さな湯飲み、小さな小皿、粗塩、祝詞折本を実家から持参した。
部屋へ入った日にすぐさま小さな祭壇を設置して、毎日水と塩と祝詞を供え手を合わせた。
略式ではあるが魂鎮めだったという。

少なくとも2ヵ月間は何も起きなかった。
学校の方も落ち着いて荷物も少ない生活に何の不便もない。
そんなある夜の事。

電気を切って布団に入った娘さんは男の叫び声で飛び起こされた。
その声はドタンバタンという騒音と共に、祭壇の在る壁側から聞こえたそうだ。
お隣の男性が何やら叫びながら壁の傍で暴れている様子だ。
聞けば「うわああああああ!こっち来るな!入ってくるな!」と繰り返していた。
しばらくガタンゴトンと何か重い物を動かす音が続き、少しして慌ただしく部屋から飛び出していく様子が窺えた。

あまりの事に娘さんも吃驚して長い時間布団を抱えて固まっていたが、静かになったのがわかると取敢えず頭から布団を被って寝る事にしたそうだ。

翌朝お隣の様子を伺ってみたが、ドアの外にはサンダル片方と小物が転がっており、窓の方から見上げるとカーテンがレールごと外れ落ち、ガラス越しに衣装ケースやベッドのマットの様な物で窓全体が塞がれているのが見えたという。

それから数日間は何人かが隣室を出入りしていたが、結局1週間程で部屋を引き払っていったらしい。
娘さんの方はその後何事も無く、半年後にもっと環境の良い物件へ引っ越すまで静かに暮らす事ができたという。

案の定と言うか彼女が引っ越すまでの間、出入りの多いアパートだった割には隣室に人が入る事は無かったそうだ。

結局それがどういう性質のモノで、どういう理由で、何が起きたかは皆目見当はつかないのだが、「出て行ってくれたみたい」と娘さんはGさんに報告したという。

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