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【東日本実業団駅伝・レビュー】充実のHondaが2位

東京五輪代表の伊藤ら若手3本柱が区間賞
ニューイヤー駅伝では富士通、トヨタ自動車、旭化成と4強を形成

 2位のHondaは若手3本柱が存在感――東日本実業団駅伝は11月3日、埼玉県熊谷スポーツ文化公園陸上競技場及び公園内特設周回の7区間76.4kmのコースに23チームが参加して行われた。アンカーの7区(12.6km)で富士通に8秒差で競り負けたが、2位のHondaは1区(13.4km)の伊藤達彦(23)、3区(16.8km)の小山直城(25)、4区(8.4km)の青木涼真(24)の3人が区間賞を獲得。5区(8.4km)の小袖英人(23)、6区(8.4km)の川瀬翔矢(23)も区間上位で走り、7区の設楽悠太(29)らマラソンで実績のある選手も多い。昨年までは富士通、トヨタ自動車、旭化成が3強と言われていたが、今シーズンはHondaも加わり4強になる。

●区間2位とのタイム差を意識した伊藤

 五輪代表の力を示す走りだった。
 今大会は1周4.2kmの周回コースで行われた。1区の伊藤がスパートしたのは3周目。10.5kmの折り返し地点を過ぎると一気に仕掛け、残り約0.9kmの距離で2位の鈴木祐希(カネボウ・26)に13秒差を付けた。
「牽制し合ってスローになりましたが、風向きの変わるところで仕掛けたいと思っていました。予定通りの走りはできましたが、少しでも多くの貯金をすることが1区の役割でした。もう少し作りたかったのですが、13秒が精一杯でした」
 伊藤は前回のニューイヤー駅伝は、最長区間の4区(22.4km)を任されたが区間16位に終わった。1区の小山は5位と好位置につけたが2区、3区と順位を落とし、4区の伊藤も3人に抜かれて16位に落ちた。レース後に両大腿骨疲労骨折と右太もも裏肉離れが判明した。
 しかし今年5月の日本選手権10000mは27分33秒38(セカンド記録日本最高)で優勝し、東京五輪10000mに出場した。日本選手権後にヒザを痛め、五輪本番は22位(29分01秒31)に終わったのは悔やまれるが、伊藤はすぐに前を向いた。
「調子を上げられずに出場することになりましたが、そういう経験ができたことで、今後の大きな試合には強気に出られるようになる」
 故障の影響があったレースを除けば、昨年と今年の日本選手権など、伊藤はここぞというところで自ら仕掛けている。苦しいところで前に出たり、思いきりの良いスパートをしたり。東京五輪の経験が、そういった部分にさらに研きをかける。
 来年の世界陸上オレゴンの参加標準記録突破も、11月27日の八王子ロングディスタンスで狙う。ニューイヤー駅伝で前回の汚名を返上し、オレゴンで東京五輪の失敗を生かすシナリオだ。

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●青木は調整に不安を残した中での区間賞

 4区の青木も区間賞の走りでトップに立ち、東京五輪3000m障害代表の力を示した。
 Hondaは2区のジャスティス・ソゲット(22)が区間15位のブレーキで8位に後退したが、3区の小山が区間賞で2位に浮上していた。14秒差でタスキを受けた青木は1周(4.2km)通過時に4秒差に迫ると、トップを走るヤクルトを間もなく逆転。5区への中継では2位のヤクルトに24秒差とした。
 青木の区間タイムは23分40秒で、カネボウの池田耀平(23)に1秒差の区間賞。Hondaが逃げ切っていれば、一番の立役者と言われただろう。
「前半は気持ちが入って追い過ぎてしまい、後半の伸びが欠けていました。最低限、先頭に立つことが役割で、そこからどれだけ差を広げてルーキー2人(5区の小袖と6区の川瀬)につなげるか。なるべく良い位置で渡してやりたいな、と思っていました」
 青木の今季の充実ぶりが現れたレースだった。6月の日本選手権は3000m障害で3位に入り、8分20秒70と東京五輪参加標準記録も突破。東京五輪は予選落ちだったが、8分24秒82のセカンド記録と健闘した。9月の全日本実業団陸上は5000mで日本人トップの2位。13分21秒81の今季日本最高をマークした。
 だが全日本実業団陸上後に「少し痛みが出て、脚の詰まりがある」という状態がしばらく続き、東日本大会2~3前になってやっと状態が上がってきた。「今日はぎりぎり合格点」という自己評価。底力を発揮したレースだった。
 五輪以降は本職の3000m障害に出場していない。どの種目でパリ五輪を狙って行くか、まだ決めてはいない。来シーズンの目標記録を質問すると3000m障害は「8分15秒」と世界陸上オレゴン標準記録の8分22秒00を上回る数字を挙げ、5000mは「13分15秒」と言った後に「13分13秒50の標準記録も狙って行きます」と付け加えた。
 この2種目に同一大会で出場すれば、世界陸上では日本人初、五輪を含めてもちょうど50年ぶりとなる。

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●ニューイヤー駅伝の区間配置は?

 東日本大会では3区の小山も区間賞の走りを見せた。この3人が今のHondaでは3本柱で、「練習でも1つ上のレベル」(小川智監督)で行っている。ニューイヤー駅伝では1・3・4・5区に配置されるだろう。前回は1区が小山で区間5位、4区が伊藤で区間16位、5区が青木で区間2位だった。
 小山は入社1年目の前々回も1区で区間3位と好走している。東日本大会では1区に伊藤を起用したが、普通に考えれば1区が小山で4区に伊藤だろう。青木は「5区の区間記録が法大の坪田智夫監督が持っているので、それを破りたい」と5区を希望している。
 だが、小山のこの1年の安定した強さを見ると、4区への起用も十分考えられる。10000mを27分55秒16~28分01秒42で3レース走り、その全てが日本人1位を獲得した。東日本大会の最長区間も、臆せず力を発揮した。この冬にはマラソンにも進出する予定だ。
 全日本実業団陸上レース後には「伊藤、青木、(設楽)悠太さん、土方(英和・24)たちと練習をしっかり積むことができ、スタミナがついたのだと思います。初マラソン日本最高記録(2時間07分秒42秒)を更新し、日本代表になりたい」と話していた。
 Hondaの課題はインターナショナル区間の2区で、東日本大会でも区間15位とブレーキをしてしまった。その穴を少しでも埋めるには、東日本大会に続き1区で確実にリードできる伊藤を起用する方法もあるかもしれない。そのときは3区・青木、4区・小山という可能性もないとは言い切れない。
 5区以降の候補選手も、実績を残している選手が多数いる。設楽は4区で区間賞を3回取っている選手で、12月の福岡国際マラソンの疲労が取れていれば3本柱並みの活躍が期待できる。山中秀仁(27)は18年大会の5区で区間2位、中山顕(24)は20年大会3区でやはり区間2位。土方は前回7区で区間3位だった。
 前回の上位3チームである富士通、トヨタ自動車、旭化成も、個々の戦力を見ればすごい選手がそろっている。青木が次のように話していたのが興味深かった。
「まずは全員が100%の状態で臨み、その中で何人か120%の力を発揮する選手が現れたチームが勝つと思います」
 東日本大会では自身がアンカーで富士通に逆転を許したが、設楽は「自分が入社してから一番、戦力が整っています」と話した。
「ミスを1人もしなければ優勝は見えてきます。練習をもうひとレベル上げてニューイヤー駅伝へ向かって行きます」
 Hondaのギアがいよいよトップに入る。

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TEXT by 寺田辰朗 写真提供:寺田辰朗

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