見出し画像

津久井やまゆり園の指定管理期間短縮に関する黒岩知事発言の問題点

神奈川県黒岩知事が、2019年12月5日に、「津久井やまゆり園」と、これからできる「(仮称)芹が谷やまゆり園」の指定管理を公募すると発表しました。

もともとある、「津久井やまゆり園」は、事件後、横浜にある旧ひばりが丘学園跡地に仮転居中ですが、2021年までに新しく建て替え、各施設66名規模の2施設に分かれるため、「津久井やまゆり園」と新しく「(仮称)芹が谷やまゆり園」が建設されているところですが、そのふたつが対象ということです。

1、指定管理とは

都道府県・市町村が運営する公共施設を民間法人に運営を委託する仕組みで、神奈川県としては、
「公の施設」の管理運営を行う民間事業者等を「指定管理者」として指定することにより、民間のノウハウを活用しつつ、サービスの向上と経費の節減等を図ることを目的とした制度です。県は、制度を運用するにあたっての具体的な基準と手続きを定めた「指定管理者制度の運用に関する指針」を策定しています。
とあります。

「神奈川県の指定管理者制度の運用に関する指針(PDF)」
http://www.pref.kanagawa.jp/docs/hy8/cnt/f5586/documents/sisin.pdf

ちなみに、津久井やまゆり園との指定管理期間は、契約締結時は、2025年3月までとなっています。

なお、「津久井やまゆり園」の指定管理は、かながわ共同会が2025年まですることになっていますが、ひとつの施設を二つに分けるため、「(仮称)芹が谷やまゆり園」も、同法人がした方がよいだろうということで、事業者を選定せず、同じく2025年まで、かながわ共同会を指定管理事業者として調整するというところまで決まっていたようです。

2.指定管理期間を短くする今回の理由とは?

今回の黒岩知事の発言で、大きな理由として取り上げられたのは、
・法人理事であり愛名やまゆり園園長による女児への性犯罪の疑い
・津久井やまゆり園で入所者への身体拘束があった
とのことでした。

一つ目の件について、あってはならないことです。
法人理事ではありますが、個人レベルの犯罪と法人としての指定管理を受けた施設の契約内容変更と結びつく理由が明確ではありません。
先ほど出した「指定管理者制度の運用に関する指針」にあてはめても、いきなり指定管理期間を短縮するような手続きについて書かれていません。

また、この法人理事が起こした事件を機に「いろいろな意見が入ってきた」とありました。
その中に、津久井やまゆり園に身体拘束があったことの意見もあったとのことですが、2018年7月21日に放送されたNHKの番組をもとにした意見が再燃したのではないでしょうか。

さて、身体拘束とは何が起きていたのでしょうか?

ここに出てくる入所者の場合、県直営の時代から自力歩行については不安定さがあり、けがをしやすい人だったことから、ご家族にも確認の上、車いすを使用し、その際、Y字型ベルトで固定(この部分が身体拘束となる)をしていたとのことでした。ただし、職員の見守り体制が取りにくいことによって、その時間は長時間になったことも多々あったようです。

しかし、津久井やまゆり園は、県直営の時代から行われていたこの身体拘束について支援方針の改善を重ね、2018年4月には身体拘束をゼロにしたということです。

ですから、今更ではありますが、NHKが番組を放映したのは、過去のことについてです。
でも、視聴者は過去のこととは思えないでしょうね。
番組は、事件のことと地域移行のことを意図した番組だと思いますが、視聴者の反応は、「今も身体拘束をしている津久井やまゆり園」という印象を強く持たれた人が多かったのではないでしょうか?

そして、地域移行をしたから、たくさんの職員がそばにいて、あの笑顔になったという印象でしょうし、津久井やまゆり園に現在入所している皆さんは外出もできていないかわいそうな人とでも言いたげな内容だったと思います。

この番組を作る前に、私もNHKから取材を受けておりました。でも、出来上がった番組を見て、非常に残念に思った次第です。

そして、知事は、身体拘束がもうなくなっていることは知っているはずです。
というのは議会の人も知っているからであり、神奈川県当局も知っていることが明らかだからです。
(2019年12月10日及び13日の神奈川県厚生常任委員会のインターネット中継で確認しました 参考資料として最後に添付)

ですから、そういう意見が再燃して、知事のもとに届いたのであれば、終了した案件であることを言えばよいことなのではないでしょうか?

間違った解釈をしている人の側に合わせることは、何の時でも危険です。
自分が知っている正しいことを伝えればよいだけのことです。

NHKの番組を見た人は、「身体拘束をする悪い施設だから、あんな事件も起きたのか?」そう解釈をした人もいますし、そういう考え方を私のところに言ってきた人もいます。
もちろん、その際には、そのお考えの間違いをお話しすれば、わかっていただける方ばかりでした。

3.指定管理を受けた側は、初めに何を考え、支援を開始するか?

さて、指定管理受けた施設について、身体拘束の件だけではなく、支援という観点から、考えていきましょう。

もともとこの施設は、県直営の施設です。
そして、先ほども書いた通り、この入所者の身体拘束は、県の時代からしていることです。

この入所者の人は、歩くことでけがをしやすく、転倒防止のために車いすに座り、その際にベルトをしている状態でした。

その人がけがをしないようにしていたわけですから、当たり前のこととの認識であれば、記録も取っていない時代は確かにあると思います。これも、どこの施設でも起きうる過去の産物です。
でも、かながわ共同会として、身体拘束ガイドラインに沿って、改善を重ねていたのです。

さて、指定管理施設を運営したことがある人であれば、わかると思いますが、まず、引き継いだ際に、もともと公立施設がしていたままの支援をまずは継続することはよくあることです。なぜなら、その人を知らないからです。

病院などをイメージしてみるとわかりやすいと思います。
長年使っていた病院を転院した場合、薬はとりあえず、ほぼ同じような内容で出されます。いきなりは変えません。そのあと、患者さんから病状を聞いたり、担当医も患者さんに関わっていく中で、変更した方がよいところがあれば変えていきます。

もともと、転倒防止のために車いすに座っていて、ベルトで身体拘束されていた人ですから、いきなり歩かせることは私もしません。危険すぎます。
様子を確認し、ご本人・ご家族とも確認し、安心・安全に暮らしていただくために、県がしていた支援と同じ支援をあえてそのまますることでしょう。

それは、津久井やまゆり園も、例外ではないと思います。
様子を確認することは、一日二日でできることではないですし、集団の中の24時間の中でのおひとりおひとりの状態を見ていくわけですし、ご家族との話し合いもありますでしょうし、この入所者の人だけのことではなく、支援現場はそのようなやり方で、初めて知り合った入所者(利用者)の人を知っていくには時間をかけていくこともありますし、良い方向に支援でできていたことが、急にその時の施設のさまざまな状況でできなくなることもあります。

そうはいっても、個別支援計画は作られて、ご本人ご家族に提示され、それをもとにしている状態であったと思われます。

つまり、県がしていた支援を引き続きしていくことは通常のことで、そこから、全員の入所者に対して、より良い支援に変えていこうとする過程には、時間も必要なのです。もちろん、地域移行も進めていくことについても同様です。

そして、事件が起きました。

4.事件の被害者でもある津久井やまゆり園の日常を今まで通りにする職員の大変さも想像してみよう

事件後の津久井やまゆり園のことを私たちは、自分の施設と同じように考えてはいけないと思います。

私も施設を経営していますが、安定した利用者の皆さんの日常というのは、作り上げていくものなのです。

事件が起き、津久井やまゆり園に何が起きたのか?
・利用者の入院対応と体育館へ避難
・仮の引っ越し先の選定
・旧児童施設への引っ越し
・亡くなった入居者のご家族への寄り添い
・在園入居者のご家族への対応
・(この際だからと)外部から表出した地域移行を進める意見への対応
・じゃあ、意思決定支援をしましょうという流れへの対応と相当数の会議
・月命日と命日の式典の開催
・県との事件関連の連絡調整
・次から次へとくる報道機関・メディアへの対応

私が想像したことをザクッと書けば、こういうことですけど、これってどういうこと?を思い描いてみてください。
職員たちは、必死だったと思います。自分のことをさておき、利用者の皆さんやご家族の皆さんの不安を取り除こうと必死だったことでしょう。それに、亡くなった方のご家族への寄り添いもしているのです。

そして、違う側面から話しますが、職員が勤めようとする施設というのは、通常、自分の家から通える施設です。それか、引っ越すかです。
神奈川県相模原市緑区というところにあった施設にいた職員が、横浜市港南区芹が谷というところの施設に通うというのは、2時間以上かかるのです。
事件があったことで、毎日、往復約4時間の距離を移動している職員たちって、私はそれだけで、感謝しかないですね。大変だと思います。のちに引っ越した人もいるようです。
そのなかで、通常の日常の仕事以上のことが覆いかぶさり、それをこなしつつ、利用者の人たちにも、いつもより良い支援を追及している職員たちっていうだけでも、頭が下がります。

それに、職員たちの心の中だって、どうなっているか?を想像してほしいのです。自分なら、どう考えるかと。
事件を起こしたのは元同僚ですから、それだけでも、自分たちの責任を問う人もいました。「何もできなかったのだろうか」とか、「あの時こうしていれば」という気持ちが起きていたのです。

つまり、職員たちも被害者なのです。

職員自身もメンタルケアが必要な状態の中、いろいろなことが次々起きて不安定な状況の入所者の皆さんとともに引っ越しをして、慣れない環境でさらに不安になる入所者の人もいたでしょうし、そういう状態を安心・安全に暮らしていただくことが主で良いはずなのに、そういう職員たちに、「(この際だから)地域移行をした方がよい」とか、「(住まいを決めるために)意思決定支援をする会議をやりましょう!」と外部があれやこれやといとも簡単にやれると判断して、さらに大きく仕事を増やしていることに、私としては、なぜ職員たちをも思いやっていただけないのか?と納得しにくいことが、あまりにも多く起きているのです。

穏やかな暮らしを得るために皆さんどこかで、なにか、我慢をするような状態にさせているのは、社会なのではないかとさえ思うのです。それによって、通常できるはずの支援ができないのであれば、それこそ、社会が人権侵害を犯していることにもなりかねません。

5.住まいに関する私の一貫した意見

私自身は、基本として、知的障害がある人に対しては、できれば入所施設ではない環境の支援ができることを望んでいます。入所施設よりはグループホーム。グループホームだけではなく一人暮らしやシェアハウス。ですから、一人暮らし支援もしています。

でも、中には、そうはいかないという人もいることは知っていますし、社会にある壁(障害)やサービスの不足で、どうしてもその人の思い通りばかりにならないこともあります。だから、入所施設を全面的に今日明日でなくせるとは思っていません。

それに、津久井やまゆり園にいた人たちは、事件で住まいがなくなってしまったわけで、事件があってやむを得ず引っ越しをした彼らに意思決定支援だ、地域移行だとご本人抜きで言っているようにしか見えません。その前に、まず自分の家に帰っていただこうよっていうのが、私の最初からの意見です。

津久井やまゆり園は、地域移行をしていなかったわけではないのです。かながわ共同会にもたくさんのグループホームもあります。
事件で家がなくなった人に、この際だから引っ越しちゃえば?と言う気が知れません。まずは、みなさんで、安心できる家に帰っていただき、そのあと地域移行を進めていくことなのではないでしょうか?しかも2か所になるのは本当に悩んでいらっしゃることだと思います。

入所者の皆さんの気持ちはどこにあるんだろう?と、この間、何度も何度も感じるのです。地域移行は丁寧にしていくべきことで、ご本人に不安や失敗感を持たせることはあってはならないと思うのです。

6.津久井やまゆり園アドバイザー・コンサル状況

さて、私が、津久井やまゆり園と関わっている様子を書きましょう。

2017年度に、津久井やまゆり園でセミナーをしたことがきっかけとなり、2018年度は、津久井やまゆり園から依頼をされた意思決定支援アドバイザーとして施設の職員や相談支援の職員や心理職の職員たちの集まる席で、皆さんが抱えている疑問に答えたり、後押ししたり、考え方の幅を広げたり、元気づけのような役割で入っていました。
また、2019年度は、6つの寮の中で職員たちが、支援の仕方で改善した方がよいと思っていることについて、課題を整理したり、方法を変えたり、アイデアを出しつつ、宿題という形で1か月間検証・改善をしてもらったりする、コンサルという形で入っています。

職員たちは、考える力と柔らかさを持ち合わせた職員集団だなあと思っています。もちろん、課題もあるかと思いますが、どこにでもあるような課題だったり、改善のきっかけさえつかめれば、即改善できる素質を持った集団なので、1か月後に結果が出ていることがかなりあります。

その中には、入所者の人ができることで作業の商品開発を手掛けたり、意志の表出の仕方を視覚的に工夫をしてみたり、施設の中で役割を作ることで充実した日常を過ごせるようになったり、様々な成功事例が上がってきました。

支援の課題というのはどこの施設でもあることですが、さらに先ほども書いたような事件後の様々な仕事の蓄積や使い勝手の良くない仮住まい(何しろ、児童仕様の施設ですから)であることなどにも関係しているかもしれませんし、そこで低く見積もったとしても改善のスピードが速いのです。

意思決定支援会議が続く中、入所施設というシフト勤務の中、往復通勤時間4時間という職員もいる中で、利用者の人たちを今以上に良い支援をしようと努力しているのが見え、きちんと行動が伴っているのです。

本来は、この良い支援への変化は、事例発表などで出せるようなものだと思いますが、今津久井やまゆり園がこういう内容を外に出せないのは、何をしても批判される可能性があったり、そんなこと当たり前だよね?という感情を持たれたり、職員たちのモチベーションも下がりかねないからなのかなとも思っています。そう考えると非常に残念で、福祉業界全体から、津久井やまゆり園を応援してほしいものだと思うのです。

7.指定管理期間を短縮するのは、利用者・ご家族・職員の不安をあおること

津久井やまゆり園の職員たちが、入所者の皆さんに対して悪事を働いたのであれば、指定管理を外されるのは当然のことですが、利用者満足度は、年々上がっているとのこと。(県の厚生常任委員会のビデオで確認)
そして、施設のやることには常に良し悪しがあり、どちらも見ていくべきことだと思うのです。
そのような中、今回理由とされていることは、よくやっている部分を差し置いて、契約を終了するに相当することでしょうか?指定管理期間の短縮に相当する理由は、私には見つかりません。

事件があって、不安な状況の中で、平静を保てるようにと皆さんで作り上げているところです。もちろん、世の中にいろいろな意見があることは承知です。だからこそ、できるだけ平静を保つように波風立たぬようにと職員たちも配慮をしているのです。

そこにきて、この大波を起こすのはなぜなのでしょうか?
そして、引っ越しをするところで新しい法人になった場合、何が起きるのでしょうか?

利用者の皆さんは、本当にものすごく不安になるでしょうね。
イメージするだけでもつらいです。混乱は避けたいのです。

住んでいるところから引っ越すことは、エネルギーをものすごく使います。これは私たち自身もそうなのです。ましてや、今起きていることを理解することが困難な人たちや状況の変化を不安になる知的障害者の人たちです。その際に外部の力で「職員が変えてしまおう」というのは、それこそ、人権侵害に等しいとも思ってしまいます。

利用者の皆さんや家族会から、他法人にしてくれと言われていない状態で、行政判断するということは、利用者不在であり、意思決定をしたことに対してNOと言っている部分にもなりかねないのです。

私は、今回の理由による短縮がおかしいということをお話ししているのです。県とかながわ共同会で契約をしたわけですし、その中の契約破棄にする内容なのかということです。指定管理制度がおかしいと言っているわけではありません。

上記資料に、平成27年4月1日から平成37年3月31日まで(10年間)が契約期間と書かれています。つま2025年です。
それを、今回の知事決定は、2施設ができる2021年度に合わせるため、2020年中に指定管理法人の選考をするということなのです。

もちろん、かながわ共同会が手を挙げることは良しとしていますが、理由が理由なので、他法人が手を挙げたのであれば、そちらになる可能性は非常に大きいですし、そうなった時に、誰が喜び、誰が悲しむのかと思うと納得はしにくいのです。

8.黒岩知事の発言の問題点

黒岩知事の12月5日の議会での発言や14日に津久井やまゆり園を訪れた際の話の中で、私が気になるポイントは、
・「神奈川県指定管理者制度の運用に関する指針」に沿った手続きを踏んでいない
・「入所者・ご家族のご意向に沿いたいし、不安にはさせない」と言っている部分
・「裁判が始まるといろいろな情報が出てくると、かながわ共同会の指定管理継続ができなくなるから、その前に仕切り直しをするために手を打つのだ」と言っている部分
・「職員に、職が奪われるとか働く場所が無くなるということはさせない」と言っている部分

「皆さんが不安になるようなことは絶対にない」「大丈夫です」という言葉を言っているのですが、具体的には?の説明が全くないからこそ、もうすでに不安や批判は出ているのです。

相手からの安心を得るためには、根拠を示さなければならないでしょうし、人は根拠や具体策がないところで言われても、不安になるだけなのです。

裁判が始まったらいろいろな情報が出てくるからと、裁判の内容を知っているかのようなことですが、もし、かながわ共同会にとって不利な情報が出たとしても、不利な情報というのは植松被告側の弁護のため当然出てくるとの認識で考えればよいだけのことですし、もしいろいろなことが理由づけされたとしても、人に刃物を向ける理由にはなりません。
もちろん、指定管理短縮にも結びつける必要がありませんし、翻弄されることではありません。

知事は、石橋をたたいて、たたき割っているようにしか見えないのです。

指定管理を続けていく間にさまざまな良くない情報が出てきたら、必要に応じて、指定管理制度の改善手続きに沿って対処すればよいことです。今まで決まっていた決断が揺らいだりせず、指定管理者制度モニタリングの委員たちからの説明が求められた際にも、県が委員たちの不安をかき消すくらいの確固たる信念をもって、津久井やまゆり園の関係者を守ろうとしていくことだと考えます。
県は指定管理をしていて随時モニタリングをしていたはずなので、自分のところの職員さえも蹴落とすつもりなのかと勘繰ってしまいます。

また、ここまでオブラートに包まれ、黒岩知事しか知らないような内容と見えるわけですから、県の厚生常任委員会での様子では、県の担当者も知事の意図をよくわかっていないようお見受けしましたし、公的な決断であるなら、これを運用する部署がわかっているべきです。

余談ですが、もし、何らかのことで黒岩知事にもしものことがあってトップ交代になった場合に今進めようとしていること(ここでは指定管理期間短縮)が、だれも何もわからないというようなことは避けるべきですし、制度があって運用をすることで公平性が保てられるわけですから、それに則らない決断はどんなに良い決断だとしても、納得は得られないことです。トップなのですから、そこまで考えて行くべきなのですが、今回の件は知事が独走していることで、誰かが引き継いでやれるような案件ではないとお見受けしました。手続きは踏みましょうよ!

つまり、通常の指定管理制度に則り行ったとしても、裁判で良からぬことが出たとしても、神奈川県が壁になり、津久井やまゆり園の関係者を守る立場になれば、指定管理に大きな影響を起こすものではなく、引っ越しして落ち着いてから、2025年度に合わせて指定管理制度に則って、通常の運営法人を選ぶことしていくことでも、何ら問題はないことなのです。

そして、不安になっているのは入所者やご家族だけではありません。
職員が多くの困難な状況の中でやっていることに評価をしつつ、蹴落とすような真逆の判断をしているわけですから、職員たちのモチベーションが下がったりすることを私は非常に恐れます。

今までやってきたことが無駄だったのではないかなどの気持ちを持ったり、職を手放すということに結びついてしまうようなことになれば、日本の国としても大きな損失になると考えます。
辞めないで利用者に寄り添ってきた職員たちが、知事のひとことで、自分たちの存在を否定されたように取ってほしくはないのです。

事件があってダメージを受けている入所者・ご家族・職員に対して、知事はセカンドダメージを与えているのです。

9.黒岩知事の発言の評価点

あえて第三者的に評価する側からも考えてみたいと思います。

なんだかわからないことだらけではありますが、何かを知っているからこその自信に満ち溢れた言葉があります。
今回の「指定管理期間を短縮するということ」と、「津久井やまゆり園を守る」が私には直結する想像力が足りませんが、本当にそのために言葉を発したのであれば、その気持ちはありがたいことだと思います。

その中で評価をしたいのは、
・「職員が一生懸命やっている姿に感動した。仕事ぶりを評価している」
・「利用者のための福祉じゃなくて、利用者おひとりおひとりの目に立った福祉を作っていきたい」
と言っている部分です。

職員の現場をそんなに見ているわけではないと思いますが、県の職員からの報告からなのか、職員はよくやっている・がんばっているというあたりの評価をし、12月14日には、そのことを何度も発言しています。
そこの評価が間違っていないことは、うれしく思います。
でも、だからこそ、改善が終わった身体拘束の話を出すのは不思議ですし、もっと職員の良くやっている部分を社会に向かって堂々と前面に押し出すことをしてほしいと思うのです。

そして、「利用者のための福祉」と「利用者の意思を尊重した福祉」の違いを理解しているようにお見受けします。

このことは、津久井やまゆり園だけのことではなく、「神奈川から発信して新しい福祉のあり方をみんなで作り上げたい」としています。ただ、こちらも、津久井やまゆり園からではなくてもいいでしょ?とも思いますが。
(事件があったから、とか、津久井やまゆり園からでなければならない理由は不要という意味です)

一般的に、利用者のための福祉と思ってやっている支援は、支援者主導の福祉の場合が見受けられます。
良かれと思って、意思を尊重しなかったり、「あなたのために」と言って虐待が起きている施設は後を絶ちませんし、私の法人にもそのような相談が、全国から入ってきます。

利用者おひとりおひとりの目に立った福祉とは、今津久井やまゆり園で行われているような、意思決定支援を中心とした、ご本人が納得したか形での暮らし方を提案でき、そのためにその人が求める支援をきめ細やかにするべきですし、かゆいところに手が届くような支援ができればようなと思っていますし、そこには津久井やまゆり園の職員も一緒に作り上げたいというニュアンスで話していますので、そこは評価できるポイントになります。

ただ、先ほども書きましたように、そのことで注目を浴びたいだけなら、津久井やまゆり園を実験台のように使ってほしくはないのです。
そして、どこでもきちんとやらなければならないことですし、今、意思決定支援が進んでいる施設に対して課題を与えることでもないと思います。

さらに疑問なのは、かながわ共同会を指定管理から外して、職員たちと一緒に作り上げたいといううことは働く場を確保しようとしているようですが、他法人への出向の形なのか、どんな方法なのかはわかりませんが、意図は評価できても、やり方はよいとは思えません。

職員は「知事所有の駒」ではないのですから。

良いことを話しているので評価したい部分はあるのですが、全体の整合性などを見ていくと、残念ながら、どうも課題があると思いつつ聞かざるを得ない状況です。

自分がしたいことというのは想いだけでは実現しません。実現するための方法などは、やはり動く人たちが納得できるものにしていくことを最初にするべきだと考えます。

10.おわりに

今回書いたことについてはできる限り、津久井やまゆり園から聞いたこと以上に情報を収集して書いているつもりです。
黒岩知事の発言には、不明な点も多くありますから、この後、明確になってくる際に、自分が得た情報が、古くなるということもあるでしょう。
なにしろ、今の時点では非常に信用度が低く、具体的ではない発言だということです。

それでも、今日現在考えていることは時代を映すものとして、取っておくことになると思っています。

津久井やまゆり園に関係する入所者・ご家族・職員の皆さんが、3年半の間にいろいろとご苦労されたことをこれを読まれた方は知ってほしいと思います。
そして、津久井やまゆり園皆さんには、外部からいろいろ心無い意見にご自身を責めないでいただきたいですし、職員は自信を持って支援をしてほしいですし、入所者の皆さんがご自身の意思をもって暮らすことをしてほしいと思いますし、ご家族の皆さんも亡くなった方のご家族も、できるだけ平穏な日々を過ごしていただきたいと思っていますし、そのために私は津久井やまゆり園には応援を続ける次第です。

ですから、私同様に津久井やまゆり園を応援してくださる人が、一人でも多くなってほしいと思います。

施設というのは、できないこともあります。でも、理想や目標に近づけようと努力をしているところもたくさんあります。
一部の批判的な意見の際には、良いところを全く抜きで考えられることもありますが、良いところと悪いところは、あると思ってください。
意見があったり、評価を得た際に変えようと思える集団であることは、改善の方向に行ける良い事業所です。

だれにでも間違うことはあり、その過去をいつまでもつつくことが福祉をよくするのではなく、これから先をみて、理想や目標に向かって日々精進・日々改善をするために、外部の皆さんは応援をしていくことも大切なことだと思うのです。

私の法人も日々、利用者のみなさんの評価を受けつつ、間違っていたり改善するべき点はスタッフ一同で検証して、より良い支援を進めていこうと思っています。
今日やっていたことが正しくても、明日にはもう使えない支援であることもあります。利用者の皆さんの暮らしというものは、日々流動的ですから、当然のことです。

そのような流動的な暮らしに、柔軟に考え応用を利かせ、ご本人に確認しつつ、寄り添う姿勢や見守りをしつつ、ご本人が納得する暮らしを支えたいと考えます。

長文をお読みいただきありがとうございました。
私は黒岩知事の発言に反対の立場を持ち、今後とも、社会福祉法人かながわ共同会および津久井やまゆり園を応援していきます。

2019年12月24日
特定非営利活動法人サポートひろがり
代表 山田由美子

なお、この記事に対してサポートを受けた際には、津久井やまゆり園の月命日のお花代とさせていただきます。
2年にわたりお花代を集め、284968円になっております。
亡くなった方に想いを寄せ、何かがしたいとおっしゃって下さる方は非常に多くいらっしゃいます。
事件があって、心が苦しい方もいらっしゃると伺っております。
園の式典で利用者のおひとりがお花を手向けた後「(○○さんと)お話ししたよ!」とにこやかにお話しくださったことが印象的でした。
みなさんの心の中には、きっと千木良の地で皆さん四季を通じて暮らした風景があるのだろうなあと思っています。
毎月の花は、四季折々のかわいらしいお花を職員が選んでくださっています。

11.参考資料

2019年12月5日神奈川県議会黒岩知事発言

2019年12月10日神奈川県議会厚生常任委員会録画

2019年12月13日神奈川県議会厚生常任委員会録画




私の記事への応援をありがとうございます。知的障害がある人のしあわせにつながるための資金とさせていただきます!