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競歩メダリストや男子走高跳入賞の真野ら、世界陸上オレゴンで活躍した選手が多数出場。代表同士が対決する種目も!【全日本実業団陸上2022プレビュー①】

 全日本実業団陸上が9月23~25日の3日間、岐阜メモリアルセンター長良川競技場で開催され、7月の世界陸上オレゴンで活躍した選手が多数出場する。各種目の優勝者には9点、2位7点、以下8位(1点)までポイントが与えられ、チームの総合得点で対抗戦が行われる。代表同士が戦う種目もあり、優勝の持つ意味が大きい大会といえるだろう。また世界陸上や日本選手権などで生じた課題をクリアしたり、冬期練習に入る前に再確認できる大会でもある。選手によって目的が異なる試合だけに、競技後の表情やコメントにも注目したい

●北口出場なら世界的パフォーマンスに注目

 世界陸上オレゴン入賞選手が8人、12位以内(フィールド種目の決勝進出相当)の選手も含めると以下の14人がエントリーした。

<男子>
出場種目:選手(世界陸上オレゴン成績)
200 m:佐藤風雅(4×400mR4位1走)
400 m:ウォルシュ・ジュリアン(4×400mR4位3走)
10000mW:山西利和(20km競歩金メダル)
      池田向希(20km競歩銀メダル)
      川野将虎(35km競歩銀メダル)
      野田明宏(35km競歩9位)
走高跳:真野友博(8位)
走幅跳:橋岡優輝(10位)
やり投:ディーン元気(9位)
<女子>
5000m:田中希実(12位)
10000mW:藤井菜々子(20km競歩6位)
      園田世玲奈(35km競歩9位)
やり投:北口榛花(銅メダル)
    武本紗栄(11位)

最も注目されるのは世界陸上オレゴンで、五輪も含め女子フィールド種目史上初のメダルを獲得した北口榛花(JAL・24)の投てきだ。世界陸上後も単日(または2日間)開催の大会では世界最高レベルのダイヤモンドリーグを転戦。自己2番目の65m10をはじめ世界レベルでも安定した記録を投げ続け、ダイヤモンドリーグ最終戦で日本人過去最高の3位に入った。
 練習拠点のあるチェコから9月20日に帰国。メディカルチェックも行い、出場を最終的に決めるのは直前になるが、出場すれば世界的なパフォーマンスを見せてくれるだろう。気象条件に恵まれれば66m00(19年)の日本記録更新も期待できる。
 男子10000mWには20km競歩の世界陸上金メダリストの山西利和(愛知製鋼・26)と、銀メダリストの池田向希(旭化成・24)が揃う。国際大会で行われている20kmと35kmではなく、距離が10000mと短い。スピード練習や歩型チェックの意味合いが濃くなるが、短い距離での現役世界1、2位のスピード争いは、この大会でしか見られない。
 20km競歩ではめったに警告を受けない2人だが、東京五輪では勝負どころでペースを上げた際に出されている。ライバルと争ったときに、注意や警告を出されないための絶好のシミュレーションに今大会はなるだろう。
 山西はオレゴンの金メダルで、来年の世界陸上ブダペスト大会の出場権を持っている。池田も来年の1~4月に参加標準記録を突破すれば代表に内定する。来年2月の日本選手権に出場しなくても問題ない2人だが、山西は尊敬する鈴木雄介(富士通・34)の持つ世界記録更新を来年2~3月の目標としている。池田も同じレースに加わるなら、全日本実業団陸上10000m競歩が前哨戦的な意味合いを持つ。
 そしてオレゴンで800 m、1500m、5000mと日本人としては初の世界陸上個人3種目出場を果たした田中希実(豊田自動織機・23)は、日本記録を持つ1500mと世界陸上で12位と健闘した5000mにエントリーした。1500mが大会1日目で5000mが3日目。現時点では両種目とも出場予定で、田中健智コーチは「5000mは(シーズン後半では)全日本実業団陸上が一番狙える」と話している。
 14分40秒台のタイムを持つテレシア・ムッソーニ(ダイソー・20)とカリウキ・ナオミ・ムッソーニ(ユニバーサルエンターテインメント・23)ら、外国勢が速いペースを作れば、14分52秒84の日本記録更新も可能性がある。

●世界陸上オレゴン(+東京五輪)代表同士の対決

メダリスト・入賞者同士の対決は男子10000m競歩だけだが、女子やり投にはオレゴン11位の武本紗栄(佐賀スポ協・22)が出場。ファイナリスト同士の戦いになる。武本も期待の高い選手。今の北口に勝つのは難しいが、自己記録の62m39を更新すれば勝負ができる。
 男子走幅跳はオレゴン10位、昨年の東京五輪6位入賞の橋岡優輝(富士通・23)が絶対的な本命だが、オレゴンから帰国後に1カ月近く休養期間を取った。ブダペスト参加標準記録の8m25は破っておきたいが、十分な準備をして臨むわけではない。オレゴン代表で日大の先輩にあたる山川夏輝(佐賀スポ協・27)にもチャンスはある。ともに東京五輪代表だった津波響樹(大塚製薬・24)と城山正太郎(ゼンリン・27)も出場。8mジャンプの応酬が見られるかもしれない。
 走幅跳には110mハードル日本記録保持者で、世界陸上オレゴンでも準決勝に進出した泉谷駿介(住友電工・22)もエントリーしている。泉谷は走幅跳でも7m92の自己記録を持ち、追い風参考では8m09(+3.8)を大学2年時に跳んでいる。どんな跳躍を見せるか興味深い。
 男子走高跳ではオレゴン8位入賞の真野友博(九電工・26)と赤松諒一(アワーズ・27)、男子やり投はオレゴン9位のディーン元気(ミズノ・30)と小椋健司(栃木県スポ協・27)が激突。走幅跳も含め男子フィールド3種目では、世界陸上ファイナリストと世界陸上代表が戦う構図になる。
 女子100mハードルはともに、オレゴンの準決勝に進出した福部真子(日本建設工業・26)と青木益未(七十七銀行・28)が激突する。オレゴンでは福部が12秒82と、青木が持っていた日本記録の12秒86を更新した。だが帰国後のAthlete Night Games in FUKUIでは、12秒92の同タイムの接戦を青木が制している。東京五輪代表で、12秒87(元日本記録)を持つ寺田明日香(ジャパンクリエイト・32)が完全復調していれば、2人の争いに加わることができる。
 男子100 mの坂井隆一郎(大阪ガス・24)と多田修平(住友電工・26)の対決も白熱しそうだ。ともに関西の大学出身で学生時代から何度も対戦してきたが、学年が1つ上の多田が勝つことが多かった。しかし今季は坂井が成長し世界陸上で準決勝まで進出したのに対し、東京五輪代表だった多田は代表入りできなかった。
 自己記録は多田の10秒01に対し坂井は10秒02と、拮抗している。ともにスタートを武器にすることも共通点だ。序盤のスピードは世界トップレベルの争いになるが、スタートでリードした方が勝つとは限らない。2人とも後半のスピードダウンを小さくできたときに、好成績を出している。スタートダッシュも後半も、目が離せない戦いになる。


●男女5000mには異なる種目の代表が多数出場

代表選手数が多いのが、競技人口が多い短距離と長距離である。女子も東京五輪、世界陸上オレゴンとリレー種目が出場できるようになり、男女とも多数の代表経験選手が全日本実業団陸上に出場する。
 男子100mには坂井と多田以外にも、オレゴン200mで準決勝に進んだ飯塚翔太(ミズノ・31)、東京五輪4×100 mR補欠だったデーデー・ブルーノ(セイコー・22)、飯塚とともにリオ五輪4×100 mリレー銀メダルメンバーだったケンブリッジ飛鳥(Nike・29)が出場する。200 mにはオレゴンで準決勝に進んだ上山紘輝(住友電工・23)と、400m代表で4×400mリレー4位入賞時1走の佐藤風雅(那須環境・26)がエントリー。
 4×400mリレー4位入賞時の3走だったウォルシュ・ジュリアン(富士通・26)は、日本新も期待されている400 mにエントリーしたが、残念ながら今大会は欠場予定だ。
 女子100mにはオレゴン4×100 mリレー2走の君嶋愛梨沙(土木管理総合・26)、3走の兒玉芽生(ミズノ・23)、4走の御家瀬緑(住友電工・21)と、リレーメンバー3人が揃った。東京五輪4×100 mリレー3走だった齋藤愛美(大阪成蹊学園職・23)、4走だった鶴田玲美(南九州ファミリーマート・25)も加わる。日本選手権、布勢スプリントと11秒36を連発し、8月のAthlete Night Games in FUKUIも勝った君嶋に、日本人2人目の11秒2台の期待がかかる。
 女子200mにも兒玉、齋藤、鶴田、君嶋と4×100 mリレーメンバーが揃う。さらには男女混合4×400mリレーで世界陸上オレゴンに出場した松本奈菜子(東邦銀行・26)と小林茉由(J.VIC・25)もエントリーした。松本は400 mで今季52秒台を2度マークしているだけに、本職の400 mでも日本歴代2位(52秒38)が射程圏だ。
 男子5000mには異なる3種目のオレゴン代表4人がエントリーした。10000mの伊藤達彦(Honda・24)、3000m障害の青木涼真(Honda・25)と山口浩勢(愛三工業・31)、そしてマラソンの星岳(コニカミノルタ・24)。この種目では前回日本人トップの青木が強そうだが、1500m日本記録保持者の河村一輝(トーエネック・24)や10000m日本歴代4位を持つ田村和希(住友電工・27)も参戦。興味深いレースになる。
 女子5000mも多彩なメンバーだ。前述の田中に加え、オレゴン5000m代表だった萩谷楓(エディオン・21)、10000m代表だった五島莉乃(資生堂・24)、3000m障害代表だった山中柚乃(愛媛銀行・21)、そして東京五輪10000m代表だった安藤友香(ワコール・28)がエントリーしている。
 女子10000mも同様で安藤、萩谷に加え東京五輪マラソン代表だった前田穂南(天満屋・26)も参戦する。
 エントリーした全員が出場するとは限らないが、全日本実業団陸上はそのシーズンの国際大会代表だった選手が最も多く出場する大会だ。代表選手のパフォーマンスを存分に楽しめる大会である。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト


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