標準記録を破りながら世界陸上オレゴン代表を逃した110mハードル髙山13秒10の日本歴代2位、今季世界8位記録でブダペストへ好発進【オールスターナイト陸上2022】
19年世界陸上ドーハ大会110mハードルで準決勝まで戦った髙山峻野(ゼンリン・27)が、再度世界に挑む態勢を整えた。8月6日のオールスターナイト陸上(実業団・学生対抗@レモンガススタジアム平塚)で13秒10(+0.6)の日本歴代2位で圧勝。泉谷駿介(住友電工・22)が昨年マークした13秒06(+1.2)の日本記録に0.04秒差と迫った。
6月の布勢スプリントで世界陸上オレゴン参加標準記録(13秒32)を破ったが、日本選手権(5位)で選考基準の3位以内に入っていなかったために代表入りを逃していた。
13秒10は今季世界8位と、世界トップレベルの記録。どのようなプロセスで髙山は復活してきたのだろうか。
●手応えがあった飛び出しと中盤の脚の回転
バックストレーで行われた110mハードル。髙山は1台目からリードを奪うと、2台目以降も差を広げ続け2位に0.34秒の大差で圧勝した。2位の豊田兼(慶大2年)も13秒44の日本歴代11位、学生歴代3位の好記録だったことを考えると、髙山の強さが際立っていた。
13秒10のタイムに対しては「13秒3台が出ればいいかな、と思っていたので予想外です」という感想だが、振り返れば手応えもあった。
「思った飛び出しができ、その勢いのまま最後まで行くことができました。中盤あたりからも、自分の思うように脚を回せていたので、もしかしたら自己記録(13秒25の日本歴代3位=19年)くらい出るかな、と。ずっと自己記録を目指してやって来たので、3年ぶりの自己新はうれしいですね」
快記録の要因に予選で13秒31(+0.5)、決勝で13秒32(-0.5)を出した布勢スプリント(6月26日)後の練習を挙げた。
「布勢から1カ月と10日、練習がしっかりできました。ウエイトトレーニングも積んで、パワーを出せるようにして、走りと噛み合わせられた」
19年にタイ記録を含め日本記録を4回マークし、世界陸上ドーハでは準決勝に進出。予選では当時の海外日本人最高、五輪&世界陸上を通じて日本人最高タイムである13秒32(+0.4)で走った。
だが21年に金井大旺(当時ミズノ。昨シーズンいっぱいで引退)が13秒16、泉谷駿介(住友電工・22)が13秒06と日本記録を更新したのに対し、髙山の20年は13秒34、21年も13秒37と伸び悩んだ。泉谷、金井とともに出場した東京五輪は、髙山だけが予選止まりだった。
何度か見舞われた故障が髙山の行く手を阻んでいた。21年はシーズン序盤に背中を痛めた影響が続いていた。布勢スプリント後に「一番大きいのはケガがなく継続できたことですね」と話したのは、20~21年の停滞が悔しかったことの裏返しだろう。
●一見後ろ向きの髙山節も全開
レース後のコメントも絶好調だ。
「たぶん今日が人生のピークなので、次は13秒3台を安定して出したい」
「今日はたまたまなので、今日のことは忘れてしっかり練習していきたい」
「僕の身長と脚の長さでは、今がいっぱい、いっぱいなので」
一見後ろ向きにもとれる内容を連発するが、心理学的な見地も踏まえて、意識的に控えめな発言をするのが髙山流である。日本記録を連発した19年も「今がピーク」とコメントしていた。
自己記録更新はしたいが、13秒3台を意識した方が技術やトレーニングのやるべきことが明確に意識できるのだろう。13秒10の記録に浮かれることなく、今後もトレーニングをしっかり継続することが重要だと、自身に言い聞かせている。
身長と脚の長さのコメントは、その後に「今がいっぱい、いっぱいなので、あるとすればもう少しウエイトをして、体重も増やして地面に伝えられる力が大きくなれば変わってくるかな」と続けている。
“地面に力を伝える”という部分は、19年と比較したときのコメントにも出てきた。「3年前に13秒3台を連発したときは、それなりに強い追い風が吹いていて、走らされていた感じです。今回はしっかり地面を踏めていたので、進歩しているのかな」
世界陸上オレゴンの代表を逃したのは前述のように日本選手権で5位と敗れたから。「4月頭に食あたりになったり、アキレス腱を痛めたりして、練習が積めなかったんです。(準備期間が少ないなかで)やり過ぎたし、調整、調整でウエイトなどしっかり積めなかった」
結果を出せなかった日本選手権から、練習をしっかり積んで臨んだトワイライト・ゲームスでの今季世界8位のタイム。謙遜コメントの合間に明かした自己分析からも、髙山が自己記録更新の手応えをつかんでいるのは明らかだった。
●世界のファイナルへ泉谷と先陣争い
110mハードルは今、上り調子の種目である。世界陸上ドーハで髙山が、東京五輪では金井と泉谷が、そして世界陸上オレゴンでも泉谷が準決勝に進出した。東京五輪では13秒32が、世界陸上オレゴンでは13秒31が、準決勝突破ラインだった。
東京五輪予選で13秒28(-0.2)を出した泉谷が、この種目初の五輪&世界陸上決勝進出の有力候補だったが、オールスターナイト陸上の結果で髙山もそこに加わった。
「平塚のトラックは相性も良いし、風もプラスに働いたのかな、と思いますが海外レースになるとまた違います。海外の試合はあまり出たくないです」
ここでも後ろ向きのコメントにしているが、海外の試合で力を発揮する難しさを正確に把握しているからこそのコメントだ。18年のジャカルタ・アジア大会(銅メダル)でも、翌年の世界陸上ドーハでもそこを克服して結果を出している。
ドーハでは予選で13秒32(+0.4)と全体5番目のタイムを出した。準決勝で失敗したのは、前半のスピードが上がりすぎてハードル間を刻みきれずにハードルにぶつけてしまったからだ。泉谷も東京五輪と世界陸上オレゴンの準決勝で、自身の走りができずに決勝に進めなかった。
2人の世界大会ファイナル先陣争いが世界陸上ブダペストの焦点の1つになる。その前に今秋の全日本実業団陸上や、来年のゴールデングランプリや日本選手権でも泉谷と対決するだろう。
「(泉谷との対決は)絶対に嫌です。競り合って、潰し合って変なレースをしたくありません。できれば一緒のレースは走りたくないですね。(オレゴン代表だった)村竹ラシッド君(順大3年)とも走りたくないです」
ここでも後ろ向き発言だが、「泉谷君と村竹君に勝ちます」と公の場で宣言するより、こう話した方が平常心で対決に臨めると考えてのことだろう。
「代表になれなくても仕方ないと思っています。レベルが今、高いのでどうなるかわかりません」
髙山がブダペストでの代表復帰に意欲を見せた、と言って間違いない。
TEXT by 寺田辰朗