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3種目代表入りに挑戦の田中が800mと5000mに70分間隔で出場男子走幅跳の橋岡に標準記録突破の期待【日本選手権4日目(最終日)プレビュー】

7月の世界陸上オレゴン代表選考会を兼ねた第106回日本選手権。大会4日目(最終日)は6月12日、大阪市のヤンマースタジアム長居で行われる。最大の注目は3種目で世界陸上代表入りに挑戦している田中希実(豊田自動織機・22)で、16:20スタートの女子800mと17:35スタートの女子5000mの2種目に出場する。女子5000mでは田中、日本記録保持者の廣中璃梨佳(JP日本郵政グループ・21)ら、世界陸上参加標準記録突破選手が5人もエントリーしている。
 男子110mハードル決勝(16:50)には日本記録保持者の泉谷駿介(住友電工・22)と村竹ラシッド(順大3年)、2人の標準記録突破者が出場する。標準記録突破者が3位以内に入れば世界陸上代表に内定する。
 フィールド種目では男子走幅跳に東京五輪6位入賞の橋岡優輝(富士通・23)が出場。標準記録突破が期待される。

●田中が70分インターバルで2種目に挑戦

田中希実が800m、1500m、5000mの3種目で世界陸上代表入りを目指して日本選手権に出場している。東京五輪で8位に入賞した1500mは初日に予選、2日目に決勝と行われ、ラスト1周で力の差を見せて優勝。世界陸上代表を決めた。3日目の11日には800m予選を、2分04秒13の予選全体トップの記録で通過した。
「800mは(1分59秒50の標準記録突破が難しいので)、世界ランキングのポイントでもう少し上に行かないと世界陸上の権利に引っかかりません。予選から攻めた走りをしましたが、タイムは中途半端でした」
 日本選手権の予選は記録に対してポイントが付くが、決勝は順位と記録の両方にポイントが付く。記録の違いはポイントとしては小さいが、順位の違いはポイントの差が大きくなる。
 両方を狙えば800mのポイントは多くなるが、800mのフィニッシュ70分後には5000mがスタートする。800mの疲労を最小限にとどめるには、記録は狙わず順位だけを狙った方がいい。
 そして5000mは廣中と萩谷楓(エディオン・21)の東京五輪代表コンビに加え、10000mで廣中とともに世界陸上代表入りを決めた五島莉乃(資生堂・24)が速いレース展開に持ち込むと予想される。スローペースでラスト勝負だけの展開にはならないだろう。
「今日の予選の走りから明日の決勝をどう走るか相談して、800m代表の権利を最後まで狙って行きます。800mをどう走るか決めた後に5000mの走り方も決めていく。800mを走って5000mも行けそうなら戦っていきたい。明日2種目とも走らなければ今回の日本選手権が不完全燃焼になって、意味がなくなります。このあと体を大事にして、明日2種目を頑張ります」
 田中の挑戦は、見る側もドキドキさせるほどチャレンジングな取り組みだ。

●10000m代表の廣中を中心に豪華メンバーの女子5000m

その女子5000mだが田中の3種目挑戦という要素がなくても、レベルの高さ、優勝争いと代表争いの激しさが注目に値する。
 優勝候補筆頭は廣中で、東京五輪では14分52秒84の日本新で9位と健闘した。10000mでも5月の日本選手権に優勝し、世界陸上オレゴン代表を決めた。今回5000mでも優勝すれば2年連続2冠の快挙になる。
 5000mが速いペースとなると予測できるのは、廣中が自分のリズムで先頭を走るタイプの選手だからだ。五島も同じタイプで、昨年は廣中、萩谷、新谷仁美(積水化学・34)、田中たちのスピードに対応できずに7位に終わったが、昨年12月に15分19秒58まで自己記録を縮めている。今の五島なら15分切りに挑めるかもしれない。
 その速いペースに800mの疲労が残る田中がついて行けるかどうか。ラストスパートの力は田中が明らかに上なので、他の選手はハイペースに持ち込んだ方が勝機は高くなる。
 萩谷は5月の日本選手権10000mではラストで廣中に5秒引き離されたが、初10000mだったことを考えれば大健闘だった。5000mは得意とする距離。廣中と田中へのライバル意識も強い。勝負を仕掛けるシーンがあるだろう。
 木村友香(資生堂)と佐藤早也伽(積水化学)も世界選手権標準記録を破っている。さらには10000m東京五輪代表だった安藤友香(ワコール)も参戦する。代表争いが最も激しい種目がトラック最終種目として行われる。

●村竹が順大で標準記録を突破。決勝では史上初の複数13秒1台も

男子110mハードルは泉谷と村竹の、標準記録突破者2人の優勝争いとなる。
 勢いがあるのは大会3日目の予選で、13秒27(+0.5)の自己新で標準記録(13秒32)を破った村竹だ。「13秒4くらいを出せばいいと思ってスタートしましたが、中盤から良い感じでスピードに乗って、後半緩めたくても速すぎて緩められませんでした」
 準決勝は5台目を越えたところでバランスを崩して3組2位通過だったが、決勝では2年分の思いをぶつける。昨年も予選で13秒28と東京五輪参加標準記録を破ったが、決勝はフライングで失格しているのだ。
「去年は自分が、オリンピックに出るところに来ていると思えなかった。周りの環境が一気に変わって、それに対応できなかったんです。余裕がない感じで決勝に臨んだのがフライングの理由です。決勝は、この日のために練習を積んできたと言っても過言じゃありません。意地でも3位以内に入って代表をつかみます」
 泉谷は昨年の日本選手権優勝者で、そのときに13秒06と21年世界5位のタイムをマークした。東京五輪準決勝も、何台もハードルにぶつけながらあと少しで決勝に進出できた。世界で戦う力を持っている。
 だが今大会は故障明けで、4月29日の織田記念予選以来の実戦だった。それでも予選13秒40(-0.2)、準決勝13秒29(-0.2)と予想以上のタイムが出た。
「ケガ明けとは思えないくらいの良い状態です。村竹の13秒27で気合いが入りました。スタートが思ったほどスピードが出なかったので、決勝は地面を踏んでしっかりと出たい。万全ではないですけど13秒1台は出して、やはり勝ちたいですね」
 この種目で13秒1台を2人が同時に出したことはないが、それを順大の先輩後輩の2人がやってのける可能性が出てきた。

●フィールド種目で代表入りが期待できる男子の走幅跳とやり投

すでに標準記録を突破している選手が出場するのは女子5000mと男子110mハードルの2種目だが、新たな突破者が現れそうな種目もいくつかある。期待が大きいのは男子走幅跳で、東京五輪6位の橋岡優輝(富士通・23)が出場する。
 今季は4月9日の日大競技会で8m07(+0.1)を跳んだときに踏切脚の足首を痛めた。だが、日本選手権に間に合わせるために木南記念は2回の試技で打ち切り、その後の試合は欠場してきた。泉谷が故障明けの今大会で標準記録を上回ったように、橋岡も故障明けでも標準記録(8m22)を越えてくる可能性はある。
 日大の先輩にあたる山川夏輝(佐賀県スポーツ協会)も、ゴールデングランプリで8m14(+0.4)の自己新を跳び、標準記録に8cmと迫っている。ハードルの順大コンビに対し、走幅跳は日大コンビが大ジャンプの応酬を見せてくれそうだ。
 男子やり投のディーン元気(ミズノ・30)は4月に81m91、5月に82m18、82m10と、82m前後の試合を3試合続けている。標準記録の85m00にもちろん挑戦するが、世界ランキングで出場資格を得る可能性もある。
「日本選手権は2年連続2位なので、しっかり勝ちたいですね。世界陸上に上手くつながる投てきをしたい」
 残念なことに、現時点でのフィールド種目の標準記録突破者はいない。標準記録のレベルが高くなったこともあり、世界ランキングでの出場でも世界と戦えるが、最終日にフィールドでも大きな花火が上がることを期待したい。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト


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