『君たちはどう仮装するか』

「10/31火曜日のカラオケは、皆さん仮装してきてください」
グループLINEを目にした私は、やさしさではなく、緊張に包まれていた。

このカラオケは、想いを寄せるユミちゃんに一気に近づくチャンスであることは間違いない。

翌日以降、私はリサーチとして、U◯Jとディ◯ニーランドに独りで行った。思いのほか、アトラクションが楽しくてリサーチするのを忘れた。

気をとり直して、ユミちゃんが好きなジブリの仮装をするにあたり、どのキャラクターにすべきか熟考し始めた。

まずは王道のトトロをイメージする。ユミちゃんが抱きついてくるようなフカフカ感が欲しい。しかし市販のトトロ着ぐるみは、秋の涼しさは大丈夫だが冬の寒さには心許ない生地のボリュームだ。
これではモフモフ感が足りない。却下だ。

やはりかっこいいキャラにするか。そうなるとハウル一択だ。ウイッグは甘ちょろい。当日までにあの髪型にカットとカラーをすればよい。しかしどうだろう、もしハウルがユミちゃんの憧れであった場合、逆に逆鱗に触れないだろうか。好感度が海底2万マイルまで落ちる。実は先日ランドだけでなくシーも行っていた。却下だ。

ユミちゃんは見た目より、意外と新しいものが好きだったりする。【君たちはどう生きるか】か。
大変だ、まだ観ていない。
あのポスターか。そう鳥みたいな奴だ。あの鳥みたいな奴の恰好をして颯爽とカラオケのドアを開けて
「鳥ック・オア・鳥ート」
真夏の銀行の窓口なみの冷たい空気が流れるだろう。却下だ。
ちなみに前述したU◯JはUFJのことであり、ディ◯ニーランドに行く前にお金をおろしただけだ。もちろんUSJには行っていない。

考えることに疲れてきた。
こんなことを続けたら頭がおかしくなりそうだ。
狂いそうだ。凶悪な犯罪を犯すかもしれない。
どうも殺したくなって。
どうもころしたくなって
どうもころし。
とうもころし。
そうか、となりのトトロにでてきたトウモロコシ。
見た目はあれだ、ふなっしーみたいな感じでいいじゃない。
でも手作りしなきゃ。駄目だ、時間は有限、無理だ。
やはり却下だ。

その後も151種類くらいのキャラクターを思い浮かべたが、どれもしっくりこない。

そのまま時間だけが過ぎ、10月31日、仮装することを諦めた私はやる気もなく、コンタクトもせず家用の眼鏡をかけてカラオケに向かった。

少し遅れてしまった私はいつものカラオケのパーティールームのドアを開けた。

「おっ、お前マニアックだな。キャラクターじゃなくて宮崎駿監督にしたんだな」
友人から、そんな声が聞こえる。

「ホリッフ・オア・ホリーホ」

入れ歯が抜けてしまい、正しく言えなかった。
でも皆笑ってくれたから、いいハロウィンだろう。

ユミちゃんも、ハリポッターにでてくるマクゴナガル先生の仮装が似合っていて素敵だった。


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