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男女ともにニューフェイス出現。ルーキーの近藤&𠮷薗が大幅自己新で日本人トップ【全日本実業団ハーフマラソン2023レビュー】

 男女とも実業団1年目の選手が日本のトップシーンに躍り出た。第51回全日本実業団ハーフマラソンは2月12日、山口市の維新百年記念公園陸上競技場を発着点とする21.0975kmのコースで行われた。
 男子はジョセフ・カランジャ(愛知製鋼・23)が15km付近で集団を抜け出し、1時間00分25秒で優勝した。近藤亮太(三菱重工・23)が7秒差の1時間00分32秒で3位に入り、4位の茂木圭次郞(旭化成・27)、5位の今江勇人(GMOインターネットグループ・25)、7位の佐藤悠基(SGホールディングス・36)、9位の砂岡拓磨(コニカミノルタ・22)までが1時間00分30秒台の好記録だった。
 女子は10km過ぎにペースアップしたオマレ・ドルフィン・ニャボケ(USE)が1時間10分16秒で2連勝。15km手前までニャボケを追った𠮷薗栞(天満屋・23)が1時間10分48秒で続いた。

●普段のジョグと直前のニュージーランド合宿で成長した近藤

 カランジャは逃がしてしまったが、近藤はモゲニ・ベヌエル・マゴマ(旭化成・20)と最後まで2位争いを演じた。同タイムだが僅かに先着され、「スパートや駆け引きが未熟です。勝ちきる強さをつけないといけません」と課題を挙げる。
 だが10000mが28分51秒87の近藤が、10000mのタイムが1分以上も上のモゲニに食い下がり、やはり1分以上速い茂木、今江、佐藤には競り勝った。昨年の箱根駅伝に出場しているが、10区で区間14位という成績。ニューイヤー駅伝のメンバーにも入れなかった。日本中の長距離・駅伝ファンが驚く近藤の快走だった。
「自己記録は1時間02分35秒で、1時間01分30秒が目標でした。そのために17~18kmまで先頭集団で走りたいと思っていましたが、ここまでの結果は予想していませんでした」
 予想以上の走りができたのは、練習でベースアップができていたからだ。チームの先輩たちを見て、「普段のジョグをどれだけ高められるか」ということを常に意識してきた。
 さらに1月にニュージーランド合宿でも刺激を受けた。マラソンのMGC出場資格を持つ定方俊樹(30)、井上大仁(30)、山下一貴(25)の3人に、今大会の前回優勝者の林田洋翔(21)を加えたメンバーと練習を行った。
「先輩たちの競技姿勢や生活の仕方、試合にピークを持っていくノウハウなどを学びました。林田はこれからの三菱を背負っていく雰囲気も持ち始めていますが、(学年は2つ下だが同じ長崎県で)高校時代から一緒に戦ってきた仲です。最後に勝負するというときに、勝ちたい思いも少しありました」
 近藤は自身が強くなるために、チームを最大限に活用した。その結果が2年連続で、三菱重工が日本人1位を占める結果になった。

●単独走になった15km以降で真価を発揮した𠮷薗

 優勝したニャボケが10km過ぎで先頭集団を抜け出したとき、唯一付いたのが𠮷薗だった。「行けるところまで先頭に付いて、あとはどれだけ粘れるか」というレースプランで臨んだ。
 実際、ニャボケに引き離されて1人になった15kmからも、粘りの走りを見せた。3位集団に差を縮められるかと思われたが、引き離している。
「離れてからが勝負と思っていました。キツかったですけど、脚が動きました」
 立命大3年時の日本インカレ10000mで5位に入賞した実績を持つが、自己記録は5000mが16分台、10000mが33分台だった。学生では全国大会で入賞できても、実業団では活躍できない。
 その𠮷薗が日本人トップを取ることができたのは、天満屋の練習にしっかりと取り組んだからだろう。マラソンで五輪代表を5人出している強豪チーム。マラソン練習は選手個々で大きく違うが、朝練習はチーム全員がまとまって行う。
「特別速いペースではありませんが、こつこつ継続して行います。先輩方も必ず、その朝練習をしているから、キツくなる後半で粘れるのかもしれません」
 𠮷薗は速いペースではない、と話したが、継続できない選手もいる。そういう選手は天満屋では、なかなか芽が出ない。
 レースではプリンセス駅伝が、実業団で走って行く自信になったという。インターナショナル区間の4区で区間11位タイ。日本人選手では最上位だった。「その結果で、練習をしっかり積めば結果が付いてくるんだ、とわかりました」
 そして今大会の2位(日本人1位)である。「(故障明けという)現状を考えれば自信がつきましたが、タイムもレース展開もまだまだです」
 プリンセス駅伝と比べれば、今大会の日本人トップの方が価値は高いだろう。𠮷薗の意識レベルが短期間で高くなったから、“まだまだです”という言葉が出てきた。

●名門チームで研かれマラソンへ

 近藤と𠮷薗は共通点が多い。
 大卒1年目ということと、2人とも学生時代に、(𠮷薗は日本インカレ10000m5位はあるし、近藤も箱根駅伝総合2位のテープを切っているが)華々しい戦績は残していない。
 その2人がマラソンで、何人もの日本トップ選手を育成してきた実業団チームに入った。近藤は地元・長崎の実業団チームで、三菱重工の練習に何度も参加していた。𠮷薗は自ら天満屋入りを志願した。トラックの記録が日本トップレベルに差があることも共通点だが、その分、マラソンを目指す気持ちが強い。
 𠮷薗はマラソンの前にやることがある、と自身を冷静に分析している。
「マラソンを走れるように、まずはケガなく練習を積むことが大事です。去年はケガでトラックにあまり出られなかったのですが、まずは10000mで結果を出していきたい。そして将来的には、強い先輩たちがいるなかで私もマラソンなどに挑戦していきたいと思っています」
 近藤はニュージーランドでマラソン組の練習を目の当たりにしたことで、具体的なイメージも持ち始めたようだ。
「来年の冬に初マラソンを考えていますが、今日の結果を監督とも相談して決めていきます。2年後の世界陸上東京大会や、28年のロサンゼルス五輪では日本代表を目指したい。10000mも28分00秒前後を出して、マラソンにどんどん出て、2時間6分台を安定して出せる選手になることが目標です」
 今年のMGC出場はプランにないが、2年後の世界陸上東京大会や、その後を担うニューフェイスが今年の山口で存在感を見せ始めた。

TEXT by 寺田辰朗


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