『毒舌寿司』

「…将太。…ウチにきてから、何年になる?」

休憩中、突拍子もなく、ゆっくりな速度で親方が聞いてきた。

「今月で3年です、あっという間でしたね。」

「そうか…初めて会ったとき、3日で辞めると思った。…あれだ、【千と千鶴の神隠し】の女の子みたいに弱々しかったからな。…雇ったババアの気持ちがよくわかる。」

いきつけのスナックのママと混ざっている。たまにみせる親方のお茶目さが好きだ。

「…3年か、…そうだな、そろそろ握り方くらい教えてやろう。」

3年間、雑用と、罵詈雑言まではいかない程度の棘のある言葉に耐えたかいがあった。俺の職人への道、第ニ章が今日から始まるんだ。

「そういえば親方、今造っているこの店の名前、【毒舌寿司】ですって。絶対デートには使いたくないですよね。」

「…無駄口はそこまでだ。…まずはコイツの握り方からだ。」

そう言って、親方は使い古した金槌を俺に差し出した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?