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居場所を探している

小学生のとき、手の位置を定めないと歩けなくて、なぜか手術前の医者のポーズ(『手術前の医者 手』で検索してください)をして過ごしていたときがあった。クラスメイトに、なにその格好、と聞かれて、ああなんか手の居場所がなくて、と答えたことをなぜか覚えている。小6のとき、確か給食の準備中だった。

指摘されて恥ずかしくなったんだかなんだか分からないが、今はそんなポーズで歩いたりはしない。でもとにかく、手を普通に体側にやって、普通に前後に動かして歩くことが、たぶんできない。いやまあやろうと思えばできるのだけど、やりたくないというか、そうするとなにか変な感じがする。

手の位置を、手術前の医者のポーズにすること以外にも、たぶん無意識のうちに手の位置を定めようとしていた。それ以降からなのか、それより前もだったのかは忘れたけれど、ポケットに手を入れるのが基本姿勢として定まり、今もそれは変わっていない。まあ必要なときは普通に手を出すし(当然)、そのときにはもちろん手にも用事があるわけだから、居場所がないなんてことを考えることはないのだが。

そして、またこれも小6のとき、じゃんけんを毎日する必要があった。まあ必要はないのかもしれないが、とにかく給食のお代わりをしたいから、個数が決まっているものに関してはじゃんけんをしなければいけなかった。そしてたまたま、本当にたまたま、めちゃくちゃお代わりじゃんけんが強かったので、本当に毎日ゼリーとか揚げパンとかおかずとかを勝ち取っていた。で、クラスメイトはこいつはなぜお代わりじゃんけんが強いのかと考え、理由として、『必ず右手をポケットに入れてじゃんけんをするからだ』という謎の結論に至ったらしい。個人的にはただ、右手は用事がないからポケットに入れっぱなしにしていただけなのだが、あまりにも毎日同じ格好をしていたんだと思う。ショウだったかイッタだったか誰だったかは忘れたが、とにかくクラスで洞察力のすごそうだった頭のいい誰かが、じゃんけんの前にちょっと待って!と言ってわざわざじゃんけんを止め、この考察を発表した。じゃんけん参加組はこの推察に驚きの声をあげ、確かその日は全員が右手をポケットに入れてじゃんけんをしていた。そして私は負けた、んだったと思う。まあでもそんな、ひとりのじゃんけんの仕方なんてどうでもいいので、そのブームはすぐに去って、また私はお代わりじゃんけんに勝ったり負けたりした。





父親の出勤に合わせて朝4時半に家を出る。昨晩降った雪が少し積もって、滑りやすくなった道を、なにも考えずにポケットに手を入れて歩いていたら、父親にめちゃくちゃ叱られて、そんなことを思い出した。大人になったらさすがにポケットに手を入れて歩けないなよな、とか考えてみている。そしたら、手、どこにおけばいいんだろうか。

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