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【世界競歩プレビュー①】世界競歩チーム選手権とは?

競歩の国別対抗戦。日本は男子20kmで2連勝の可能性

個人でも池田、山西、川野にメダルの期待

 競歩の世界最強国を決める2年に1度の祭典「世界競歩(世界競歩チーム選手権)」が3月4、5日の2日間、オマーンのマスカットで行われる。各国5人までが出場でき、上位3人の順位合計で国別対抗戦が行われる。日本は前回(18年)男子20kmと男子50km(今大会から35kmに変更)の2部門で優勝し、競歩強豪国としてのポジションを固めることに成功した。

 日本は東京五輪銀メダルの池田向希(旭化成・23)と銅メダルの山西利和(愛知製鋼・26)ら、東京五輪代表5人を含む7選手を派遣する。今回も男子20kmの国別対抗では優勝候補筆頭と言われている。

○男子20km:池田向希(旭化成・23)、山西利和(愛知製鋼・26)、諏方元郁(愛知製鋼・22)

○男子35km:川野将虎(旭化成・23)、勝木隼人(自衛隊体育学校・31)、髙橋和生(ADワークスグループ・25)

○女子20km:藤井菜々子(エディオン・22)

 この大会の日本人最上位選手が、派遣設定記録を満たせば7月開催の世界陸上オレゴン代表に内定する。派遣設定記録は男子20km:1時間20分00秒、男子35km:2時間30分00秒、女子20km:1時間30分00秒である。

 なお、山西は前回の19年世界陸上ドーハ大会に優勝しているので代表に内定済み。勝木はすでに派遣設定記録を満たしているので、日本人最上位となれば代表に内定する。

 今大会の見どころを、競歩解説者の栁澤哲さん(01年世界陸上20km7位。この種目の日本人初入賞者)に取材した。

●男子20kmは東京五輪に続いてメダル2個の可能性

 栁澤さんは「男子20kmは国別対抗戦優勝の可能性が高い」と言う。「前回は12点で日本が、前々回は16点で中国が優勝しました。池田君と山西君が表彰台(3位以内)に上がれば、2連勝できると思います」

 個人レースとしてもオリンピック、世界陸上に準じる世界大会で、18年大会では当時東洋大2年の池田向希(旭化成・23)が優勝し、国際レベルに飛躍するきっかけとなった。池田には2連勝が、19年世界陸上ドーハ金メダルの山西には、世界大会2冠がかかる試合である。

「世界競歩が(今年7月開催の)世界陸上オレゴンの前哨戦になります。山西選手が東京五輪の雪辱をするのか、池田選手の勢いが勝るのか。すごく興味深い点だと思います」(コメントはすべて栁澤さん)

 東京五輪に続いてメダル2個獲得の可能性が十分あるが、強敵も出場する。ワシリー・ミジノフ(中立選手・24)は世界陸上ドーハ銀メダリストだ。

「ドーハのレース終盤で山西選手を追い上げていた選手です。東京五輪は失格しましたが、今年に入って1時間17分47秒(今季世界最高)で歩いています。侮れない存在でしょう。中国勢もシーズンベストの参加者リストで上位を占めています」

 しかし前述のように池田と山西も、世界大会で2度のメダル獲得と実績十分。世界を相手に日本競歩の強さを見せたい種目だ。

●男子35kmは川野のスピードに期待

 東京五輪まで競歩の最長距離種目は50kmだったが、今大会からは35kmに変更された。50kmを主戦場としていた選手だけでなく、20kmを中心に戦ってきた選手も多く参戦する。どちらの種目の選手が多く上位に入ってくるか。その点が注目を集めている。

 実際、20kmの有力選手が多くエントリーしてきた。

「スペインのミゲル・エンゲル・ロペス(33)選手とアルバロ・マルティン(27)選手がその代表ともいえる選手で、ロペス選手は15年世界陸上北京の金メダリストです。マルティン選手は東京五輪4位で、日本の2人に続いた選手。東京五輪5位のクリストファー・リンケ(独・33)選手も出場します」

 50km組では東京五輪銀メダルのジョナサン・ヒルベルト(ドイツ・26)と銅メダルのエバン・ダンフィー(カナダ・31)がエントリーしてきたが、「35kmのスピードに対応できるか」がポイントとなる。

「ロペス選手が今年2時間27分53秒で、マルティン選手が2時間29分59秒で歩いています。ヒルベルト選手は20kmの自己記録が1時間23分26秒なので、2時間30分を切るスピードは厳しいかもしれません。ダンフィー選手は10000mで38分39秒72を持っているので、20km勢と良い勝負ができると思います」

 日本勢では東京五輪6位入賞の川野が、メダルに挑戦する。日本国内ではまだ35kmの大会が行われていないが(今年4月の日本選手権35km競歩で初実施)、50kmの途中計時で丸尾知司(愛知製鋼・30)と野田明宏(自衛隊体育学校・26)が2時間30分11秒というタイムを出している。日本記録が公認されるのが22年終了後なので、現時点では日本最高タイムという扱いになる。川野も50kmの日本記録(3時間36分45秒)を出したときに、2時間30分45秒で通過している。

 35kmとして歩いたとき、ロペスの2時間27分台は「十分行ける」と栁澤さんは言う。

「川野選手は50kmで世界歴代11位の記録を持っているのに加えて、20kmも1時間17分24秒の世界歴代10位です。それに対してロペス選手の20kmは1時間19分14秒。35kmのペースに対する余裕度という点で、川野選手なら問題なく出せると思います」

 その点、勝木と高橋は20kmが1時間21~22分台で、「20km勢とスピードで勝負できるかどうか」が懸念材料だ。だが現地からは、気温が30℃近くに上がる時間帯もあるという報告が来ている。特に勝木は、猛暑の中で行われた18年ジャカルタ・アジア大会で金メダルを獲得した実績を持つ。気象条件次第では上位に食い込んでくるだろう。

 勝木、高橋の頑張り次第では、国別対抗戦のメダルも期待できそうだ。

●女子20kmは藤井に入賞のチャンス

 女子20kmは世界記録保持者の楊家玉Jiayu YANG(中国・26)が優勝候補筆頭だろう。17年世界陸上ロンドンの金メダリストである。だが19年世界陸上ドーハ大会は失格、昨年の東京五輪は12位だった。「東京五輪は暑さにやられたようでした。その克服が課題でしょう」

 中国は楊以外は若手を多くエントリーしてきたが、若手でも自己記録では1時間25~29分台で、国別対抗戦は「ワンサイドで圧勝する可能性が高い」。

 東京五輪入賞者で出場してくるのは5位のアレグナ・ゴンザレス(メキシコ・23)と8位のアンティゴニ・ニトゥリスムピオティ(ギリシャ・37)の2人くらい。

「(東京五輪13位の)藤井選手が入賞する可能性は高いと思います。ゴンザレス選手や中国の2選手は同年代ですから、今後の世界大会ではライバルになります。藤井選手がメダルを取るためには、互角に戦っておきたい選手たちです」

 日本の女子競歩が将来的に、男子のようにメダル争いができるかどうかを占う上でも重要な大会になる。

 今大会が行われるオマーンは中東にある国で、前述のようにこの時期でも気温は高い。日本勢は東京五輪までに蓄積した暑熱対策を今回も行って乗り込んでいる。朝晩は過ごしやすいという情報もあるので、そこまで問題にはならないかもしれない。

 驚いたのは、起伏がかなりあるコースという情報だ。近年のオリンピックと世界陸上は平坦なコースが続いていた。

「上りは体重を乗せることができるので、歩きにくいということはありません。山西選手はハムストリング(大腿裏側の筋肉)がしっかり作れていますし、良い意味で接地時間が短いので上りは体重を乗せやすいと思います。下りの方が着地の衝撃を逃すテクニカルな部分が必要になる。選手によってはベントニー(反則の1つでヒザが曲がった状態)になりやすくなります」

 予想外の状況に対応する力も、世界で戦っていく上で求められること。川野は五輪入賞の実績を残したが、国際経験が不足していることを課題に挙げている。世界陸上オレゴンでしっかり戦うためにも、どの種目も世界競歩チーム選手権が重要になる。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト


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