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【全日本実業団ハーフマラソン2022プレビュー⑤Honda】

ニューイヤー駅伝優勝のHondaから区間賞コンビが出場

6区・中山は入社後初ハーフ、7区・土方は東京マラソンへのステップ

 ニューイヤー駅伝に初優勝したHondaからは6区(12.1km)区間賞の中山顕(24)、7区(15.5km)区間賞の土方英和(24)、そしてルーキーで1区(12.3km)を走った川瀬翔矢(23)が出場する。ニューイヤー駅伝では中山がトップを行く三菱重工を逆転し、勝敗を大きく左右する走りをした。今大会では個人種目でも結果を出すことが目標だ。土方は3週間後の東京マラソンで自己記録(2時間06分26秒)の更新を目指している。そして川瀬は苦手のスタミナ強化をして、トラックシーズンに結びつける。中山が入社3年目、土方が2年目、川瀬が1年目の若手トリオということもあり、3人とも自己記録は学生時代に出したもの。駅伝強化を通じて成長した姿を見せるレースにしたい。

●初優勝を託されたアンカーのプレッシャー

 ニューイヤー駅伝の土方英和は、初優勝がかかったチームのアンカー、という重圧をはねのけて区間賞の走りを見せた。

 6区の中山からトップでタスキを受けたとき、2位のSUBARUとは16秒差。距離にすると約100mだ。

「詰められているぞ、という声も聞こえてきましたし、先導車のガラスに後ろが映っていたので焦りは感じました。しかし自分のラップも悪くなかったので、自分を信じて走っていたら、チームのスタッフから15秒差だと情報があって、このままなら大丈夫だと思いました。大学時代にも出雲駅伝のアンカーで(國學院大の学生三大駅伝)初優勝のテープを切りましたが、そこまで優勝を狙ってはいなかったんです。今回のHondaは(39回目の出場で初優勝を)完全に狙っていました。全然違う緊張がありましたね」

 そのプレッシャーをはねのけられたのは、土方に力があったからに他ならない。入社1年目、昨年2月のびわ湖マラソンでは2位、2時間06分26秒の日本歴代5位と、チームスタッフも驚く快走を見せた。

 だがその大会は2時間9分未満が28人、2時間10分未満が42人と、記録が量産された。先週(2月6日)の別大マラソンでは、びわ湖で7~8分台を出した選手が低調な結果に終わり、「再現性がない」と日本陸連から厳しく指摘された。

 とはいえ、びわ湖の上位選手はそれに当てはまらない。日本記録(2時間04分56秒)で優勝した鈴木健吾(富士通・26)は10月のシカゴで2時間8分台、2位の土方は9月のベルリンで2時間11分台、3位の細谷恭平(黒崎播磨・26)は12月の福岡国際で2時間8分台と、次のマラソンでもそれなりの結果を出している。

 3人とも中間点を、自己記録を出したびわ湖より速いペースでの通過に挑戦したのだった。

●土方のハーフマラソンとマラソンの中間点タイム

 面白いのは土方のハーフマラソンの自己記録と、マラソンの中間点通過タイムである。

 大学3年時の日本学生ハーフで1時間02分02秒の自己記録を出し、4年時2月の丸亀国際ハーフでも1時間02分07秒とほぼ同じタイムで走った。そして丸亀の4週間後の初マラソン(東京マラソン)で2時間09分50秒の学生歴代4位で走っている。その時の中間点通過は1時間02分23秒で丸亀と変わらなかった。

 そのレースは大迫傑が日本記録(2時間05分29秒)で東京五輪代表最後の1枠をとった大会で、かなりのハイペースで展開した。土方は大迫より中間点で23秒後方だったが、その影響を大きく受けた(さすがに後半は1時間07分27秒と大きくペースダウンしたが。

 土方は21年のびわ湖も1時間02分36秒、同年ベルリンも1時間02分17秒と、マラソン3レース全てを1時間2分台で中間点を通過している。

 Hondaの小川智監督は実業団ハーフ出場の目的を「東京マラソンに向けての状態チェックです。目標タイムはありませんが、自己記録に近いところで走れれば」と話す。大幅な自己新を狙えるような仕上げ方はしていないようだが、3大会連続でマラソン中間点を1時間2分台で通過していることを考えれば、1時間01分30秒前後が出ても不思議ではない。

 3週間後の東京でそのくらいのタイムで中間点を通過したら、2年前と同じように後半で失速するが、実際には2年前と同じ1時間2分台の通過になるだろう。2年間の成長を考えれば大きな余裕を持つことができる。東京マラソンの目標である自己記録更新、日本人3人目の2時間6分突破に近づくことになるのではないか。

●練習が継続できている中山に1時間0分台の期待

 3年目の中山は今回が入社後初ハーフマラソンになる。

 そうなった理由は故障が多いからだ。毎年、実業団ハーフを「トラック以外の個人種目では最大目標にしている」(小川監督)が、毎回ニューイヤー駅伝で「力尽きていた」という。1年目は3区で区間2位と快走したが、その後は故障をした。2年目は故障明けに急ピッチでニューイヤー駅伝に合わせたが、3区で区間17位と低調な結果に終わり、回復に時間がかかった。

「今年のニューイヤー駅伝(6区区間賞)が良かったのも、練習が継続してできたからです。昨年の秋から半年間ケガなく来られていますが、入社して初めてのこと。ケアや補強を真剣に行っているからだと思います」

 今大会には土方と違い、結果を出すために出場する。6区では区間2位に27秒差を付けたし、区間3位の鎧坂哲哉(旭化成・31)は1週間前の別大マラソンで2位(2時間07分55秒)と快走したが、その鎧坂にも29秒差をつけていた。

 自己記録は大学4年時に出した1時間01分32秒である。学生時代からの成長を考えれば、自己記録を1分縮めても不思議ではない。レース展開もあることだが、天候が普通なら1時間0分台は期待していいはずだ。

 川瀬はニューイヤー駅伝1区では区間13位。区間賞選手から19秒差なので、ぎりぎり合格点といえる走りだった。ただ、2区のインターナショナル区間がHondaの弱点だったので、欲を言えばもう少し小さい差でタスキを渡したかった。

 川瀬は典型的なスピード型と思われている。皇學館大時代の記録も10000mは28分10秒41で学生シーズンリスト16位だったが、5000は13分28秒70で4位だった。短い距離の方が強いという印象が間違いなくあった。

 だが4年時の全日本大学駅伝は11.1kmの2区で区間賞、17人抜きを演じて見せた。そして東海学生記録を5000m、10000m、ハーフマラソンの3種目で持つが、最初に更新したのは大学2年時に1時間03分54秒で走ったハーフマラソンだった。

 そのタイム自体は高いレベルではないが、3年時の丸亀国際ハーフでは1時間01分18秒で走っている。ロードの記録は気象条件に大きく左右されるので安易な比較はできないが、ハーフの自己記録は3人の中で川瀬が最も良い。

「練習を見ていると先輩たちの方が強いのですが、流れに乗ることができれば自己記録も行けるかもしれません」(小川監督)

 中山が1時間0分台、川瀬が1時間1分前後、土方が1時間1分30秒前後と、3人全員がベストの結果を出せば、ニューイヤー駅伝に続きHondaが団体戦優勝する可能性もある。

●団体戦優勝はHondaか日立物流か

 Hondaの3人がベストの走りをしたとき、合計タイムは3時間3分台になる。今大会の団体戦はタイムではなく、3人の合計順位で争われる。昨年優勝した日立物流の上位3選手、7位の牟田祐樹(28)、8位の永戸聖(25)、10位の栃木渡(26)の合計タイムは3時間03分57秒だった(合計順位は25位)。

 強豪選手が多く出場する今大会は、Hondaに限らず3人全員が10位以内に入ることは難易度が高い。2年前の20年大会でHondaが団体優勝したときは、合計順位は33位だった。ただ、3年前の19年大会はトヨタ自動車が団体優勝し、合計順位は14位ととんでもなくレベルが高かった。

 今年も上記3チームが団体優勝の有力候補に挙げられている。日立物流は牟田、栃木、永戸、設楽啓太(30)が出場するが、永戸と設楽は中止になった丸亀国際ハーフからスライドしてきたため、団体戦の順位としてはカウントされない。多くエントリーしている若手の結果次第だろう。

 トヨタ自動車は10000m27分30秒台の太田智樹(24)と、27分50秒台の田中秀幸(31)が欠場になった。東京五輪マラソン代表だった服部勇馬(28)は自己記録(1時間01分40秒)更新が目標で、多くは望めない。ルーキーの西山和弥(23)に勢いがあるので、1時間0分台も期待できる西山がどこまで上位に食い込めるか。ベテラン大石港与(33)の復調も勝敗に影響するか。

 予想は本当につかないが、団体戦も面白い戦いになることは確かだろう。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト


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