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英会話講師として活動してきた10年間の中での最高のレッスンの話

 僕は2010年から英会話講師として活動してきましたが、常に情熱を持ってレッスンをしてきた自負があります。

 今回はその中でも最高だったと思うレッスンの話をします。

 普段と違う環境の中、30人弱の生徒と向き合いそこに学びもあって一つの例として発信する場合には最高という意味で、僕との最高のレッスンというのは生徒さんの胸の中にそれぞれ存在していて欲しいと願っています。


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 僕がまだ広島県にいた頃、毎月2回、ある保育園の年長さんクラス(1クラス30人弱)に出向いて50分間の英語のレッスンをしていました。日本語も使いながら英語でいけるところはできるだけ英語を話しつつ、毎回外国を1つ紹介して、身近な英単語や簡単な英会話を教えて使う練習をしたり、英語を使ってゲームをしたりしながら、英語に親しみを持ってもらって世界の中の日本、世界の中の自分という感覚を養って、楽しくやりながらも1年間の後半になると単語ごとに分かれたカードで、I want to drink water. などの英文が作れるようになるというカリキュラムでやっていてとても好評でした。

 あるレッスンの日の事です。いつもなら、僕がドアを開けて入っていくと皆が僕の方を見て「ティーチャー」とか「ハロー」と言ってレッスンに対する期待感を示してくれる子達が、この日は僕が入ってきてもそれぞれにワイワイガヤガヤ思い思いに騒いでいました。いつもの担任の先生がお休みで別の若い先生が急遽対応していたのですが、上手くコントロールできずにいるようでした。この日は園の様子を定期的に観に来て評価・アドバイスをしてくれる方もいたので、それで尚更普段と違う環境になってしまったのかもしれません。

 僕はこういう時に子共たちを集中させるのには自信があったので、何とかなるだろうと思っていましたが、レッスンが始まっても中々子どもたちは集中してくれません。普段は優しいけど怒ったら怖い園長先生が来ても子どもたちの様子は変わりません。僕は様々な方法で状況を変える為に努力し続けましたが、子どもたちのガヤガヤソワソワした感じを戻す事ができずに30分以上が過ぎてしまいました。僕は覚悟を決めました。

「みんな、ごめん!どうしても聞いて欲しい事があるから聞いて!」

 子どもたちの動きが止まって一斉にこちらを見てくれました。僕は続けました。

「今日ね、ティーチャーみんなと会ったらあれをやろう、これもやろうって家で考えて凄く楽しみにして来たんだよ。でも教室に入ったらみんなザワザワしてて、いつもはティーチャーがやっと来たって感じで喜んでくれてたのに今日は違ったよね。A先生(担任)がいなくていつもと違う感じだからかなとか思いながら、ティーチャーは準備してたことをやってきたけど、多分今日やったことは皆の心の中には残らないよね。だって真剣に聞いてなかったから。ティーチャーは今すごく悲しい。園長先生からみんなに世界のことや英語の楽しさを教えてあげてくださいって頼まれて来てるのに、今日はそれができなかった。ごめんね、ティーチャーがもっとみんなが聞きたくなるようなことを言ってあげれたら良かったけど、これが今のティーチャーの精一杯なんだよ。ごめんね」


「ティーチャーは悪くない!」
「僕たちがおしゃべりしてたから」
「私たちが悪い!」
「ごめんねティーチャー!」

 一人の子が言ったのをきっかけに子どもたちが一斉に思いの丈を言ってくれました。ほとんどの子が泣いていました。僕は子どもたちが僕を守ろうとしてくれてる事に感動しました。

「みんなありがとう。すっごく嬉しいけど、やっぱりティーチャーももっと頑張らなきゃって思ったよ。ごめんね。じゃあさ今日はあんまり英語できなかったけど、最後に英語でごめんなさいを覚えよう。ごめんなさいは英語でアイムソーリーと言うんだよ。ティーチャーはみんなを楽しませられなくてごめんねって謝るから、みんなはお話聞かなくてごめんねって謝ろうか」

僕: I'm sorry.
子どもたち: I'm sorry.

僕: よーし、じゃあもう涙はふいて。最後にトレイントレインを楽しくやって終わろう!Are you ready?
子どもたち: Yes!

 こうして僕たちはじゃんけん列車の英語版をやって気持ちを切り替えレッスンは終了しました。

「今日はいつもみたいに沢山英語で遊ぶことはできなかったけど、ティーチャーが一生懸命やっている気持ちを話せたし、みんなの気持ちもわかったし、とても嬉しかったです。今度からはまたこれまでみたいに楽しく英語で遊べるよね?」
「うん、できる!」

「アイムソーリーも覚えたと思うから、もしおうちで悪いことをしちゃったときには使ってみてね。じゃあ終わります。Thank you very much and see you next time!
"Thank you very much and see you next time! "

 レッスンのあと、この日いたアドバイザーの方から「素晴らしいレッスンでした。あれだけ滅茶苦茶な状態だった子どもたちを叱らずに、子どもたちに考える機会を与えて子どもたち自ら間違いに気づかせるとても勉強になるレッスンで感動しました」と絶賛していただき、園長先生からも「今日はあの子たちが人として大きなものを学ぶ結果的には良い時間になりました」と声をかけていただきました。


 学級崩壊のような状態だった子たちが何故自らの間違いに気が付けたのか、まずは僕自身が素直に自分の力不足を感じて謝った事で子どもたちは驚いたのだと思います。そこで子どもたちが考えるきっかけが生まれた。子どもたちは普段親や先生等の大人から真剣に謝られる経験をした事があまりありません。だから何故この大人は真剣に自分たちに謝っているのだろうかと考えたのだと思います。

 もう一つ、子どもたちに  "I'm sorry"  と言わせたこと。本当に申し訳ないという気持ちで  "I'm sorry"  と言える経験はそうそうありません。英語で言葉に魂込めて相手に届けるという経験は、レッスン時間を35分間捨ててしまった凹みを取り返せたくらい価値があります。常に子どもたちにとって良い学びになる事はないか考え続けているからこそ無意識に臨機応変に動けたのだと思います。

 そして、最後はじゃんけん列車英語版で楽しい気持ちになってレッスンを終えたこと。最後に嬉しさを感じて終わると次回が待ち遠しくなります。


 という訳で、これが僕史上最高のレッスンの中身になります。このレッスンの話を皆さんにする事で何を伝えたいかと言えば下記の4点になります。

子どもと同じ目線に立って話す事の重要さ
(上から目線で話すよりも子どもの心に響きやすい)

子どもは大人に真剣に謝られた経験がない
(相手が子どもでも悪い時には謝ろう and 怒るより謝った方が子どもに響く)

感情を込めて英語を話す機会を逃さない準備
(常に子どもたちが感情を込めて英語が話せる機会を求める姿勢の重要さ)

未就学児でも話せば理解できる
(最初から子どもだからわからないと決めつけない)

 3,4番目に関しては僕が積み上げてきた経験から大事にしている事ですが、上の2つは僕の中学校の先生から学びました。

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 中学3年生の時の話です。昼休みのあと最初の授業は担任の先生が担当する理科の授業でした。僕は理科室に移動して授業の始まりを待っていましたが、半分くらいの生徒はまだ来ていませんでした。そして授業開始の時間になって先生がやってきました。

先生: これだけしか来てないのか!

 すると、そこにぞろぞろと残りの生徒たちが教室に入ってきました。

先生: A(女子生徒)!学級委員のお前が授業に遅れてきて何考えてるんだ!

 Aさんは先生に怒鳴りつけられて泣き出してしまいました。

僕: 先生、Aは授業が始まる前にちゃんといたんだけど、半分くらい来てないから、学級委員の責任を感じて始まる3分くらい前に呼びに行ったんだよ。謝れよ。

先生: A、そうなのか?

Aさんが泣きながら頷きました。

先生: A、先生の勘違いだった。お前が責任感が強い人だと知ってたつもりだったのに、半分近くが来ていないのに腹を立てて冷静な判断ができなかった。悪かった。

 そう言って先生は深々と頭を下げて謝罪をしました。僕はその時、大人が子どもに真剣に謝る姿を初めて目の当たりにして衝撃を受けました。正直に言うと、先生の事をカッコいいと思いました。その時に、先生のように自分が間違えてしまった時には相手が子どもでもしっかり謝れる、上から押さえ付けるのではなく子どもと同じ目線でものが言える大人になりたいと強く思いました。

 

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 再び話は変わって、僕がオーストラリアに留学していた時の話です。当時16歳。オーストラリア人が通う現地校以外に、日本の小中高の授業を学べる日本人学校(通称土曜校)が土曜日に僕が通う高校の校舎を使って行われていたので、僕は日本人の友達と遊ぶために昼休みに顔を出していました。

 ある日、ランチタイムなのでマクドナルドで食べ物を買って土曜校に行くと、小学2,3年生の男の子に話しかけられました。

男の子: おい、留学生!

僕: なんだよ。

 僕は、なんか生意気なガキだなと思いながら返事をしました。

男の子:  お前、親と一緒に住んでないんだろ?

僕: おお、オーストラリア人の家にホームステイしてる。

男の子: お前日本食、食べてないだろ?俺の弁当のおかず食べて良いよ。

 口の利き方を知らないガキだと思っていたその子は、僕の日本食の無い生活を想像して自分のお弁当を僕に差し出したのです。

僕: 俺が食べちゃったらお前困るだろ?

男の子: 俺は家に帰れば日本食いつでも食べれるからいい。

僕: マジで!じゃあこの焼き魚と玉子焼きもらっていい?代わりに俺のチキンアゲットあげるよ。ありがとう!

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 今でこそオーストラリアで日本食が流行っているので簡単に食べられますが、当時は決して安くない日本食レストランに行かないと食べられない時代で、常に日本食に飢えていた僕にとっては本当に嬉しい申し出でした。

 僕が最初に「おい、留学生!」と言われた時に、「うるせえクソガキ!」と言ったり、無視してたら彼の思いやりに触れる事ができなかったかもしれません。

 この時に、人の言動や見た目など上っ面だけで決めつけてしまうのは良くないと学びました。同時に、僕自身が中学の時タメ口をきいても、僕としっかり向き合ってくれた先生はやはりカッコいい大人だったと再確認しました。


 このような事が色々とあり、今の僕が形成されていきました。

 ちなみに今回登場した中学の先生とはずっと交流が続いており30年前から変わらず尊敬してやみません。

 2010年に僕が突然英会話講師になり子どもたちに教え始めたのも、ずっと追い求めていたカッコいい大人である先生の存在があったからだと思います。

 そして僕が25歳くらいの頃、先生が出張のついでに会いに来てくれて一緒にお酒を飲んだ時に、先生になって後悔した事はないか尋ねたら「後悔はしてないけど、自分の子どもたちそっちのけで生徒の事ばかりに一生懸命で、自分の子どもとは沢山時間を過ごせずに大人になってしまったのは申し訳なかったと思っている」と聞いて、僕は自分の子どもたちとの時間を沢山作ろうと思い、そして数年後に長男が生まれ、英語子育てを始めたのでした。

 これからも先生のような立派な教育者を目指して頑張りたいと思います。


 最後になりますが、何故僕が学級委員のAさんが時間通りに来てたのに再び理科室を出て行ったと知っているかというと、ちょっと好きだったから気にして見てたという事にほかなりません(笑)

Thank you for reading^^ 気に入ってもらえたらSNS等でシェアしていただけると嬉しいです♬ これからも英語教育に限らず日本の子供達が楽しく日々過ごして世界に羽ばたける環境づくりに全力で取り組んでいきますので、応援よろしくお願いしますm(__)m