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木南記念は大事を取って2本で試技を中止

今年の日本選手権(6月9~12日大阪市ヤンマースタジアム長居)は、7月の世界陸上オレゴン最重要選考競技会。フィールド種目で世界での活躍がもっとも期待できる選手が、男子走幅跳の橋岡優輝(富士通・23)である。東京五輪では6位に入賞。銅メダルまで11cm差という健闘を見せた。
 だが今季は屋外初戦で踏切脚の足首を痛めてしまった。第2戦の木南記念は7m76(±0)の3位、ゴールデングランプリは欠場した。幸い、それほど重くはないという。完治すれば標準記録(8m22)は高い壁ではないが、標準記録未突破でも世界ランキングで代表入りする可能性もある。日本選手権の橋岡に求められるのは、ケガを悪化させずに代表入りを確定させることだ。

【日本選手権プレビュー②】フィールド種目唯一の東京五輪入賞者。橋岡がケガや周囲の状況を見ながら世界陸上代表入りに挑戦

●木南記念は大事を取って2本で試技を中止

木南記念(4月30日)の橋岡は、日本選手権に合わせることを優先していた。足首を痛めたのは4月9日の日大競技会で、木南記念はアジア大会(9月に中国杭州開催予定が延期に)選考かかかっていたので出場したが、2回の試技で競技を中止した。
「2本目までに上手く跳んで世界陸上の標準記録を突破できれば、と思っていましたが、そう甘くはなかったですね。風が回って吹くなど気象条件も少し難しくて、跳躍と噛み合わなかったことも記録に影響しました。足首的にこれ以上やったら日本選手権に響く形になってしまう。その時点でやめました」
 橋岡の口からは何度も、「日本選手権に響かないように」という言葉が出ていた。標準記録を跳ぶことが一番の目標だが、万が一の時にも3位以内には入っておきたい。そうしておかないと、日本選手権3位以内に入った選手全員が標準記録を跳んだり、世界ランキングで世界陸上の出場資格を得たときに代表から漏れてしまう。
 日本選手権4位以下でも、出場有資格選手(標準記録または世界ランキング)が3人以上現れなければ橋岡は代表入りしそうな状況だ。1国3人カウントの世界ランキングで19位(5月31日時点)。優勝した前回(19年)のアジア選手権と昨年の東京五輪のポイントが高く、走幅跳出場人数枠の32人より下に落ちることは考えにくい。
 世界陸上への影響を考えれば、無理をしない選択肢もある。森長正樹コーチや富士通スタッフの見方も参考に、自身のケガの状況と他の選手の調子を見ながら日本選手権を戦うことになると思われる。

●ケガが完治すれば期待できる理由とは?

今季の橋岡には期待と不安の両方があった。期待できるのは、「かなり基礎体力が向上した」(橋岡)こと。「立ち幅跳び、立ち五段跳び、ショートスプリントの数値が上がっています」
 不安は助走が安定していないこと。3月の世界室内では3回ファウルで記録なしに終わった。4月9日の日大競技会は逆に、踏切板まで遠い助走になり、直前で踏切板に合わせに行ってしまった。「オーバーストライドで踏み切りに入りすぎて、足首を痛めてしまいました」
 だが、無理矢理踏切板に合わせた跳躍でも8m07(+0.1)が跳べたし、世界室内は少しのファウルで8m20以上の距離が出ていた。
「世界室内の感覚はすごくよかったです。3回ファウルの要因としては、各国の選手が転戦している中、僕は初めての試合で技術をまとめきれませんでした。(路面がしっかり固定されている)常設トラックかなと思っていたら、(跳ね返りが会場によって異なる特設の)ボードでの試合だった。そういったところでちょっと感覚がズレてしまったところもありました」
 森長コーチは今季の跳躍を、技術的にも高い内容になっているという。
「日大競技会のように最後が間延びしてしまった踏み切りの跳躍もありましたが、世界室内では接地の位置が良くて軸ができて、高さも出て、(実測の)距離も出ていました」
 日大競技会は「気持ちが入りすぎたのか脚を回しすぎた」(同コーチ)ため、助走で予定のストライドにならなかった。踏み切り4歩前が約10m手前になっていたという。9.0~9.4m付近であれば本来のストライドで踏み切りに入って行ける。
 出場予定だったゴールデングランプリ(5月8日)の目標を取材したときは、「小さくまとまらないように日本選手権に向けて模索していく」と話した。橋岡はしっかり重心に乗り込んで、大きな反発を地面から受け取ることが本来の助走である。そのときの状態次第ではスピードを上げるために脚を回す必要も生じるが、今は「一度、我に戻って自分を見直す」ことをしていくと話していた。
 足首の不安が日本選手権までになくなれば、「バンと上げる助走ではなく、バーンバーンと上げていく助走」(森長コーチ)を行う。一番避けたいのはケガを悪化させ、世界陸上でパフォーマンスを下げてしまうこと。橋岡の日本選手権は順位争いが重要だが、正しいストライドで踏切に入って行ければ、8m22の世界陸上標準記録突破は難しくない。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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