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【五輪代表が多数出場する全日本実業団陸上⑦ 日本記録の期待と駅伝優勝チーム】

男子砲丸投の武田、円盤投の堤、女子ハンマー投の渡邊らに日本記録の可能性
駅伝優勝チームの富士通勢とJP日本郵政グループ勢は?

 全日本実業団陸上(9月24~26日・大阪ヤンマースタジアム長居)で日本記録は誕生するのか? 全日本実業団陸上のような選手権試合では、特に中・長距離種目などは勝負優先のため記録は難しくなる。だが短距離とフィールド種目は、競り合いやプレッシャーのなかで“記録を出した者が勝つ”。当たり前だが記録も期待したい。今季の成績から男子では砲丸投の武田歴次(栃木スポ協)と円盤投の堤雄司(ALSOK)、女子ではハンマー投の渡邊茜(丸和運輸機関)らに日本新の可能性が高い。男女の棒高跳も、風などのコンディションに恵まれれば日本記録にバーが上がるだろう。

●日本記録保持者10人が出場予定

 今大会には日本記録保持者が、以下の10人出場する。
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<男子>
100m:山縣亮太(セイコー)9秒95
1500m:河村一輝(トーエネック)3分35秒42
棒高跳:澤野大地(富士通)5m83
砲丸投:中村太地(ミズノ)18m85
円盤投:堤雄司(ALSOK)62m59
<女子>
100m:福島千里(セイコー)11秒21
200m:福島千里(セイコー)22秒88
5000m:廣中璃梨佳(JP日本郵政グループ)14分52秒84※1500mに出場
100mハードル:寺田明日香(ジャパンクリエイト)12秒87
100mハードル:青木益未(七十七銀行)12秒87
5000m競歩:岡田久美子(ビックカメラ)20分42秒25
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 男子では100mの山縣、1500mの河村、110mハードルの金井(前日本記録の13秒16)、女子100mハードルの寺田と青木は、今年4~7月に日本記録をマークしている。もちろん今大会でも期待はしたいが、コンディションやレース展開、大会出場の目的などの理由で難しいかもしれない。
 しかし男子100mは①の記事中で触れたように、

山縣だけでなく多田修平(住友電工)と小池祐貴(同)も出場する。9秒台が出ても不思議はない。1500mも種目自体に勢いが感じられ

日本記録ペースでレースが展開する可能性もゼロではないだろう。男子棒高跳も

5m70に成功すれば、5m80以上にバーを上げて挑戦する選手が現れそうだ。

●日本選手権で日本記録に手応えを感じていた投てき3選手

 日本記録の可能性がより大きいのは投てき3種目だ。
 男子砲丸投の武田は、6月の日本選手権に18m64の日本歴代3位タイで優勝。日本記録に21cmと迫っている。
「今の自分の記録をもっと安定させる投てきをしていけば、日本人初の19mも見えてくる。19m、そして世界にも少しでも近づく選手になりたい」と日本選手権優勝後に話している。
 円盤投の堤のシーズンベストは60m62。17年8月に最古の日本記録として残っていた60m22(79年・川崎清貴)を更新すると、18年に湯上剛輝(トヨタ自動車)に日本記録を更新されたが、20年3月に62m59で日本新を奪回。60mオーバーの試合も多く、60mに陸上競技ファンが驚かなくなったのは堤の功績が大きい。
 世界と戦える選手になることが一番の目標で、記録的にも「63mは明確に見えていますし、65mの可能性も現実的になりました」と話している。
 62m16(18年)の前日本記録保持者の湯上も、シーズンベストは58m60だが、きっかけさえつかめば堤と対等の勝負ができる。
 女子ハンマー投の渡邊は16年に66m79を投げ、室伏由佳(当時ミズノ)が04年にマークした67m77の日本記録に98cmと迫った。17~20年は毎シーズン65m台にとどまっていたが、今季は6月の日本選手権優勝時に66m24と、再度66m台に乗せてきた。「自分のコンディションとグランドコンディションが全部合ったときに、自ずと日本記録はついてくると思う」と手応えを感じている。
 3種目とも残念ながら東京五輪に代表を送り込めなかった。日本記録をどんどん更新して、世界に近づきたい。

●日本郵政は太田、富士通は塩尻の走りが駅伝に向けて重要に

長距離種目は秋のマラソンに出場する有力選手が出られないタイミングだが、

でも紹介したように、東京五輪出場選手が多くエントリーした。全員がパリ五輪を目指していくと思われ、個人のさらなる成長が注目されるが、10月のプリンセス駅伝から実業団駅伝シーズンも始まる。全日本実業団陸上では有力チームの動向もチェックできる。
 クイーンズ駅伝優勝チームのJP日本郵政グループは、前回3区区間2位の鍋島莉奈と5区区間賞の鈴木亜由子はエントリーしなかったが、廣中璃梨佳、鍋島、鈴木の代表経験者3人以外でも有力選手が多い。
 前回6区区間賞の大西ひかりは、全日本実業団陸上の5000mと10000mにエントリー。5月の日本選手権10000m後に自転車で転倒して練習が中断し、まだ万全とはいえないため、どちらか1種目に絞るかもしれない。前回2区の菅田雅香と期待の新人の三原梓も、故障の影響で今大会は出場しない可能性があるが、入社4年目の太田琴菜は5000mに出場する。
 立命大1年時の自己記録(15分33秒74)が更新できていないが、「チームとして、オリンピック選手を出すこともそうですが、長い時間をかけて選手を育てることも使命」と高橋昌彦監督。15分台なら入社後初となるが、一気に自己記録レベルで走ってくるかもしれない。「太田が来たらチームが盛り上がる」と高橋監督は期待を寄せる。
 ニューイヤー駅伝優勝の富士通は、五輪5000m代表コンビのうち松枝博輝は欠場するが、

で紹介したように、坂東悠汰が1500mに出場する。坂東以外にも塩尻和也、浦野雄平、中村大成が10000mに、キャプテンの横手健と新人の塩澤稀夕が5000mに、潰滝大記が3000m障害にエントリーしている。
 元旦のニューイヤー駅伝は1区が松枝、3区が坂東、4区がマラソンの中村匠吾と、東京五輪代表が3区間を走った。5区の塩尻はリオ五輪3000m障害代表で、6区の鈴木健吾は3月にマラソンの日本最高記録(2時間04分56秒)をマークした。オールスター級のチームである。
 新人の塩澤はスピード型の選手。全日本実業団陸上の5000mで結果を残せば、松枝や坂東に万が一故障があったとき、代わりを任せられるようになるが、夏合宿の最後に足首を痛め、今回は欠場するかもしれない。
 最長区間の4区は中村と鈴木が有力だが、そこにもう1人候補が育ってほしいと高橋健一駅伝監督は考えている。箱根駅伝2区で区間賞経験がある塩尻と、5区区間賞経験がある浦野が距離的に適性が感じられる。3000m障害の五輪連続代表を逃した塩尻は、種目を5000mや10000mに変えるプランがあるのは事実だ。5000mでは今季13分22秒80、10000mは順大3年時に27分47秒87と、すでにトップクラスのタイムを残している。
 だが、「本人がやられっぱなしで終わりたくない気持ちが強いようです」と高橋駅伝監督。種目決定にはもう少し時間をかけるが、「3000m障害に戻ったとしてもスタミナ負けしないように」と、長い距離への対応はしっかり行う。塩尻に4区を任せられるようになれば、富士通はニューイヤー駅伝連覇に大きく近づく。
 全日本実業団陸上が終われば、戦いの舞台はトラック&フィールドからロードに移っていく。

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TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

【全日本実業団陸上】
25日26日をYouTube TBS陸上ちゃんねるでライブ配信



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