見出し画像

【全日本実業団山口ハーフマラソン2021展望⑥スピードランナーたち】

5000mで東京五輪を狙う松枝が8年ぶりにハーフに出場
マラソン選手10000m最速の河合もエントリー

 全日本実業団ハーフマラソンが2月14日、山口市の維新百年記念公園陸上競技場を発着点とする21.0975kmのコースで行われる。今回の特徴として、トラックのスピードランナーが多く出場することが挙げられる。
 その代表的な存在が松枝博輝(富士通・27)で、5000mは日本選手権に2回優勝経験があり、1500mでも3分38秒12の日本歴代4位のタイムを持つ。今年のニューイヤー駅伝は1区(12.3km)区間賞でチームの優勝に貢献した。ハーフマラソンの距離はほとんど走っていないが、「5000mにハーフの持久力を生かす」ために、8年ぶりにこの種目に出場する。
 1500m&5000m型の選手としては田中秀幸(トヨタ自動車・30)、的野遼大(三菱重工・28)、舟津彰馬(九電工・23)らも日本トップレベル。スピード型選手の育成で高く評価されているトーエネックからは、河合代二(29)と服部弾馬(26)が出場する。

●松枝が塩尻をライバル視する理由は?

 松枝はTBSのオンライン取材において、後輩の塩尻和也(富士通・24)と自身の対決を、今大会の見どころの1つとして挙げた。

「『松枝vs塩尻(松枝だけ思っている)』という感じです(笑)」。

 本気で塩尻に勝てるとは思っていないが、本気で挑むことが自身の今後にプラスになる。だからこそ、富士通入社後では初めて、駅伝も含めて20kmを超える距離のレースに出場することを決めた。
 松枝は本職の5000mで昨年、13分20秒台で3回走っている。そのレベルを安定して出すことで、今年は13分13秒50の東京五輪参加標準記録に挑む下地ができた。だが、3試合のうち2試合は日本人2位と敗れている。7月のホクレンDistance Challenge千歳大会は遠藤日向(住友電工・22)に、12月の日本選手権はチームメイトの坂東悠汰(富士通・24)に先着された。
 どちらもハイペースで進み、残り数周のところで我慢できずに差をつけられてしまった。それでも最後の1周は切り換えてラストスパートを見せている。終盤でペースダウンを防ぐ力をつければ、松枝の勝機は大きくなるはずだ。ハーフマラソンに本気で挑戦することで、その力をつけることができる。
 塩尻との対決構図を作るのは、モチベーションを上げやすいからだろう。塩尻は順大時代からの後輩で、松枝自身が話しているように、学生の箱根駅伝の成績は大きな違いがあった。3学年差の2人なので、松枝が順大在籍時に同チームだったのは1シーズンだけ。箱根駅伝本戦では2区の塩尻から3区の松枝にタスキリレーをしたが、1年生の塩尻が区間8位で4つ順位を上げたのに対し、松枝は区間14位で2つ順位を下げた。
 塩尻は2年時にリオ五輪3000m障害代表になり、箱根駅伝ではエース区間の2区に4年連続出場。4年時には2区の日本人歴代最高タイムを出した。トラックからハーフマラソンまで走れるマルチランナーとして活躍した。
 松枝は富士通入社後、個人種目は得意とするトラックに専念し、1500mと5000mで日本トップクラスに定着。東京五輪を5000mで狙うまでに成長している。トラックで世界を狙う価値観が強くなったことで、学生時代の箱根駅伝の不振を気にせず、今回も塩尻に思い切り挑戦できるのだろう。
 松枝の勝機がまったくないわけではない。2人は5年前に箱根駅伝予選会(当時は20km)を一緒に走り、塩尻が勝ったが松枝も26秒差と粘った。その年の順大は松枝がキャプテンで、塩尻も松枝のインカレなどの勝負強さを尊敬していた。
 同じ状況ではないが、5年4カ月ぶりの20kmの距離での直接対決は、松枝のモチベーションを当時と同じくらいに上げている。先輩後輩の競り合いが、思ったより長い距離で見られるかもしれない。

画像1

●河合は10000mのスピードをロードに生かせるか

河合1

 河合代二も注目したい選手。
 大学までは10000m29分台と、全国的にはまったく目立たなかった。トーエネック入社後に、独自のスピード練習で27分ランナーを複数育成してきた松浦忠明監督のもとで成長し、昨年12月の日本選手権では27分34秒86の日本歴代6位までタイムを伸ばした。
 その間、マラソンでも2時間10分台で走り、19年MGC(マラソン・グランドチャンピオンシップ。2人が東京五輪代表に決定)にも出場した実績を持つ。10000mのタイムは大迫傑(Nike・29)や設楽悠太(Honda・29)よりも速く、マラソン選手中最速になった。今回の出場選手の中でも、10000m前日本記録保持者の村山紘太(旭化成・27)に次いで2番目に速い。
 ただニューイヤー駅伝4区では区間22位。「日本選手権の後、(2月28日の)びわ湖マラソンのことを考えてクロスカントリーで30kmをしたり、追い込みすぎてしまった」(松浦監督)ことが原因だった。
 ロードではトラックのスピードを生かしたレースがまだできていないが、今大会でそれができたとき、どんな走りになるか注目される。
 トーエネックからは服部弾馬も出場する。マラソン東京五輪代表の服部勇馬(トヨタ自動車・27)の弟だが、兄と違って完全にトラック型の選手で、日本選手権5000mでも優勝経験がある。ラストの切れ味は国内でも一二を争う選手で、東洋大4年時には箱根駅伝1区で区間賞も取っている。
 自身が速いペースで押し続けていくことはできないが、粘って最後まで食い下がればラストの強さを発揮できる。
 兄弟選手では田村友佑(黒崎播磨・22)も注目したい選手。10000mで19年日本選手権優勝、20年3位(27分28秒92の日本歴代3位)の田村和希(住友電工・25)を兄に持つ。地元の山口県出身でもある。
 九州実業団駅伝1区で区間賞を取ったこともあり、ロードでも徐々に実績を残している。兄譲りのスピードが発揮されれば、大化けする可能性がある。

●順大OBに多いスピードランナー

画像3

(左:田中秀幸 右:的野遼大)

 田中秀幸と的野遼大も松枝と同じ順大出身で、1500m&5000mを得意とする。中大時代に1年生でキャプテンを任されて話題になった舟津彰馬も、1500mのスピードが注目されるべき選手だ。
 松枝を含めた4人の1500mと5000mの自己記録は以下の通り。1500mで3分40秒のスピードは、ハーフマラソン出場選手としては異次元と言っていい。
----------------------------
松枝:3分38秒12・13分24秒29
田中:3分39秒98・13分22秒72
的野:3分41秒82・13分35秒63
舟津:3分38秒65・13分50秒79
----------------------------

 田中は順大で松枝の3つ上の学年。箱根駅伝4区、ニューイヤー駅伝6区で区間賞を取り、ハーフマラソンの自己記録も1時間01分33秒と最も良い。ニューイヤー駅伝の成績は1区で松枝が区間賞だったが、田中も松枝と2秒差の区間3位と健闘した。
 的野の所属チームの三菱重工はマラソン部。長い距離の練習を重視し、そこからトラックのスピードを上げることをコンセプトにしている。ニューイヤー駅伝は3区区間12位とまだまだだが、10マイル(約16km)ロードレースで優勝するなど、徐々に長い距離を走れるようになっている。
 舟津は5000mのタイムこそ落ちるが、10000mでは昨年28分05秒56を出し、4人の中では最もタイムが良い。ニューイヤー駅伝は1区区間28位と失敗したが、学生時代には箱根駅伝予選会で14位と、20kmで好走した実績もある。
 ハーフマラソンの距離では田中が最上位候補だが、どの選手も長い距離に適応すれば、すごい記録で走る可能性(スピード)を秘めている。スピードランナーたちの走りには要注意だ。

TEXT by 寺田辰朗 写真提供:フォート・キシモト

明日午後2時 TBS系列



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?