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エース西山が世界陸上の経験で成長。スピードの太田も安定度が増し、選手層の厚さはチーム史上最高に【ニューイヤー駅伝展望コラム第5回】

 トヨタ自動車が7年ぶり優勝に向け、過去最高ともいえる布陣で臨む。
 23年最初の全国一決定戦であるニューイヤー駅伝は、前回優勝のHonda、2年前優勝の富士通、戦力充実が著しいトヨタ自動車、九州大会優勝の黒崎播磨が4強と言われている。そこに大迫傑(Nike・31)が“参画”するGMOインターネットグループも加わる勢いだ。
 トヨタ自動車は、前回3区区間2位(区間新)の太田智樹(25)は日本選手権10000m5位など安定感が増し、前回4区の西山雄介(28)は7月の世界陸上オレゴンで13位と健闘した。新加入した丸山竜也(28)はベルリン・マラソンで2時間7分台と自己記録を大幅に更新すると、中部予選1区の後半を独走した。東京五輪マラソン代表だった服部勇馬(29)も復調している。

●4区なら前回苦戦したラスト3.5kmを克服したい西山

 すっかりマラソンランナーのイメージが定着したが、西山は前回のニューイヤー駅伝(4区区間6位)時点ではマラソン未経験だった。2月の別大マラソンに2時間07分47秒の初マラソン日本歴代2位(当時)で優勝すると、7月の世界陸上は30km過ぎまで集団で勝負をして13位。西山本人は「充実した練習ができ、自信を持ってレースに臨んだのに勝負できなかった」と悔しさを隠せないが、客観的には健闘だった。
 1年前のニューイヤー駅伝4区は5区への中継3.5km手前、高林交差点を左折した後の向かい風が「想像以上」だったという。「果てしない3.5kmでした」というコメントに無念さがにじみ出る。
 今回もし4区に起用されれば「前回の経験を生かして、最後の3.5kmで勝負をできる走りをしたい」とリベンジを期している。
 2回のマラソンは西山の走り自体を進化させた。「体が動かなくなってから動かす、という部分はマラソンで鍛えられました。そこは駅伝も変わりません。2回経験したマラソンを駅伝に生かしていける」
 何より2回のマラソン、特に世界陸上を経験して、目指すところが一気に高くなった。西山の初マラソンが27歳と遅めだったのは、10000mで27分台を出してから挑戦することにこだわったからだ。しかし世界を戦うことだけを考えている今の西山は、そのスピードでは満足しない。
 11月末の八王子ロングディスタンスを28分02秒58で走ったが、ニコリともしない。「以前の自分なら良いタイムだと思っていましたが、今はそのレベルをスタンダードにしないといけない、と考えています。世界と戦うには今までやって来たことを、一段どころじゃなく上げていきたい」
 3年前のニューイヤー駅伝初出場時に3区区間賞(区間新)だったことを考えれば、10000mでも27分40秒台のスピードはある。マラソンで得た終盤の強さと上手く融合すれば、4区でも西山が区間賞の走りをする可能性は十分ある。

●3区なら区間2位だった前回以上が期待できる太田

 太田の前回3区区間2位は、トヨタ自動車の窮地を救う快走だった。インターナショナル区間の2区に外国人選手を起用できず、大きく出遅れてしまった。太田は15人抜きで22位から7位にチームを押し上げた。
 13.6kmを37分16秒で走破したが、10kmに換算すると27分24秒。10000mの日本記録(27分18秒75)とほぼ同じスピードで、3.6kmを追加して走ったことになる。
「今までで一番速いペースです。走っている最中はタイムは気にせず、“前を前を”と行った結果、出たタイムですね」
 だが、課題も残ったという。太田だけでなく、区間7位までが従来の区間記録を上回った。「すごい追い風で出せたのですが、逆に言えば良い条件でなければ出せなかったタイムです」
 区間賞の相澤晃(旭化成・25)には7秒負けた。区間順位では勝ったが、区間4位の田村友佑(黒崎播磨・24)には前半すごいスピードで追いつかれた。区間3位の林田洋翔(三菱重工・21)には後半で差を広げられた。
 今年の太田は昨年より継続して練習が積めている。4区を任される可能性もあるが、本人は「同じ3区でいいです」と笑いながら話す。
「前回は何も考えず前を追うことだけに集中したら、良いタイムで走ることができました。今回も後ろでタスキを受けたら前を追い、前でタスキを受けたらさらにガムシャラに走ります。ただ、前回突っ込んで入って後半が伸びなかったので、速く入りますが終盤の3kmも粘れるような走り方をします」
 昨シーズンの太田は12月頭に足のマメから菌が入って、足首が大きく腫れてしまった。10日間ほど練習ができず、ニューイヤー駅伝出場も半ばあきらめたという。
 それに対して今季は、5月の日本選手権10000mで5位。「練習からうまくつながらなかった」と納得していない部分もあるが、「悪い中でも走れた」という評価もできた。「夏の練習はできた」が9月の試合がいまひとつ。それでも11月には前述のように27分40秒台で走ることができた。
「悪いときでも、前に比べたら多少ましな走りができて、全体的にレベルアップができたシーズンです」
 12月の状態は、昨年より数倍良い。
 前回はチームの窮地を救う走りだったが、今回はチームの7年ぶり優勝に貢献する走りをする準備が整った。

●丸山&田中の1区&6区候補も強力

 新加入の丸山は1区か6区に登場しそうだ。1区なら中部予選のように後半独走する期待もあるが、10000mの27分台ランナーが3~5人出場する可能性もあり、中部予選と同じようには走れない。
「自分がレースを動かすよりも、誰かが動かす可能性が高いと思っています。そこでキツくなったときに、周りの人の思いやチームの人の思いを背負って、苦しいところでもついていけるようになっているのかな、という気はします」
 優勝を狙うチームに初めて入り、支えてくれる人の思いを今まで以上に感じられるようになっている。
 もう1つの候補の6区は、過去10大会連続で優勝チームから区間賞選手が生まれている。「先頭の近くでタスキを受けたらチームを(トップに)持ち上げていく走りをしたい」
 32歳の田中秀幸も1区と6区の候補。トヨタ自動車が15年、16年と2連勝したときの6区選手で、田中が7年ぶり6区区間賞で7年ぶり優勝に貢献できるかもしれない。2年連続出場している1区であれば、区間上位は確実だろう。
 熊本剛監督は「田中は向かい風にも強いですし、キレがあるので5000mで日本選手権2位になったこともある。例年、中部予選後に脚に痛みが出るのですが、今年はそれがありません」と、好調ぶりを強調した。
 東京五輪マラソン代表だった服部、中部予選5区で区間新の快走を見せた宮脇千博(31)、10月に10000mで27分57秒32と日本人最年長27分台をマークした大石港与(34)も5~7区候補だ。
 8月下旬に右臀部を故障して12月のマラソン出場を取りやめた服部が、練習では完全に復活していることが明るい材料だ。10月中旬から練習を再開し、低酸素室でバイクを使って追い込んだ練習もできている。7区が有力で服部本人もラスト勝負に自信を見せていた。
 区間の入れ替えはあるかもしれないが、今回紹介したメンバーなら全員が10000m27分台の自己記録を持つ。大石、宮脇、服部、田中はニューイヤー駅伝の区間賞を複数回取った実績を持つ。トヨタ自動車として最高最高レベルのメンバーだ。これで勝てなかったら相手を称えるしかない、というくらいに充実の陣容で7年ぶりの頂点を狙う。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト


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