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【GGP2022レビュー①北口榛花&三浦龍司】

東京五輪ファイナルを経験した2人が優勝
世界陸上オレゴンの活躍を期待させる勝ち切り方

世界トップレベルの選手が多数参加した陸上競技コンチネンタルツアーの1つ、ゴールデングランプリ(GGP)が5月8日、東京・国立競技場で行われた。今年は日本人選手が優勝した種目が例年より多い大会となった。中でも男子3000m障害優勝(8分22秒25)の三浦龍司(順大・20)と女子やり投優勝(63m93)の北口榛花(JAL・24)は、7月の世界陸上オレゴンの活躍を期待できる勝ち切り方だった。

●北口は標準記録に7cmと迫る63m93

優勝記録は63m93。世界陸上オレゴン参加標準記録の64m00に7cm届かなかったが、北口は跳びはねて喜んだ。北口には多く意味がある記録だったのだ。
 1つは東京五輪で負傷して、約3カ月間十分なトレーニングが積めなかった。復帰後初めて、国際大会で戦えるレベルの記録を投げることができた。
 2つめは4月30日の木南記念(61m20で優勝)で生じた「上体が突っ込んでやりがカーブして飛んでしまった」という課題が修正できた。
 3つめは自分より実績が上の外国人選手がいる中で、1投目に好記録を出せた。
「久しぶりに日本の試合に世界のトップ選手が来てくれました。(ケルシー・リー・)バーバー選手(豪州)は東京五輪の銅メダリストですし、(リナ・)ムゼ選手(ラトビア)は私が高校でフィンランドに行ったときから、よく練習した間柄なんです。ハイレベルの選手たちがいるなかでも、1本目から64m投げるつもりになれました」
 東京五輪予選では1投目に62m06を投げ、結果的に順位で予選通過を果たした。だが記録で無条件に通過できる63m00を投げることができなかった。1回目の記録で通過できる確証がなかったため試技を続けたが、2回目が59m55、3回目はファウル。
 そして2投目以降で左わき腹を痛めてしまった(左斜腹筋の肉離れ)。決勝はまともに投げることができず、55m42で12人中最下位に終わった。
 ゴールデングランプリの1回目に63m93を投げたことは、世界陸上オレゴンでは東京五輪の二の舞を演じないことを意味していた。

●三浦がラスト1000mで計算通りの勝ち方

三浦がまったく危なげなく勝ちきった。
 残り1000mでスパートして前に出ると、高校時代のライバルであるルト・フィレモン・キプラガト(愛三工業/ケニア)が残り300mまで食い下がった。だが最後の周回のバックストレートで差を広げ始め、残り200mを切って一気に差がつけた。
「レースプランとしてはラスト1000mで切り換えて、上げられるところまで上げることを考えていました。それを達成できたのはよかったです。意図的に集団の中でレースを進めましたが、危ないと思った場面はありませんでした」
 優勝タイムは8分22秒25。自己記録の8分09秒92には及ばなかったが、これは想定済みのこと。五輪や世界陸上では牽制し合ってスローな展開になることがあるからだ。
「国際大会で先頭集団が切り換えたときに対応したり、自分が出ないといけない場面で押し切ったり、差し切ったりするゲームメイクの力が必要になってきます。それを研くために今日のラスト1000mがありました」
 三浦にすれば好記録ではなかったが、キプラガトや日本人2位選手との差は過去のレースよりも大きい。スパート力が上がっていることを証明したGGPになった。

●課題をクリアして世界陸上へ

北口、三浦とも世界レベルのパフォーマンスで勝ちきったが、課題もしっかりと確認した。
 北口は5投目にも62m96と好記録を投げたが、2投目以降に記録を伸ばせなかった。
「2投目以降は助走スピードを少し上げていったのですが、投げの動作が少し変わってしまいました。(助走スピードは上がっても)助走の全てをやりに伝えられているかといえば、ロスがあります。63mも62mも、もっと行くと思っていました。1投目だけやりを真っ直ぐ飛ばすことができましたが、まだ右脚を使ってなげるところの練習が必要です」
 そこができれば標準記録(64m00)は意識しなくてもクリアできる。逆に意識しすぎると、余分な力が入ってしまうことも多い。
「広く見て、遠くに投げることを目指して練習していきます」
 世界陸上参加標準記録は、今の北口なら心配ない。
 一方の三浦はすでに標準記録(8分22秒00)を東京五輪で突破済みである。GGPも余裕で勝ち切ったが、課題に挙げていた「障害に合わせること(ステップを調整して適切な位置で踏み切ること)」が十分ではなかった。
 通常のスピード時には障害に一度足を乗せて越えていくが、スピードを上げたときは障害に足を乗せずに飛び越える。残り1000mを切ってからは「本当であれば足をかけずに1000mをまとめたかったのですが、今日はスピードが上がっている中でもスピードを殺してしまっていました」
 GGPの残り1000mは2分42秒だったが、日本記録の8分09秒92を出した東京五輪予選は2分39秒0、7位入賞を果たした決勝は2分39秒8だった。
 前日会見で三浦は「タイム的な目標は定めていません。最低限8分30秒を切って8分20秒台を出せれば」と話していた。それがレース後は「8分22秒は思ったよりうれしくなかった」とコメントしている。文字通り“8分22秒”というタイム自体に不満が残ったのかもしれないが、残り1000mが2分40秒を切れなかった結果の“8分22秒”が、納得できなかったのではないか。
 速いレース展開の中でハードルにステップを合わせられなかったが、今年はまだ3000m障害に一度も出場していなかった。1500mで日本歴代2位、5000mで織田記念優勝と、他種目でスピードとスピード持久力を養成した。
「(ステップを合わせる課題は)技術的な練習も必要ですし、場数を踏むことで障害との距離感などを養っていきます」
 三浦は世界での戦いだけを意識して、シーズンを深めていく。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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