マガジンのカバー画像

ベッドルーム・シンドローム

9
作: 結友 イラスト: 橙怠惰 ラプターオリジナル「ベッドルーム・シンドローム」シリーズの台本、連載小説を集めました。
運営しているクリエイター

#レトロ

【連載小説①】1979年初夏、ドーの話。/ DOE DEER, WHAT’S THE MATTER??

作: 結友 イラスト: 橙怠惰 1. 二日酔い 頭の右側が「ゴツン」とガラスに当たった。ドー・ディアーはダンベルのように重いまぶたを持ち上げ、目をぱちくりさせた。 さてさて、自分の体がちゃんとあることを確認しよう・・・髪の毛、首すじ、汗をかいた手のひら、シャツ、ジャケット。 感覚ってのは遅れてくるもんだろ。右手に目を落とし、グーで固まった指をゆっくりと開いていくと、ようやく体がうまく動かせるようになってきた。ドーはホッとした。鼻先がガラスに触れ、冷たさがくすぐったく身体

【連載小説③】1979年初夏、ドーの話。/ DOE DEER, WHAT’S THE MATTER??

前作はコチラ。↑ 作:結友 イラスト:橙怠惰 5. タルーラ・バルバ バー&ラウンジ「サテライト・オブ・モニカ」は、朝10:00からしっかりと酒を提供する数少ないバーのひとつだった。ヴィクトリア調と今風の飾りを混ぜたようなテーマの店で、マスターは短気で、気さくなおじさんである。 ドーはべっこう色のドアを開けると、見慣れた顔のあるカウンターの方へ歩いて行った。 開店後すぐだったため客は一人もいなかった。マスターはしかめっ面をしながらビールサーバーを磨いていたが、ドーの顔を見

【連載小説④】1979年初夏、ドーの話。/ DOE DEER, WHAT’S THE MATTER??

前作はコチラ。↑ 作:結友 イラスト:橙怠惰 6. ゴースト ドーは無表情のまま店の外へ出た。 口のなかで血の味がしてから、自分が力強く下唇を噛み続けていたことに気がついた。ドーは立ち止まって、車が行き交う目の前の道路を突っ切ることに決めた。なんでも突き飛ばしたい気分だった。 しかしこの街では、外へ出るとやわらかいものなんて一つも見当たらない。どこもかしこもでっかい鉄の塊ばかりだ。 何を蹴ったって自分の体のほうが吹っ飛ぶんじゃないかとドーは考えた。自暴自棄なのは分かってい

【連載小説⑤】1979年初夏、ドーの話。/ DOE DEER, WHAT’S THE MATTER??

前作はコチラ。↑ 作:結友 イラスト:橙怠惰 7. ベールを剥がせ その日は熱帯夜になった。 スターウッドに到着したコズモとAJは、活気ある空気に熱く皮膚を焼かれるのを感じていた。煙たさから息継ぎをしようと上を向くと、暗闇に1920年代風のネオンサインがギラギラと映えているのが見える。会場のドアが開き、人々と蒸気がさらに入り口へ流れ込んできた。前座がちょうど終わった後らしい。 二人は会場を見渡した。もしかしたらドーがいるかもしれないと思ったからだ。 すれ違う大勢の頭を見

【連載小説⑦】1979年初夏、ドーの話。/ DOE DEER, WHAT’S THE MATTER??

前作はコチラ。↑ 作:結友 イラスト:橙怠惰 9. ドーのドア ドーたちはその後、24時間営業のダイナーに行った。 AJとコズモは小さなワッフルを注文し、向かいに座ったドーはチーズバーガー、ポテト、チキンリブ、シナモンロール、コーラを詩の朗読のようにわざとらしい深い声で読み上げていった。 AJは腕時計を見る。もう夜中の12時半過ぎだ。こんな時間に……。 食べ物が届けられた瞬間、ドーは何も言わずに包みを乱暴にあけ、バーガーにがっついた。そして飲み込む前にポテトへと手を伸