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世界歴代4位のムティソが異次元のスピードを見せるか? 日本勢は世界陸上オレゴン・マラソン代表だった西山に注目【東京レガシーハーフマラソン2022プレビュー①男子】

東京レガシーハーフマラソンが10月16日、東京・国立競技場を発着点とする21.0975kmのコースで開催される。国立競技場という東京オリンピックのシンボリックな施設を活用し、形として残るレースを続けていくことを目的に、東京マラソン財団が主催し今年からスタートする大会だ。エリート、一般、障がい者、車いす、パラアスリートと多くのカテゴリーの選手が出場するが、エリート部門は日本の実業団チーム在籍の外国人選手や、マラソンや10000mで日本代表経験のある選手たちが参加する。
 男子一番の注目は57分59秒の世界歴代4位記録を持つアレクサンダー・ムティソ(NDソフト・26)である。国内最高記録の59分43秒の更新も期待できる。日本勢では今年7月の世界陸上オレゴン・マラソン代表だった西山雄介(トヨタ自動車・27)、1時間00分19秒の参加日本選手中最高タイムを持つ市田孝(旭化成・30)らが注目される。

●トラックよりもロードで圧倒的に強いムティソ

ムティソのスピードは異次元と言っていい。ハーフマラソンの57分ランナーは世界で4人しかいない。57分59秒を10000mに換算すると27分29秒01。ロードなので追い風や下り傾斜でタイムが良くなることもあるが、10000mを日本歴代5位の速さで2本と1097.5mを走破したことになる。
 しかし驚くべきことに、ムティソの10000m自己記録は27分23秒03で日本記録より少し遅く、セカンド記録は27分29秒85で前述のハーフマラソン換算タイムとほぼ同じ。10000mは日本のトップ選手たちと同じレベルなのに、ハーフマラソンになると世界のトップレベルに豹変する。
 その理由をムティソに質問すると「私はトラックよりロードの方が快適に走ることができるんです。走りのテクニックの部分でロードの方が適しているのでしょう」という答えが返ってきた。
 57分59秒は20年12月のバレンシア(スペイン)でマークし、セカンド記録の58分48秒と59分台の4パフォーマンスも海外だった。唯一59分56秒を国内、今年4月のぎふ清流ハーフマラソンで出した。ムティソがしっかり調整してペースに恵まれれば、59分台前半はいつでも出せる。
 東京レガシーハーフではどんなタイムで走るのか。今大会ではペースメーカーは付かない。
 ちなみに国内で誕生したハーフマラソン最高記録は、世界陸連サイトの集計では59分43秒。北京五輪マラソン金メダリストのサムエル・ワンジル(ケニア)が05年に仙台で走った。
 そのタイムを知らされるとムティソは、「やってみましょう」と微笑みながら答えた。
 コースは下見していないというが、高低図などでアップダウンがあること、序盤が下りになることは把握している。
「最初の5kmは14分以下のタイムで通過したい」
 そのペースに付く選手が果たしているだろうか。


●オレゴンで世界のスピードを実感した西山に走りの変化は?

7月の世界陸上オレゴンの13位、2時間08分35秒の世界陸上における日本人最高記録という成績は、客観的には高く評価できる。だが西山本人は、特にタイムについては、「涼しい条件だったことを考えれば出て当然のタイム」と厳しく自己評価していた。
 帰国して休養し、今大会が世界陸上後では初レースとなる。
「8月の中旬すぎくらいからチームの夏合宿に合流して、練習では良い感じに戻ってきています。レースとなるとまた別だと思いますが戻り自体、流れ自体は悪くないので、ここで1回レースはさんで自分の状態を確認できればと思って出場します」
 西山の自己記録は1時間00分55秒だが、トヨタ自動車の佐藤敏信総監督は「62分半くらいが目標になる」と言う。練習を再開後は順調に進められているが、帰国後に体調を崩した時期もあった。「今回は記録を狙うレースではありません。市田君や村山謙太(旭化成・29)君は12月のマラソンに向けてのハーフという位置づけだと思いますが、そういった選手と一緒に行ければ」と展開を想定している。
 ムティソ以外の外国人選手は、何人かが「59分台が目標」とコメントしていた。1時間0分台のペースで進み、最後にペースアップすることをイメージしているのだろう。佐藤総監督の言う62分半のペースでは外国勢に付くことはできない。
 だが西山はオレゴンでスピード、特にスピード変化の必要性を痛感した。「ペースの上げ下げが、1kmどころではなく100mごとにありました。それが続いて32kmくらいで離れてしまいましたが、世界の舞台でああいう上げ下げのある、生きたレースができたのは本当に良かったと思います」
 アフリカ勢のペースチェンジに対応するのは、日本選手では至難の業だと言われている。西山も24年のパリ五輪に向けての長期的な課題としているわけで、世界陸上から3カ月でその課題が解決しているわけではない。
 だが、難しいと言われていても、目を背けずに向かって行く姿勢が西山には感じられる。オレゴンの結果を厳しく自己評価したこととも通じる部分だ。オレゴンから3カ月ではあるが、スピードとペースチェンジを意識してきたことで、西山の走りに変化が生じるかもしれない。
 ペース次第ではあるが、西山が外国勢の集団で走る姿が見られるかもしれない。


TEXT by 寺田辰朗

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