博士卒が企業で働いてみた
こんにちは。てぃー(Twitterアカウント)です。
博士取得→企業就職がそろそろ一年経ちます。今回は博士課程で得た能力が企業にどう活きたか?について話していきます。
※注意点
●n=1(個人の感想)
●職種・部署・ 上司同僚などのバイアスはあります
( なるべく抜くようにしているつもりですが やはり入ってしまうと思います)
また、
●博士課程で得た能力
=修士・学部でも得られるが、博士過程の方がより得られやすい能力
という感覚でお願いします。
1. 勉強への抵抗がない
御存知の通り、研究は常に新規性を重要視されるので、今までの自分の作業を繰り返し行っていけば良いというケースは少なく、新しい知識への習得がより必要です。
その中でやはり勉強への抵抗感というのは少なくなっていきました。具体的には「わからん」→「調べるか!学ぶか!」っていう行動への抵抗がとっても少なかったです。
ですが、会社に入ってある同期の話を聞きました。
同期の上司「(~なプログラミング能力が必要な)プロジェクトをやってみない?」
同期「教えてもらえるならやります」
同期の上司「そうだよねー。今教えられる余裕がないからまた今度だね」
と答えたそうです。
これは自分なら、休みの期間とか通勤前後で専門の書籍を一冊買って読んでみて事前に学習したり自分で学習したりして知識は身に付けてやっていける と想定して「はい!やります」と答えていたと思います。
現に自分の場合は、多少知らなかったりすることでも、上司からのチャンスにはポジティブに答えているせいか、チャンスがよく回ってくる気がします。
※もちろん、同期の答えも正論なので劣っているというわけではありませんのはご注意ください。
2. 言語化能力に秀でている
言語化能力は論文執筆時に身に付いたなーと実感しております。
企業で一番活きると感じているのはこの能力です。(自分の周りは)「自身の感覚や起きている現象を言語化して伝える」ことには、 壁を感じている人がとても多い印象です。理由として、言語化してさらに文章化するといういろんな障壁がある上に、そもそも言語化が得意ではないというか経験が少ない?と考えています(詳細はわかりませんが...)
そのため、この言語化はとても狙い所(ブルーオーシャン)になると考えました。 「周りの人が苦手、自分が"ちょっと"苦手 」だと相対的に「自分は強い」ので、 言語化を活かした仕事は自分の得意分野になります。
3. 他人との差異化をする
これは研究を通じて得た考え方を応用したという感覚です。研究の新規性のアピールの仕方を自分に置き換えたときにどういう事をアピールできるか?
「 自分の研究が他の研究と違うところは?どう活きる?」
↕ (自分↔自分の研究、他人↔他の研究 と置き換える)
「自分が他人と違うところは?どう活きる?」
研究における自身の研究の優位性の見つけ方をそのまま自分のキャリアの優位性や会社の志望動機の理由の探し方や、会社内での自分のポジションの確保にそのまま使えると感じました。就活の時から、この能力は活きているなと感じていました。
4. 分野で覚えた概念を使いまわせる
(会社に入るも含めて)キャリアが変わると昔と全く同じ分野をっていうケースは少ないと思います。 少し共通項がありながらやはり新しい分野を踏み出していき、そこで新しいこと学ぶケースも非常に多いです。
ですが世の中って共通している概念がたくさんあります。
例えば
トレードオフ
絶対どこかをよくしたらどこかが悪くなる
これはどの分野でもよく使われる概念です。
このような共通している概念が、 実は博士課程で勉強をしている中で結構蓄積されてるんですね。それは新しいことを学んだときに「 あ!この新しいことは実は過去に学んだ~と一緒じゃんっていう」 という感覚が芽生えます。
それを感じる機会が非常に多かったです。 特に博士課程の時に学んだり考えた概念がフラッシュバックする機会が非常に多かった感覚です。
色々な分野の色々な概念を学ぶというのは、 直接的にすぐ使えるわけではないんですけど、ふとした時に地味に効いてくるなと感じました。
5. 仕事へのモチベーション捉え方
ライフワークバランスと言えばいいのかライフアズ ワークと言えばいいのか、 博士課程中の研究と私生活の線引きというのが確立されてくると思います。
誰にも強制されない中で自分なりの線引きが、3年もしくは5年の中で醸造されます。
その上で、 仕事にはどの程度自分の精神的エネルギーや資源を割けばいいのかというバランス感覚が他の人より長けてる(経験がある)と感じました。
6. 「考えて散らかしてまた考える」という抽象化の過程を学んでいる
「2. 言語化能力に秀でている」と被る箇所はあるのですが、解決したい問題に対して、さまざまな情報を集め散らかして、問題解決までの論理を組み立てていく。 いろんな角度から検証して、 ダメだったら また組み立て直す。
これは文字で見ると当たり前に感じるかもしれませんが、実際に行うと難しく、自分が今どの状態に居るかを認識できていない人も多く見受けられ、学部・修士卒の同期より多く経験を積んでいるなーと感じました。
7. 議論ができる
議論とは下記のように今回は定義しています。
議論ができる=「問題点」と 「着地点」を認識する。そしてこれらをアウトプットしていく。
「自分は何を問題点にしてどういうことが聞きたいのか?」「聞きたいことを文章化・言語化する」「自分の中の問題点がちゃんと定義できる」とこのような流れで自分の中でまとまって、他人(上司や同僚)に自分の意志を伝えられるというのは、博士課程で頻繁に行われた良いトレーニングでした。
「君は何が聞きたいの?」のような今まで不都合が少ないのはこのトレーニングの恩恵だと思っています。
※相手の理解力・洞察力が高いのももちろんありますが...
8. 企業就職で失われていきそうな感覚
ここからは、個人的に感じた企業で働いていると博士の頃より失われそうだなーという感覚を紹介していきます。
8.1 主体性
研究室と企業の規模感・スタイルをざっくりまとめてみると下図のようになります。
企業はチームプレーなので、 個人でやるよりも規模感が大きいことができるというメリットがある反面、 自分がどのくらい 全体の成果に対して寄与している 自分の仕事が「どれくらい重要」ということが実感しづらいです。
一方、研究室は小規模な分、自由度も高く、自分で考えたからこそステップやその実験の意義を深く理解できる、というメリットがあります。
極端な話、 自分で全体像を見据えたからこそ、 「この実験の重要度」はとてもわかると思うんですけど、 もし企業で上司から降ってきて「ただの作業」になってしまう。 だから考察が深まるようなデータも出せない。
というようなことが 比較的起こりうるのかなーと感じます。
※ そういうことを防ぐために、 前後の背景や全体のポジションなどはなるべく意識はしているつもりですが「傾向」としての話です。
なので主体性は失われやすい環境とも感じられます。
8.2 なんでこれが起きたか?
どこまで言い方が合っているか分からないですが...
企業は営利目的です。時と場合によっては、「納期や期限」が「なぜ起こったか?」より重要視されます。必要最低限で出してしまう ケース も少なくはありません。
私は、企業に入って
●博士課程ほどじっくりと腰を据えて考えられる時間がない
●「なぜ起こったか?」を重要視する人も(アカデミアより)多くない
というのはとても感じます。そのため、傾向として有り得そうだなーと思いました。
8.3 初心者への説明する機会が少ない
これは結構部署によるんですけど、 仕事を貰ったり 仕事を引き継いだりする前後の人や部署が固まってくる(=似たような分野の人)ため、ある程度の共通や専門用語が通じてしまう。
その環境に数年いると「初心者への説明」という経験が少なくなってしまうので、簡単な単語での説明とか全くバックグラウンドが異なる人への説明が苦手になってしまいそうだなーと感じました。
以上になります。
おわりに
今回は博士課程を卒業して企業に入り1年経ったタイミングで、博士課程で得た能力で活きているなーと感じたものを列挙しました。
完全な個人の感想ですが、博士課程での3年間は社会人3年とは全く異質の経験であり、入社してからアドバンテージになる部分も沢山あると感じました。
D進を考えている方や在学中の方の励みになれば幸いです。
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