見出し画像

【プリンセス駅伝2021見どころ③ クイーンズ駅伝初出場へ】

東京五輪3000m障害代表の山中を擁する愛媛銀行、
ダイソー、岩谷産業、コモディイイダなどが初出場有力候補

 クイーンズ駅伝初出場するのはどのチームか。
 10月24日に福岡県宗像市を発着点とする6区間42.195kmで行われるプリンセス駅伝に、今年は31チームがエントリー。上位20チームにクイーンズ駅伝(11月28日宮城県開催)の出場権が与えられ、クイーンズエイト(前年の上位8チーム)とともに女子駅伝日本一を競う。
 16年に活動を開始した愛媛銀行は、今夏の東京五輪女子3000m障害に山中柚乃(20)を代表として送り込んだが、チームとしてはプリンセス駅伝を勝ち抜いたことがない。ダイソー、岩谷産業、コモディイイダ、埼玉医科大学グループなど、クイーンズ駅伝初出場をかけて出場するチームに注目したい。

●山中は区間賞よりも上位の流れに乗ることを重視

 五輪選手に成長した山中がプリンセス駅伝に再挑戦する。
 入社2年目の昨シーズンに大きく成長し、9月の全日本実業団陸上3000m障害に日本歴代7位(9分50秒05)で優勝した。だが10月のプリンセス駅伝では、1区(7.0km)で区間上位が期待されたが区間22位と振るわなかった。
 1500m前日本記録保持者の小林史和監督は、「甘さを痛感した」と振り返る。
「5kmまでは良い位置で走っていたのですが、5kmから激落ちしてしまいました。3000m障害の結果から何とかなると、過信してしまった。5km以上の距離に対して準備ができていませんでした」
 しかし今年に入り、山中はたくましさを増している。5月のREADY STEADY TOKYOで日本人トップの2位、6月の日本選手権には9分41秒84の日本歴代2位(現3位)で優勝した。五輪参加標準記録(9分30秒00)は破れなかったが、ポイントが高い試合で結果を残し、世界ランキングで五輪出場資格を得た。東京五輪は予選を通過できなかったが、9分43秒83と自己2番目のタイムを大舞台で出す健闘だった。
 だが、その後股関節に痛みが出て9~10月の試合は欠場している。負荷の高い練習はできなかったが、「五輪まで一生懸命練習したタメがあります。アスファルトは避けて芝生やトラックで3分20秒(/km)くらいのペース走を行い、1区のメドが立ちました」と小林監督。
 5000mの自己記録も、昨年の16分16秒32から15分54秒92に縮めている。タイム自体は平凡だが、5000mの出場機会が少ない事情がある。3000m障害のタイムから推測して、15分30秒前後の力はあるだろう。
 だが昨年のこともあり「区間賞までは難しいでしょう」と、小林監督は控えめな目標を設定した。「3分17秒くらいのペースなら山中も自信を持っています」。そのペースで1区の7kmを走り切れば23分00秒前後となる。昨年の区間賞タイムは佐藤早也伽(積水化学)の22分22秒だった。佐藤は9月に15分08秒72と来年の世界陸上オレゴン大会標準記録を破った選手である。
「山中はペースを守って、1区でしっかり流れを作ってほしい」
 五輪選手として区間賞に挑戦することよりも、今年に関しては確実に上位の流れに乗せる。それがクイーンズ駅伝初出場を目指すチームにとっては重要になる。

●“山中効果”でチームがレベルアップ

 愛媛銀行が予選を突破するには、山中が作る貯金を上手く使いたい。昨年は完全に下位の流れにはまってしまい、2区こそ22位と1区の順位を維持したが、3区で25位に後退するとフィニッシュまでその順位から上がることができなかった。全員が区間22~26位だった。
 昨年はコロナ禍の影響を大きく受け、県内レースの多くが中止になり、県外には移動することもできなかった。その状況は今年も続き、トラックレースに出ていない選手も多い。しかし10月の5000mで豊田由希が16分09秒97と自己記録を30秒以上更新。沖村美夏と菊池香帆も自己記録に迫った。
 3区が予定されている豊田はマラソン出場も予定していて、8、9月には月間1000km以上走ったという。
「3区終了時点で15位くらいにはいたいですね。沖村は去年も5区で粘りの走りをしています。想定より悪い順位でタスキを受けるとオーバーペースになりがちですが、15位くらいにいれば後半区間の選手も自分の走りができると思います」
 山中が一枚看板のチームであるのは確かだが、チーム内では山中を別格視はしていない。「豊田、沖村、菊池の3人は、最後の1本は差が出ますが、山中と同じ設定で練習を行っています。豊田が勝つこともありますよ」
 それでも山中が故障をしたことで、山中に頼っていたことにチームメイトたちが気づいたという。「自分たちが頑張らないといけない、という雰囲気になっています」
 上位の流れに乗せる役目は山中しかできないが、その流れを維持できるチームに愛媛銀行は成長している。

●世界陸上マラソンに出場した中野がチームを牽引

 岩谷産業も17年に活動を開始した新しいチーム。アテネ五輪マラソン金メダリストの野口みずきを指導した廣瀬永和監督が指揮をとり、今年は「絶対にプリンセス駅伝を通過する」と意気込んでいる。
 エース区間の3区は19年の世界陸上ドーハ大会マラソン代表だった中野円花(30)が予想される。典型的なスタミナ型の選手だったが、今季は3000m9分17秒32、5000m15分47秒13、10000m32分22秒17とトラック3種目の自己記録を更新し、駅伝のスピードにも十分対応できる。
 今年1月に10000mで32分17秒62で走った大同美空が1区か5区に入れば盤石だったが、2月の全日本実業団ハーフマラソンで転倒し、股関節の骨挫傷で長期間離脱した。主要区間以外には起用できそうだが、戦力ダウンは否めない。
 しかし安井絵理奈が好調で、9月、10月と5000mで自己記録と10秒程度の差で2本走っている。5区、あるいは3区を任せられることになる。そうなると、1区の選手がどの位置でタスキを渡せるかが重要になりそうだ。
 明るい材料は、飯田怜がメンバー入りしそうなこと。プリンセス駅伝18年大会2区で頸骨を複雑骨折し、最後は這ってタスキを運び3区に中継した。10月2日に約3年ぶりにレースに復帰し、同16日には3000mで自己新をマークした。飯田が元気な走りを見せればチームは勢いづく。
 新しいチームといえども、紆余曲折を経て今のポジションで戦っている。クイーンズ駅伝初出場を成し遂げたとき、その過程に必ずドラマがある。

画像1

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?