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【日本選手権クロスカントリー2022・男女優勝者一問一答】

松枝がコースアウトしたのは「集中していた」から

小林は世界陸上オレゴン標準記録突破者の走り

 男女の優勝者が世界陸上に向けて強い意思を示した。日本選手権クロスカントリー2022は2月26日、福岡市の海の中道海浜公園クロスカントリーコースで行われ、シニア男子10kmは松枝博輝(富士通・29)が28分46秒で優勝。東京五輪の失敗から立ち直り、7月の世界陸上オレゴン挑戦を力強くアピールした。2連勝がかかっていた東京五輪3000m障害7位入賞の三浦龍司(順大2年)は、体調不良のため欠場となった。シニア女子8kmは昨年、世界陸上オレゴン10000m標準記録(31分25秒00)を突破している小林成美(名城大3年)が26分34秒で優勝した。

 優勝者2人のレース後の一問一答を紹介する。

●「世界陸上標準記録を切っているので、そのレベルの走りを」

――レースを振り返ると?

小林 トラックに合わせることを一番に考えているので、このクロカンは現状の確認という位置づけで出場しましたが、強い選手の欠場が多く、勝って当たり前だと思っていました。勝ちにこだわったレースをしようと考えていましたが、最初は同じ学年の山中(柚乃・愛媛銀行・21)さんに引っ張ってもらう展開でした。引っ張る力は自分にはなく、その間にリズムを作って最後まで粘ることはできましたが、周りに引っ張ってもらえたからできたこと。自分でもリズムを作る練習をしていかないといけません。

――フィニッシュ直前で猿見田裕香(ユニバーサルエンターテインメント・23)選手を抜いたところは?

小林 このまま(2位のまま)行ってしまうのかな、とも思ったのですが、それではいけない、と思い直しました。昨日の記者会見は、(男子の東京五輪代表3人と同席し)場違いなところに呼んでいただきました。昨年、オレゴン世界陸上の標準記録を切っているので、その自覚を持って、なるべくそのレベルの走りをしないといけない。良いイメージを作りたいので、最後まで押し切ろうと思って走りました。世界で戦うにはここは通過点だと考えました。

――全日本大学女子駅伝で5連勝中の名城大のキャプテンを引き継ぐことや、最終学年への思いは?

小林 (大任だという)自覚はすごくあります。キャプテンだった歴代の先輩たちも強かったので、チームを指揮していく面もありますが、まずは走って引っ張っていきたい。(最終学年は)最後にマラソンを走って締めくくりたいと思っていますが、やっぱり駅伝をしっかり勝って、後輩たちのために良い終わり方をしたい。

●「学生のうちに世界大会を目指すことができるのは、ありがたいこと」

――5月の日本選手権10000mまでのプランは?

小林 4月にはワールドユニバーシティゲームズ・ハーフマラソンの代表切符を、日本学生個人選手権(※)で手に入れないといけません。3月からはスピードを上げた質の高い練習が入ってきますが、チーム内でも同じ過程で練習していく選手がいます。切磋琢磨できるチームメイトがいるので、一緒に練習してピークを合わせていきます。

※3月に予定されていた日本学生ハーフマラソン選手権が中止になったため、特例として4月の日本学生個人選手権の10000mでハーフマラソンの代表も選考される。

――世界陸上を目指すことができるプレッシャーとやり甲斐は?

小林 プレッシャーとは思わないようにしていても、心の中のどこかでは期待に応えたいという気持ちがあります。私たちが競技をできるのも、支えてくださる方たちがいるからです。それに対して恩返しをしたいという気持ちがあります。それ(その真剣な思い)がプレッシャーになることもないわけではありません。でも、標準記録を切って世界陸上に出場できる権利を持っている選手が、日本に多くいるわけではありません。学生のうちにそうした上の大会を目指すことができるのは、ありがたいこと。感謝の気持ちをもって良い状態を作っていきたいです。

●「勝ちたい思いが強く、集中していたら(コースアウトする)ミスにつながりました」

――コースアウトしてしまった経緯は?

松枝 3周目で坂を下り終わってカーブするところですね。クロスカントリーは得意なんですが、捻挫のリスクもある種目です。集中して足元を見ていたらゾーンに入ってしまって、気がついたら(コースを区切る)青いひもが目に入ってきて。それだけ今回は強いメンバーが出ていて、調整こそしていませんが、勝ちたい思いが強かったんです。それが集中することになり、あんなミスにつながった。でも、しっかり修正できました。不得意の単独走でも(ペースを緩めず)押していく走りができました。

――今日、三浦選手が欠場になりましたが、そのことについては?

松枝 大学の後輩という少しのつながりですが、尊敬できるランナーです。日本人だから、ということを言い訳にしないで、外国人選手とやり合って東京五輪で(7位)入賞しました。率直にスゴいと思いましたし、自分もああなりたいと思いました。ここで勝ったからどう、ということはないのですが、世界陸上でどれだけ活躍できるかで、彼に近づけるかが決まります。

●「(5000mの)12分台にも本気で挑戦していきます」

――東京五輪(予選2組18位・14分15秒54)の悔しさ、反省はどんなものだったのでしょう?

松枝 五輪前にケガもありましたが、あそこまで勝負できないとは思っていませんでした。圧倒的に、何もかも足りない。この差をどう埋めるかを思い詰めて、結果、何がというのは明確に出てきませんでしたが、やり続ける、チャレンジするこしか自分にはできない。この思いを持って世界と勝負したいなと。負けたままでは情けないですから、オリンピックの舞台でしっかりリベンジしたい。

――思い悩んだ期間と、立ち直ったきっかけは?

松枝 一番は、立ち直りが早いタイプだったということでしょう。五輪後1カ月間は完全にオフにして、チームに合流後も1カ月間はそれほど走りませんでした。その2カ月間は何も考えられないし、やめたいなっていう気持ちもありました。でも、塞ぎ込んでいても仕方ありません。なりたい自分って何だろう、と自問したときに、ダサいなって思ったので。ちょうどその頃に結婚したい、という話をしていたので、そういうところで自分が走ることで何かあると思ったので。そういった面では家族は大きいですね。

――世界陸上オレゴン標準記録の13分13秒50への手応えは?

松枝 正直な話そのタイムは2年くらい前から手応えは感じてやっていますが、(自己記録が)13分24秒というところで停滞しています。しっかりケガなくやれれば出るタイムだと思います。あまり口には出していなかったですけど、12分台を目指してやっています。誰かしらが本気で狙っていかないと、いつまでたっても世界との差が縮まりません。出る出ないに関係なく、本気でチャレンジしていきたいとと思っています。

TEXT by 寺田辰朗

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