しゅわしゅわと溶けていく
青空に浮かぶ太陽と、
闇夜に浮かぶ満月は、
どうして切なく感じる時があるんだろう。
ダンダンと、ボールが床に着く音がして、
音を感じた時にはもう、
すぐに跳ねて、小さな空中を経て、
手に戻る。
誰がいても、いなくても、
独りでいても、練習と同時にボールは転がっていく。
一人きりの練習で寂しさを感じるか孤独を感じるか、
より集中できることに、
熱を込められるかは多分それぞれだと思う。
さあ、練習を終わろう。
朝の陽がわたしを通るときも、
昼の風がわたしを撫でるときも、
夕方、落ちていく陽がわたしの後ろを射すときも、
夜の原っぱで街灯を眺めながら歩くときも、
どこかには確かにひかりがあって、
何かが照らされているのに、
もしかしたら、いまのわたしを照らしているものは、
何もないのかもしれない。
そんなこと考えもしないけれど。
何かの匂いに気がついてハッとした。
そうだ。
今日はお祭りだったっけ。
私服をきて歩くのも、
浴衣を着て歩くのも少しずつどちらにも興味があったし、
もしかしたらどちらも経験しているのかもしれない。
出店の提灯や明かりの中でひときわ大きな袋があちらこちらに揺れている。
色々な柄やプリントがしてあって。
大きく大きく膨らんであるのは、考える間もなくわたあめだった。
木の棒のついた食べ歩きが出来る方を買うか、
それとも袋にはいっているモノを買うか、
そんなにではないけれど少しだけ迷ってしまう。
おずおずと千円札を出して綿あめを買う。
お釣りをもらって、木の棒に巻かれている大きなわたあめを見ながら、
ゆっくりと、がやがやとした話し声や笑い声で賑わっている中を歩く。
もくもくと歩き進めても、
誰かが待っていることなんて――。
「待った? 」
誰かがそう声を出していて。
まさか自分に声をかけているわけじゃないと、思って気がつかないふりをする。
歩いて歩いて、歩いている。
ふと顔をあげると、わたしの前に。
太陽のひなたのように優しくて、
わくわくするような笑顔があって。
何をいったのか言ってないのか。
よく覚えもないけれど、
二人で手を繋いで、
がやがやとした場所から、
風の音だけが響く場所に行って。
「綺麗だね 」
そう言われて、満月をみた。
とても綺麗で夜空に透けて、
ゆらりと見えているようなおだやかなあかりの満月。
少しだけ切ないかもしれない。
繋いである手に力が込められて、
横を向くと、とても優しい笑顔があって。
気がついたら、
たくさんの声があって、
ユニフォームを着ていて。
そうだった。
今日は試合だったのか。
大きな声援の中で、
はっきりとわたしの胸に届いた声は、
また、ひなたのように優しい声で。
あの時にみたような静かな中ではないけれど、
あの時の満月に手を伸ばすように、太陽みたいなボールをゴールへと投げた。
「起きないの? 」
しゅわしゅわと溶けていく感覚があったのに。
また同じ声をきいて、
目が覚める。
今日は、確か、日曜日
顔の横には手から離れたスマホが一つ。
「誕生日おめでとう! 」その声がききたいだけなのに、
今はまだ彼からの連絡がきてない。
そう言われてから、
わたしの一日がまた始まるというのに。
その声を聴くまでわたしの誕生日はおわらないのだ!
切ないだけで終わらないのだ!
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