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【プリンセス駅伝2021見どころ⑥ 前日区間エントリー】

1区の木村で先行し、5区の高島で勝負を決めたい資生堂
五輪代表の萩谷と大物ルーキーの加世田、3区で追い上げ態勢に入るエディオンとダイハツ


 プリンセス駅伝の区間エントリーが10月23日の監督会議後に発表された。東京五輪5000m代表だった萩谷楓(エディオン・21)は3区、同3000m障害代表だった山中柚乃(愛媛銀行・20)は1区に出場する。東京五輪マラソン代表だった前田穂南(天満屋・25)、同マラソン候補選手(従来の補欠選手)だった松田瑞生(ダイハツ・26)は出場メンバーから外れ、資生堂とエディオンが2強という状況になった。だがダイハツと天満屋は、チーム全体の底上げができている。2強もとりこぼしが生じればエースを欠いた2チームにもチャンスがある。
 優勝争いとともに、11月28日に行われるクイーンズ駅伝出場権(20位まで)を懸けての戦いも、戦力が拮抗しているだけに目が離せない。

●資生堂が1区・木村でどのくらいのリードを奪えるか?

 前半には代表経験選手ら、各チームのエース級が多数起用された。
 資生堂は④

で紹介したように、今大会のテーマは「去年悔しい思いをした選手にリベンジさせることと、新人を積極的に活用すること」だ。
 1区(7.0km)には昨年、故障の影響でプリンセス駅伝は5区区間19位、クイーンズ駅伝は6区区間20位と失速した木村友香(26)を起用した。今季は5000mで自己2番目の記録と復調している。
「木村は(独走よりも)相手が近くにいた方が力を発揮するタイプ。流れに乗ってしっかり走ってくれるはずです。ここできっかけをつかんでほしい」(岩水嘉孝監督)
 木村以外では山中と石澤ゆかり(日立・33)が、3000m障害で日本代表経験がある。だが、山中は③

で紹介したように故障明けで、ハイペースへの対応は準備ができていない。
 谷本観月(天満屋・26)が世界陸上ドーハ7位入賞とマラソンの実績では一番で、西田美咲(エディオン・30)も2時間28分台の記録を持つが、木村がスピードを発揮したときについて行くのは難しそうだ。
 スピードがあるのは横江里沙(大塚製薬・27)、倉岡奈々(鹿児島銀行・24)、荘司麻衣(ユニクロ・27)、田邉美咲(三井住友海上・26)、下田平渚(ダイハツ・23)らだが、この区間では木村の力が頭ひとつ抜けている。前半から独走するタイプではないが、終盤のスパートで木村がリードを奪うのではないか。2位以下に何秒差をつけられるか。そこが焦点となりそうだ。

●2区の藪田で大塚製薬が浮上するか

 2区(3.6km)は小原怜(天満屋・31)、上原美幸(鹿児島銀行・25)と代表経験選手2人が起用されたが、2人とも故障や体調不良などがあり万全とは言えない。それに対しダイハツの武田千捺(21)、エディオンの江口美咲(26)、資生堂の樺沢和佳奈(22)たちは好調が伝えられている。
 資生堂がリードを維持する区間になる可能性が高い。3区に萩谷を起用したエディオン、加世田梨花(22)のダイハツは2区で踏ん張り、できれば少しでも差を縮めておきたい。
 注目したいのが大塚製薬だ。1区の横江は15年のクイーンズ駅伝5区区間賞選手で、木村とは中学・高校時代から全国大会や自己記録で競い合ってきた選手。今季の状態では木村が上だが、一緒に走れば横江にも火が点く。
 大塚製薬2区の藪田裕衣(25)は3000m障害のトップ選手で、今季は専門種目以外の1500mでも4分15秒04と自己記録を大幅に更新している。藪田で大塚製薬がトップに並んでくる可能性もある。3区の福良郁美(24)も3月の名古屋ウィメンズマラソンで2時間28分31秒と好走し、トラックの10000mでも32分台で安定して走っている。
 2~3区で大塚製薬と資生堂、現役時代は3000m障害が専門だった監督が指導する2チームが並走するかもしれない。大塚製薬の河野匡監督は92年アジア大会優勝者で、資生堂・岩水監督は03年世界陸上パリ大会で決勝に進んだ前日本記録保持者である。

●ハイレベルになりそうな萩谷vs.加世田の3区決戦

3区はエディオン・萩谷とダイハツ・加世田の対決が注目される。
 萩谷は②

で紹介したように10kmの距離は、トラックの10000mも含めてレースは初めて。それに対して加世田は⑤

でも触れているが、10000mや駅伝の10km区間では学生ナンバーワン選手だった。10kmという距離で戦い慣れているのは加世田だが、5000mのスピードでは東京五輪に出場した萩谷が一枚上。
 沢栁厚志監督は「萩谷は3分10秒(/km)なら押して行けそう」と話していた。10kmが31分40秒のペースで、加世田の10000m自己記録が31分39秒86だ。予測段階ではあるが互角の数字が出ている対決は興味深い。
 2人が競り合いながら、資生堂の佐藤成葉(24)を追い上げる展開が考えられるが、資生堂は上位候補チームで唯一外国人選手を擁するチーム3区の佐藤は仮に追いつかれても、冷静に走れば勝機は大きくなる。
 資生堂、ダイハツ、エディオン、大塚製薬といったチームの優勝争いが予想されるが、好調の野添佑莉(25)を起用した三井住友海上、3月の名古屋ウィメンズマラソンを2時間26分台で走った松下菜摘(26)の天満屋も、先頭が見える範囲でレースを進めたい。
 ともに19年世界陸上ドーハのマラソンに出場した池満綾乃(鹿児島銀行・30)、中野円花(岩谷産業・30)の2人は、エース区間でチームの予選通過に勢いをつけたい。また、14年アジア大会10000m代表で復調してきた西原加純(32)も、移籍したことでモチベーションは高くなっている。

●勝負の行方を左右する資生堂5区・高島の走り

 インターナショナル区間の4区(3.8km)で、上位候補チームで外国人を起用するのは資生堂だけ。全日本実業団陸上5000m優勝のジュディ・ジェプングティチ(18)で再び引き離すことができる。
 エディオンとダイハツは3区でトップを奪った場合、エディオンは故障明けの細田あい(25)、ダイハツは竹本香奈子(25)が4区でジェプングティチの追い上げにどう対応できるか。4区で先頭を走るチームが優勝に近づきそうだ。
 そして後半の勝負どころは5区(10.4km)。上位候補チームで日本代表クラスを起用してきたのは資生堂で、故障明けの高島由香(33)の走りが優勝の行方を左右しそうだ。
 エディオンは山本明日香(24)、ダイハツは上田雪菜(23)と、ともに大卒2年目の選手を起用してきた。高島も現状、クイーンズ駅伝の区間賞を連続で取っていた頃の走りは難しい。2年目コンビは実業団での実績はまだないが、このプリンセス駅伝で一段階上の走りができれば、高島を相手に先行することもあり得る。
 資生堂、エディオン、ダイハツの争いはおそらく5区で、勝負の大勢は決まる。カギを握るのはやはり、高島がどこまで復調しているか、だろう。
 もしも5区で差がつかず、アンカー決戦となった場合は、昨年の全日本実業団ハーフマラソン優勝者の竹山楓菜(25)を6区(6.695km)に残しているダイハツが優位か。
 それともう1チーム、天満屋も可能性がある。5区の大東優奈(23)と6区の渡邉桃子(23)は、武冨豊監督が期待する選手。大東は昨年のクイーンズ駅伝ですでに5区(区間10位)の経験があり、今季も春先にケガがあったが9月の全日本実業団陸上5000mで自己新と好走した。ルーキーの渡邉は「粘り強いし、入社して一番しっかり練習している」と武冨監督は高く評価している。
 エース前田を欠くが、天満屋の粘り強さと駅伝に合わせてくるチーム力は他チームにとっては不気味だろう。名門チームが底力を見せてくる可能性も十分ある。

TEXT by 寺田辰朗

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