【全日本実業団ハーフマラソン2022プレビュー①女子展望】
東京五輪10000m代表だった新谷と安藤がエントリー
世界陸上オレゴン標準記録突破済みの五島と木村が五輪コンビに挑戦
全日本実業団ハーフマラソンが2月13日、山口市の維新百年記念公園陸上競技場を発着点とする21.0975kmのコースで行われる。女子には新谷仁美(積水化学・33)と安藤友香(ワコール・27)の東京五輪10000m代表コンビが出場する。2人は3月のフルマラソンに出場予定で、そこに向けてのステップだが、新谷はこと勝負に関しては本気で勝ちに行くと明言している。資生堂コンビの木村友香(27)は5000mで、五島莉乃(24)は10000mで世界陸上オレゴン標準記録を突破している。トラックのスピードを武器とする資生堂コンビが東京五輪代表コンビにどう挑んでいくか。マラソン組とトラック組の対決が白熱しそうな様相を呈している。
●マラソンへのステップにしたい新谷
東京五輪代表では、ともに10000mに出場した新谷仁美(東京五輪21位)と安藤友香(同22位)がエントリーした。2人とも3月のフルマラソンに出場予定ということも共通点だ。
新谷は10000mだけでなく、ハーフマラソンの日本記録保持者でもある。2年前の1月に米国ヒューストンで1時間06分38秒と、福士加代子(ワコール・39)が持っていた1時間07分26秒を大きく更新した。
今回は13年ぶりに出場するフルマラソン(3月6日の東京マラソン)に向けてのステップとすることが目的だ。
「あくまでも東京マラソンのためのハーフという位置づけです。タイムやレース展開はマラソンを意識して走ります。ただ、勝負に関しては関係なくやります」
日本記録を狙うハイペースで走ることはないが、勝負にはこだわる。トラックで見せる独走には持ち込まずに集団で走るが、タイミングを見てスパートをかける。スパートが何km地点になるかは、走り出してから決めることになるが、おそらく1km以上を残した地点からのロングスパートになる。
安藤は昨年のこの大会に1時間09分54秒で優勝した選手。翌3月の新潟ハーフマラソンも1時間10分10秒で制した。4月の金栗記念10000mで31分46秒80のセカンド記録をマークし、5月の日本選手権10000mで31分18秒18の自己新。五輪標準記録を突破して2位となり、東京五輪代表入りを決めた。
昨年はハーフマラソンを上手く10000mにつなげたが、東京五輪後には再びマラソンで代表を目指すことを明かした。安藤は17年の名古屋ウィメンズマラソンに2時間21分36秒の初マラソン日本最高で2位(日本人トップ)と快走し、世界陸上ロンドン大会に出場した実績を持つ。
10000mのためのハーフと、マラソンのためのハーフ。位置づけは違うが、そのどちらのノウハウもワコール・チームは持っている。ハーフマラソンの前日本記録保持者の福士加代子が、トラックでは五輪、世界陸上とも9位に入り、マラソンでは13年世界陸上モスクワで銅メダルを獲得した。
マラソンに向けて現状の確認が一番の目的となるが、ワコール勢は自己記録の更新をつねに意識している。新谷に勝てるかどうかはやってみないとわからないが、19年に出した1時間09分38秒を更新するようなら、次のマラソンでも自己新が期待できる。
2人以外では福良郁美(大塚製薬・24)、岩出玲亜(東日本実業団連盟・27)、和久夢来(ユニバーサルエンターテインメント・26)、伊藤舞(大塚製薬・37)、渡邉桃子(天満屋・23)、竹本香奈子(ダイハツ・25)、足立由真(京セラ・25)、池田千晴(日立・28)らが3月のマラソン出場を予定している。
●絶好調の五島がどんなレース展開に持ち込むか?
新谷と安藤がマラソンを目標としているのに対し、五島莉乃(24)と木村友香(27)の資生堂コンビはトラックで、今年7月開催の世界陸上オレゴンを目標としている。昨年11月のクイーンズ駅伝の資生堂の2位に、木村は1区区間2位、五島は5区区間賞(区間新)の走りで貢献。翌12月のエディオン・ディスタンスチャレンジ5000mで木村が15分02秒48の自己新でオレゴン標準記録を突破し、同大会10000mで五島が31分10秒02の自己新で、やはりオレゴン標準記録を突破した。
国際大会の経験では19年世界陸上ドーハ5000m代表だった木村が勝るが、長い距離では五島の方が実績がある。木村は1500mでも日本選手権に勝ったことがあるスピードランナーだが、ハーフマラソンにはおそらく初めての出場となる。だが1月の全国都道府県対抗女子駅伝では9区10kmを、31分50秒の区間3位で走った。徐々にロードの長めの距離にも対応し始めている。
それに対し五島は、トラックでも日本インカレ10000m2位の実績を持って入社したが、ハーフマラソンでも大学4年時に1時間11分17秒で走っている。そして今の五島には勢いがある。
クイーンズ駅伝5区では新谷に1秒勝って長距離関係者を驚かせた。全国都道府県対抗女子駅伝1区(6km)では、東京五輪1500m7位入賞者の田中希実(豊田自動織機TC・22)を4km手前で振り切って区間1位。「田中さんと勝負するには早い段階でペースアップするか、速いペースで押して行くか、でした。プラン通り走ることができました」
クイーンズ駅伝5区もエディオン・ディスタンスチャレンジ10000mも、五島は独走で結果を出している。新谷や安藤に対し五島が、ハーフマラソンの距離でどんな戦いを挑むのか。今大会一番の注目点と言っていい。
五島の10000mの記録からすると、1時間8分台のペースに持ち込む力は十分ある。1時間08分11秒の大会記録も期待できる。
●2年連続2位の筒井、トラックで好調の森と川口
前回大会で安藤に16秒差の2位になった筒井咲帆(ヤマダ電機・26)、23秒差で3位の原田紋里(第一生命グループ・23)が今年も出場する。筒井は一昨年も今大会で2位。そのレースで1時間09分14秒の自己新を出した。今大会では毎回強さを発揮している。
原田の21年シーズンは全試合で安定した成績を残したわけではないが、昨年の3位でワンランク上のレベルに達したのは間違いない。課題はスピード、爆発力といった部分。1時間10分を破る走りをしたい。
トラック組では森智香子(積水化学・29)、逸木和香菜(九電工・27)、川口桃佳(豊田自動織機・23)、小笠原朱里(デンソー・21)らが注目される。
森はエディオン・ディスタンスチャレンジ5000mを15分21秒42と快走し、自己記録を20秒以上更新した。逸木は9月の全日本実業団陸上10000mで32分04秒67と、前年までの自己記録を30秒以上上回って4位(日本人3位)。川口はエディオン・ディスタンスチャレンジ5000mで15分27秒13の6位。自己記録に約3秒と迫った。
小笠原は21年シーズンの自己新こそなかったが、高校2年時に15分23秒56で走っている逸材だ。昨年11月のクイーンズ駅伝5区は区間6位、一昨年は区間2位だった。前回15位などすでにハーフマラソンは何度か経験しているが、将来的にマラソンで代表入りを狙っている。何かやってのけそうな雰囲気を持っている選手だけに、目を離さないようにしたい。
TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト