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田中の1000m日本新は世界陸上オレゴンにつながるか?

【ホクレンDistance Challenge20周年記念大会@深川】五輪&世界陸上実施種目外の1000mに出場した狙いと、確認できた世界陸上への課題とは?

 世界陸上オレゴン(7月15日開幕)女子1500m・5000m代表の田中希実(豊田自動織機・22)が、6月22日のホクレンDistance Challenge20周年記念大会(北海道深川市)女子1000mに出場。自身の持っていた日本記録(2分37秒72)を更新する2分37秒33で優勝した。1000mは五輪&世界陸上では実施されていない特殊種目。自身の日本記録更新のほか、800mのポイントにも加算されるため、800mの世界ランキングを上げる狙いもあった。そして何より、今回の(100m毎、200m毎などの)スプリットタイムが、オレゴンの1500mを戦う上で重要な目安になる。

●1000mでも日本選手権800mと同じペース

レース後の田中はいつものように、自身の走りを冷静に分析した。
「1、2周目は今季一番速い入りができたのですが、余裕を持てず(最後の200mは)脚が止まってしまいました」
 今年に入って1000mに出場するのは初めてにもかかわらず、田中は「今季で一番」と話した。田中が800mも含めて考えていたからである。
 今回と日本選手権800m決勝を、200m毎の通過タイムで比較すると以下のようになる

ホクレンDC1000m      日本選手権800m予選
200m・  30秒8(30秒8)   30秒4(30秒4)
400m・1分01秒4(31秒6)  1分02秒4(32秒0)
600m・1分33秒6(32秒2)    1分32秒7(30秒3)
800m・2分04秒7(31秒3)  2分04秒13(31秒4)
1000m・2分37秒33(32秒6)

800m地点は正確にいえば日本選手権の方が速かったが、1000mの通過タイムと全力で走る800mがほとんど同じ選手が田中以外、他にいるだろうか。田中が持久型のスピードランナーであることを差し引いても、常識では考えられない走りだった。
 しかし田中は「脚が止まってしまった」ことに不満を見せた。国内の試合であればラスト1周のタイムを縮めれば勝つことができる。だが世界で戦うことを考えると、ラスト1周の中でも徐々にペースアップしていく力が必要となる。東京五輪1500mの決勝(8位入賞)を走り、その点を痛感した。
 ホクレンDistance Challengeでは最後の200mを、もう1~2秒速く走りたかった。
「2分秒35秒を出したかったんです。(東京五輪5000m金メダリストの)シファン・ハッサン(オランダ)選手や、私と自己記録が同じくらいの豪州選手が、1000mをそのくらいのタイムで走っています」
 2週間前の日本選手権は800m、1500m、5000mの3種目に挑戦し、最終日には800mと5000mの決勝を約70分のインターバルで走った。最後の5000mに今季自己最高の15分05秒61で優勝し、田中自身も納得できる結果を残すことができた。
 難しいと思われることに積極的にチャレンジすることが、田中の潜在能力を引き出す。ホクレンDistance Challengeの1000m出場は、その意味合いも大きかった。

●父親でもある田中コーチの評価は?

1500mでは実際、どんなペースで1000mを通過するのか。東京五輪の決勝で、金メダルのF・キピエゴン(ケニア)は2分38秒4で通過し、フィニッシュは3分53秒11の五輪新だった。8位の田中は2分39秒3で1000mを通過し、3分59秒95と準決勝の日本新(3分59秒19)に続いて4分を切った。
 田中の1000m通過順位は5番目で、その後3人に抜かれている。スローペースで進む場合を除けば、レース終盤で力の差が出るのは当然で、離されないためには総合的な力をアップするしかない。力が上がった結果、田中のやろうとしている終盤でもペースを上げ続ける走りができる。
 父親でもある田中健智コーチは今回のペースを、次のように分析していた。
「2分37秒ペースで1500mを走り切れば、3分56秒の計算になりますが、今日のレースでいっぱいなら残り500mは(田中の特徴である本番でプラスアルファの力を発揮できても)難しくなります。しかし今日も、連戦で疲れの残る中でもまとめ上げました。東京五輪前にできたように、疲れを上手く抜いて行けば世界陸上にピークを合わせられます」
 田中は世界のトップ選手たちの通過タイムを、今の自分がどう感じるかを探っている。
「今年の1500mは、日本選手権も勝負を優先して走ったので、速く入るレースはしていません。今日は世界の1500mに近いペースを今季初めて経験しました。世界陸上に直結するレースになったと思います」
 田中のホクレンDistance Challengeの1000m日本新は、「最低限」の目標はクリアしたが、さらに上を目指すための課題を再確認した日本新になった。

TEXT by 寺田辰朗


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