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デジタル民主主義の幕開け〜2024年東京都知事選挙におけるAI活用〜

2024年の東京都知事選挙において、AIの活用が注目を集めています。複数の候補者がAI技術を選挙戦略に取り入れ、従来の選挙活動に新たな展開をもたらしています。本記事では、主要候補者のAI活用事例について紹介します。


小池百合子氏

小池陣営は「AIゆりこ」と呼ばれる動画を公開しています。これは小池氏の動画や声をAIに学習させて作成したキャスターが、都の政策を解説する内容です。小池氏は公務の合間を縫って実績をアピールする手段として活用しています。
「AIゆりこ」は後述する「AIあんの」や「【公認】AI石丸伸二」と違い、有権者からの質問に答えるのではなく、小池氏の政策を解説する点が異なります。

石丸伸二氏

前安芸高田市長の石丸氏は、「【公認】AI石丸伸二」というChatGPTを活用しています。このAIは石丸氏の考えやビジョンを都民に伝えるツールとして機能し、複雑な政治情報をわかりやすく解説することを目的としています。

「【公認】AI石丸伸二」に「少子化対策として何を行なっていきますか」という質問をしてみました。

【公認】AI石丸伸二の使用例

質問に対して、教育への投資・子育て支援の強化に取り組むべきだと回答しました。しかし、【東京都知事選アンケート】での石丸氏の実際の回答は「若年層の雇用・所得環境の改善に取り組むべき。」と回答しています。Chat GPT回答とアンケート回答には、ずれがあるようにも感じます。このことは、AIツールの活用には課題も残されていることを示唆しています。

安野貴博氏

AIエンジニアでSF作家の安野氏は、選挙戦では2通りの形でAIを導入しています。

AIあんの

1つ目が自身の公約を学習させたAIをYouTube上で公開し、有権者とのコミュニケーションを図っています。「AIあんの」と呼ばれるこのシステムは、安野氏のアバターと声色を使用し、YouTube LiveやVoIPを通じて有権者からの質問に回答します。

「【公認】AI石丸伸二」と同様の質問を「AIあんの」に質問してみました。質問はAIあんの匿名質問フォームとライブ動画のチャットからできます。

「AIあんの」の使用例

ライブ動画の左上には、質問に対応する「【公開】東京都知事選2024安野たかひろマニフェスト」の該当ページが表示されるようになっています。

質問に対して「少子化対策として、子育てにかかる経済的負担を軽減する施策を進めます。住まいの費用支援や教育費用の無利子貸付を拡充し、子育て環境を整えることで、安心して子供を育てられる東京を目指します。」という回答が返ってきました。このAI回答は公式マニフェストと一貫性があり、AIシステムの精度の高さを示しています。また、回答できない質問に対しては「その質問には答えられません。私はまだ学習中であるため、答えられないこともあります」と対応しています。

AIによるマニフェストへの質疑応答システムの詳細については安野たかひろ事務所 技術チームリーダーのnote記事をご覧ください。

ブロードリスニング

2つ目の「ブロードリスニング」は、有権者の声を広く集めて分析するシステムです。記事のコメントやSNSの投稿を分析し可視化します。これにより、様々な問題に対する有権者の意見を一斉に聞き、政策に反映させることを目標にしています。

実際に、「マニフェスト発表に対してX上に寄せられた声(6/25時点)」に関して、「社会福祉政策」に関するクラスターの概要と代表的なコメントが集計されています。これにより、有権者の意見を聞き、それを可視化する仕組みが実際に機能していることが示されています。

ブロードリスニングによって「社会福祉政策」を可視化している例

田母神俊雄氏

田母神氏は「AIを活用した目安箱」の設置を提案しています。この目安箱は、都民の意見を政策に反映させるためのツールとして位置付けられています。田母神氏は、現在の都政について「ほとんどの人が分からない間に決まるのはよくない」と批判しており、AIを活用することで、より多くの都民の声を効率的に集め、分析することが可能になると考えているようです。
ただし、具体的なAIの活用方法や、収集した意見をどのように政策に反映させるかなどの詳細については明らかになっていません。

まとめ

安野氏のAI活用は、政治と技術の融合の先駆的な例として注目されています。今後、他の候補者や政治家たちも同様の技術を採用する可能性があり、選挙活動や政策立案のあり方に大きな変革をもたらす可能性があります。
しかし、AIの回答と候補者の実際の立場にずれが生じる可能性や、AIへの過度の依存による人間味の欠如など、課題も指摘されています。
今後の選挙戦では、AIツールの精度向上や、AI活用と従来の選挙活動のバランスが重要になると考えられます。有権者の側も、AIを通じて得られる情報を鵜呑みにせず、候補者の実際の言動や政策との整合性を確認することが求められます。

■「TDAI Labについて」
当社は2016年11月創業、東京大学大学院教授鳥海不二夫研究室(工学系研究科システム創成学専攻)発のAIベンチャーです。AIによる社会的リスクを扱うリーディングカンパニーとして、フェイクニュース対策や生成AIの安全な利用法について発信しています。