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【別大マラソン2022プレビュー②】

ハーフの実績では参加選手中ナンバーワン
初マラソンの古賀淳紫が踏み出すマラソン・ロードへの期待

 注目の初マラソン選手が多数出場する第70回記念別府大分毎日マラソン大会(以下別大マラソン)が2月6日、7月開催の世界陸上オレゴン代表選考会を兼ねて行われる。初マラソン選手のなかでも期待が大きいのが、ハーフマラソンの実績では参加選手中一番の古賀淳紫(安川電機・25)である。佐賀県鳥栖工高から安川電機に入社して7年目。「初マラソン日本最高(2時間07分42秒)というところまでは意識していません。ある程度形にして次につなげられれば」と安川電機の山頭直樹監督。古賀はどんな成長過程を経て、マラソンに踏み出そうとしているのだろうか。

●2年前も意識していたマラソン出場

 古賀は以前からロードに強い選手として注目され、自身もマラソンに対して意欲を持っていた。2年前の全日本実業団ハーフマラソンで日本人1位(1時間00分49秒・日本歴代8位)となったときには、「本当はマラソンをやりたいのですが、マラソンにはそれなりの練習と気持ちが要ると思うので」とコメントしていた。マラソン練習をかなり具体的にイメージしていたのだろう。
 その好成績で、練習姿勢がさらに前向きになったという。山頭監督は「チーム練習でもつねに先頭に立ち、引っ張っています。意識が高いところに向いている」と説明する。
 昨年の2月の全日本実業団ハーフマラソンも日本人2位。市田孝(旭化成)が強さを見せた大会で、敗れた古賀も好走だった。当時、実業団連合の合宿でマラソンに出場する選手たちの練習に加わることもできたが、まだ踏み切れていなかった。
「マラソンは来年(22年)やろうと思っていますが、実業団合宿はマラソンのためというより、レベルの高い選手と一緒に練習することが目的でした」
 マラソン組の練習には加わらなかったが、どんな練習をしているのか、しっかりと観察していた。おそらく、自分がそのメニューを行ったとき、どこまでできて、疲労具合などどんな体の状態になるのか、イメージしていたはずだ。
 山頭監督にもマラソン出場の意思は何度も伝えていた。21年度の初めには、マラソン出場を具体的に話し合い始めた。

●ニューイヤー駅伝でも好走しマラソン出場の機が熟す

 しかし1年間を通じてマラソン用のメニューを行う、というスタンスではなかった。古賀はニューイヤー駅伝4区(22.4km)で区間賞を取ることを、以前から最大目標としていた。「マラソンと4区の両方を追い求めるのは厳しい」と、これも2年前のハーフマラソンの際に話している。

 安川電機のスタッフは古賀のことを、「慎重すぎるところもある」と感じている。距離の違う2つの種目に同時並行的に取り組むリスクはとれなかった。だが4区やハーフマラソンの距離をいつでもレベルの高い記録で走ることが、その後のマラソンに生かしていける。そう考えたのではないか。

 21年1月のニューイヤー駅伝は「チーム事情」(山頭監督)で3区(13.6km)に回って区間3位。区間賞の田村和希(住友電工。10000m27分28秒92の日本歴代4位記録を持つ)とは13秒差で、10kmの距離のスピードも、ロードなら日本トップレベルにあることを示した。11月には10000mで27分51秒64と、長距離ランナーの勲章の1つである27分台ランナーの仲間入りを果たした。

 そして今年1月のニューイヤー駅伝4区では1時間03分54秒で区間2位。12月の福岡国際マラソン2位(日本人トップ)の細谷恭平(黒崎播磨)に11秒敗れただけだった。

 別大マラソン出場を決めた経緯を、山頭監督が説明してくれた。

「2年前と比べてもハーフマラソンを確実に走ることができるようになっていますし、長い距離の練習でも余裕が出ています。本人から再三、チャレンジしたいと申し出がありましたし、あと1年後では(パリ五輪の代表選考過程などが)厳しくなります。やるならこのタイミングだと思いました」

 古賀のマラソン出場の機は熟していた。

●自身に適したマラソン練習を見つけるための初マラソン

 安川電機は12年ロンドン五輪の中本健太郎(現コーチ)、16年リオ五輪の北島寿典(37)と、五輪2大会に連続して代表を送り出した。中本はロンドン五輪6位、世界陸上モスクワ大会5位と入賞も果たしている。

 これも2年前の実業団ハーフの際に、代表の先輩たちをどう見ているかを質問された。それに対し古賀は「強さの秘訣は見てパッとわかるものではなく、人それぞれだと思う」と答えていた。チームに偉大な先輩がいる場合、それを見習ったり真似をしたりするのが普通である。しかし古賀は安易に決めつけず、どんな練習が自分に合っているかをじっくり考えていた。

 安川電機は選手によってマラソン練習が異なる。中本はしっかり走り込むタイプなのに対し、北島はそこまで走り込まないが、調整能力に優れていてピークをしっかりと合わせるタイプ。古賀は中本の練習を山頭監督から見せられたが、今の自分にそれはできないと判断した。

 それでもニューイヤー駅伝前の12月に、40km走を2回行っている。駅伝に向けて調整していく時期に、並行してマラソン練習にも取り組んでいた。その流れで4区を区間2位で走ったことは、マラソンへの期待を高める。

 ただ、1月には脚に少しだが痛みが出て、合宿を回避した。すぐに回復して40km走も1回行うことができたが、予定していたマラソン練習がすべてできたわけではない。

 重要なのは古賀自身が、今回のマラソン練習をどう感じているかだ。実際にマラソンを走ってみて初めて分析ができることだが、修正していくときに、代表経験のあるチームの先輩たちがどうしてきたかを参考にできる。その部分でこそ、周囲を観察する能力の高い古賀が本領を発揮する。

 まだ具体的なマラソン練習を確立していない段階だが、古賀がどんなマラソン・ロードを歩いて行くか、興味を大きく持てるし期待もできる。その第一歩を刻む別大の走りを注視したい。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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