vol.1 自己紹介について

コンセプト

「自己紹介をお願いします」と言われて、わたしは何を答えてきただろう。
日常的に誰でもやるけど、上手いとか下手とかがあって厄介なもの。

そもそも、そこで述べたものって本当に「わたし」なんだろうか。
Cogito, ergo sum. 我思う、故に我あり。
ここはどこ、わたしはだれ。

とにかく、今回のテーマは「自己紹介」。
自分の自己紹介をしてもいいし、
自己紹介について思うことを書いてもよし。
14人の寄稿者が、あれやこれや考えました。



集まりでは、“自己紹介”それ自体について、遊び、考えました。はじめに「わたしペディア」を作ってみました。自分の略歴をまとめ、そこに他人がエピソードを想像で書き足す遊びです。そのあと、『ティースプーンvol.1』を読み合わせ。なぜ自己紹介をするのか? 自己紹介から何が分かるのか? 紹介した自己は、ほんとうに自分なのか? ― そうしたことを問う会になりました。


わたしペディアで遊ぼう

人物の紹介文として私たちにとってなじみ深いのが、ウィキペディアの人物ページです。名前、概要、略歴、エピソードなど、その人を辞典的に定義する情報が載っています。このスタイルをまねして、参加者それぞれの“わたしペディア”を作って遊んでみました。ウィキペディアの和田アキ子さんのページを参考に、まずは自分自身の概要と略歴の項目をさっと記してみます。
・自分自身の略歴をまとめるのは、事実を記録するだけのようで、予想以上に大変な作業です。年月日や場所、数字、所属を挙げるのは簡単ですが、それらデジタルな要素を関係づける“出来事”を記すとなると、内容や粒度、表現の取捨選択を(誇張でなく)迫られるからです。
・今度は書いたものを交換しあって、他人のページにエピソードを書き足しました。本人が書いた概要と略歴の内容や書きっぷり、そして本人の雰囲気やイメージから想像して、その人にいかにも起きていそうな出来事を作りあげます。今回の参加者の多くは、初対面です。その人個人、あるいは、そのタイプの人々一般にありそうなこと、そうしたある意味で勝手な思い込みを引っ張り出す必要があります。
・このようにして、事実や空想、“らしさ”や“意外さ”が混在した人物ページができあがりました。スクリーンに映して、みんなで講評を行いました。これは本当にあったの?これは誰の作り話?これとこれが偶然つながった...など。本人には真贋は明らかですが、それでも一歩引いてフィクションの自分を楽しむうちに、そんな出来事もあったかなと錯覚を起こしたり、はじめに自分が書いた部分にも飾りがたくさんついていたことに気づいたりします。自己紹介のページには、自分の一側面しか説明されていない...そのはずなのに、そこに書かれていることだけがわたしのイメージを作っていく状況では、事実として書いた(書かれた)記録と、勝手に決めつけた(決めつけられた)想像とが、実は区別のつけにくいものだということを実感しました。


ジンを読み合わせよう

『ティースプーンvol.1』は、「自己紹介」を共通テーマに、参加者の一部も含めた14人が文章を寄稿したジンです。自己紹介をしたもの、自己紹介について印象や好き嫌いを述べたもの、自己紹介とは何か論じたもの、自己紹介をする人について考えたもの、いろいろな小品が集まっています。レイアウトやフォントは編集時点で決められたものですが、一つ一つが異なり、また手書きで提出された文章もあります。中には内容に偶々マッチするような見た目のものもありました。
・まず、それぞれが気になった文章を選んで、納得した、共感した、戸惑ったなどの感想を共有しました。ほとんどが匿名ですが、内容や文体などからこれはあなたが書いたのではないか、という答え合わせもできます。次に、実際に本人と繋がりがあるかどうかに関わらず、その文章を書いた人とどのような関係を構築できそうか、考えてみることにしました。ちょっと会ってみたいという程度から、日常的に何かを一緒に取り組んでみたいほど気になった人までさまざまです。ひととなりを推理するというよりは、その人と接するときの自分について仮定していたように思います。その人にはじめて会うときの自己紹介では、案外、ウィキペディアもどきに書いたようなことは第一には来ないという意見もありました。


おわりに

今回の集まりでは、自分や他者の自己紹介(観)を交換し合うなかで、“わたしについて誰かに伝える”とはどのようなことかを考えました。わたしたちの日々の自己紹介には、取捨選択や思い違い、脚色やウソさえも含まれているかもしれませんが、そうした飾りをとった「裸の自己紹介」(寄稿文より)が可能だとすれば、それはどのようなものになるでしょうか。

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