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【金栗記念2022レビュー①】

3000m障害東京五輪7位の三浦が1500mで日本歴代2位!
自他ともに驚きのシーズンイン

日本グランプリシリーズ初戦の金栗記念選抜中長距離熊本大会(4月9日。熊本えがお健康スタジアム)男子1500mで、三浦龍司(順大2年)が3分36秒59の日本歴代2位、学生新記録で優勝した。ラスト1周で遠藤日向(住友電工・23)がスパートして一時は10mほどリードしたが、最後の直線で三浦が力みのない動きで猛追。フィニッシュ直前でトップに躍り出た。2位の遠藤も3分36秒69の日本歴代3位だった。
 三浦の専門は3000m障害で、昨年の東京五輪ではこの種目初の入賞(7位。予選で8分09秒92の日本新)を達成しているが、1500mの10秒近い自己記録更新には驚かされた。ゴールデングランプリ(5月8日・国立競技場)、さらには7月の世界陸上オレゴン大会への期待が高まった。

●記録は考えていなかった三浦

日本記録(3分35秒42)に次ぐタイムを出しながら、三浦は「今回、記録はまったく意識していませんでした。結果オーライです」とレース後に笑顔で話した。
 3月26日に3000mを7分55秒43で走ってはいたが、まだトップスピードの動きはできなかった。塩尻和也(富士通)にも2秒先着されている。
「(3000mの後は)スピード練習を増やしてきましたが、まだシーズンは始まったばかりで、金栗記念を経て本格的にやっていく段階です。昨年は日本選手権クロスカントリー(2月)の後に脚を痛めて練習が中断しました。今年は走り続けられているので、良いスタートになっていますが、(本格的にはまだやっていない)スロースタートくらいでちょうど良いと思います」
 順大の長門俊介監督が練習の流れを、以下のように補足してくれた。
「2月から3月中旬までは(順大の特徴である)クロスカントリーが中心で、そこからトラックに移行し始めました。クロカンで速度を上げたり、トラックで練習を始めたりしていますが、まだトラック3、クロカン2くらいの割合で練習しています」
 1500mで3分40秒を切ることを狙った練習は、まったく行っていなかった。

●三浦のラストの強さを物語るデータと動き

それにしても、ラスト100 mの三浦の追い上げはすさまじかった。遠藤もラストに強い選手である。
 1500m前日本記録保持者の小林史和(NTN。現愛媛銀行監督)の通過&スプリットタイムと比較すると、三浦のラストの強さがわかる。

小林史和・04年ナイトオブアスレティック
400 m   57秒1
800 m 1分55秒5(58秒4)
1200m 2分53秒7(58秒2)
1500m 3分37秒42(43秒7)=当時日本記録
※平田和光氏計測

小林史和・07年世界陸上大阪大会予選
400 m 1分00秒40(60秒40)
800 m 2分02秒95(62秒55)
1200m 2分59秒84(56秒89)
1500m 3分41秒19(41秒35)
※主催者発表

三浦龍司・22年金栗記念
400 m   56秒7(56秒7)
800 m 1分56秒0(59秒3)
1200m 2分55秒1(59秒1)
1500m 3分36秒59(41秒5)=日本歴代2位
※動画から計測

小林は04年に日本記録を出しただけでなく、05年、07年と世界陸上に出場。五輪&世界陸上の男子1500mに出場した最後の日本人選手である。05年は先行策で終盤失速したが、07年は2組9位ではあったが予選を通過した。
 日本記録を出したときはラスト300 mが43秒7だったが、1200mまでは今回の三浦より速かった。07年世界陸上予選は前半がスローペースで、後半のスピードアップが激しかった。最後の300 mは41秒35だ。
 今回の三浦はその2つのレースの中間的な展開で、1200m通過は小林の前日本記録時より1秒4遅かったが、ラスト300 mは07世界陸上とほぼ同じスピードだった。
 レース展開について三浦は次のように話していた。
「800 mまで(2周目)の突っ込みが上手くいっていなかったと感じたので、トップスピードはもっと研いていかないと、と思いました。(最後の直線は)追いつけるか、追いつけないか、自分の余力と照らし合わせながらの走りでしたね。余力はありませんでしたが、1秒、2秒で変わってくる世界です。上手く最後を出し切れたのは、自分の判断力などが、もしかしたら良かったのかもしれません」
 長門監督は遠藤に約10mも差を開けられた点を、「国際大会だったらつかまえられない差です。対応しないといけないところでしょう」と課題として挙げた。だが、「動きを崩さずに追い上げたのはよかった」と、三浦のラストの強さの中身を評価した。

●3000m障害初戦のゴールデングランプリに向けて

今後は織田記念(4月29日)の5000mを経て、ゴールデングランプリで本職の3000m障害を走る。8分07秒75と三浦を上回る自己記録を持つジョナサン・ディク(ケニア/日立物流)と、高校時代は三浦に勝ち続けていたフィレモン・キプラガット・ルト(ケニア/愛三工業)が強敵だろう。しかし、ディクは15年を最後に8分20秒を切っていないし、キプラガットには自己記録で10秒の差をつけている。8分ヒト桁を狙えるペースになるかどうかは予測が難しい。
 三浦自身はゴールデングランプリで試したいことを問われて、次のように話した。
「去年は障害の技術面もそうでしたし、真ん中(1000~2000m)のラップが落ちるところもあったので、フラットに(落ちないように)していくことが課題でした。それらも踏まえて、今年は世界を目指しているので、流れが変動していく中でも自分の走りをすることや、ラストの持ち味を壊さないことを重視していきます」
 金栗記念の1500mで見せた“勝負どころの判断力”や、ラストスパートでも崩れない動きを発揮して、勝ちきることが目標になりそうだ。

TEXT by 寺田辰朗

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