サナギのゆめ

雲ひとつない青空の先、
ワシがくっついている木が細かに。

ざわざわと風が吹いて揺れておりました。

ひらひら、ゆるり、ひらゆると。

木から離れて流れる緑葉たち。

何枚落ちたかわからんのは、
ワシが今のこのカラダのままじゃと、
ぼんやりと意外では、
ようと目が見えんからじゃが。

だからこそ、ただ、
ただ感覚でしか測りきれんわけで。

そんなワシをつつくかのように、
いくつかの葉がワシに向かって言う。

「やーいやい、 
じっとするしかやることのないにぶい虫」

「そとの移り変わりも知らないにぶい虫」

「今からボクたちは柔らかい場所に流れるぞ」

やかましい。
とてもやかましい。

今は耐えて準備をするのが一番で。

今は知らなくとも、知れるときは来るわけで。

今はワシの中身のほうがやわらかいわい!!

言い返すことが出来んのならせめて、
小さなボケくらい、自分の中に吐いて待つんじゃ。

昔見た空は、雲が多くて、
いっつも雨がふっとった。

花の近くまで散歩しとったら、
長い何かを傾けて、
人間が雨を降らせたりもあったなあ。

驚いて葉っぱ食べながら逃げたけど、
自然ってやっぱりこわいんじゃわ。

そういえば雨が降ったあと、
綺麗な、まあるい橋がみえとった気するけど、

動けるようになったら、
またあの、まあるい橋、
見れたらええのう。

気がつくと、
喋っていた葉っぱはみんなどこかに飛んでいて、
また風がカラダを揺らすのを、
ドキドキしながら耐えていて。

「なんじゃただのそよ風かい。」

そう呟きながら、
いつのまにか、
ぐっすりと眠っておりました。

カラダが動かせるようになったころ、
ピシピシとパキパキときゅうくつなカラダに押されるようにして殻にヒビが入っていきました。

寝起きにしては強烈な暖かいひかりが、
じりりとカラダを包んで、
一匹の彼は起きました。

なんなっ……眩しいなあ。
先の鋭い神成(かみなり)か??
落とされたらバタっと倒れるわな……。

あ、成長して鋭くなったのはワシやったわ。
がはははは!!

こうして、超絶意味のわからないボケをかまして蝶になった彼は、バタバタと動いたあと、
フラフラと飛ぶ練習に、やる気を出していたのでした。

この数日後、羽化して初めての雨に出くわして、
彼が見たかったきれいな橋の景色をみるのは、
あと数日のことでした。

【おしまい】

柔らかい声が聞こえて、
誰かが俺の名前を呼んでいる。
「サナギダさんっ!!」

ハッと目を見開くと、
そこには、目に涙を溜めながら見守る。
同僚の【ヒナ】の姿があった。

あ、そうか、そうじゃった。
恐らく……買い物中に誰かから逃げているところを目撃した俺の前で、
スッ転んだこの子を庇って、
敵と交戦したんじゃったわ。        

いやはや、しかし変なゆめじゃったのう。

はっはっは。

あー、いてえ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?