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ある意味で有名な橋

郷里に心霊スポットとして程に有名な『旧日野橋』がある。

戦前に掛けられた曲弦式6連ワーレントラスが美しい鋼橋だ。
県内最古とも言われており、老朽化の為現在は車両止めが設置され、自転車や歩行者以外の車両は通れない。

この橋に現れる幽霊ついては他に詳しいサイトが数あるので、ここでの説明は敢えて省かせて頂く。

一応参考までに https://www.city.yonago.lg.jp/9706.htm


その日は世間的にお盆休みではあるが、出勤日の都合で4歳になる子供を保育園に預けていたYさん。
子供の迎えついでに土手沿いの道を川下に下り、大きなスーパーまで買い物に出かけたそうだ。

『旧日野橋』の傍はその道中に必ず通る事になっている。

橋のすぐ傍にある信号が丁度赤になったので、Yさんは車を止めた。
しばらくすると窓の外を眺めていた子供が、「橋の上にお母さんと子供がいるよ」と言う。

そう言われてYさんもチラリを橋の上を見たが、どの人の事を指しているのか判らなかった。
「どの人?」「橋の真ん中に立ってる」
「どんな恰好?」「お母さんはエプロンをつけてる」

そうこうしているうちに信号は青に変わったので、Yさんは車を発進させた。

その場から離れながらもう一度訊いてみた。「何してた?」「子供とお手てをつないだまま、お家に帰りたくてじっと見てる」

流石にぞっとしたらしい。
Yさんの知っている『旧日野橋』の伝承に、あまりにも沿っていたからだ。

Yさんのお父さんは若い頃、この場所が幽霊見物の車で列を成し、宛て込んだ屋台が出る位賑やかだった時代に、実際に白いセダンをわざわざ借りて友人らと橋を渡る肝試しを行っている。

Yさんはお父さんから詳しい話を、その時の様子と併せ聞いており、比較的オリジナルに近い形で伝承を覚えている。
この中に登場する幽霊は《女》ではなく、《母子》である事を知っていた。

買い物が終わり、帰り際にまた橋の傍を通る。
信号は青だったのでそのまま通り過ぎようとしたが、気になるのでチラリを横目で見た。

その時は橋の上に誰もいなかった。

安心からかつい「二人ともまだいる?」と訊いてしまった。
子供は窓からYさんの方へ振り返り「まだいるよ」と・・・。


翌々日、家人と一緒に食事へ出掛ける事になった。
川下にある美味しいラーメン屋へ行く予定なので、また橋の傍を通る事になる。

何かあったら怖いからと、いつも自分の首から下げているお守りを子供に貸してあげた。

直ぐに運転手である旦那さんの目にとまり、どうしたの?と尋ねられ、その時の話をしてあげたそうだ。

その日は行きも帰りも、子供に「今日はいる?」と訊けなかったらしい。

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