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1500mの田中と10000mの萩谷、初日に世界陸上オレゴン代表2人が好走。最終日の5000mで対決し、来年の世界陸上ブダペスト標準記録にも挑戦【全日本実業団陸上2022レビュー①】

全日本実業団陸上(9月23~25日・岐阜メモリアルセンター長良川競技場)初日の女子1500mと女子10000mで、世界陸上オレゴン代表2人が好走した。1500mはオレゴンで日本人初の個人3種目(800m、1500m、5000m)に出場した田中希実(豊田自動織機・23)が、4分10秒41で優勝。自身の日本記録とは約11秒差があったが、大会記録を更新する貫禄を見せた。10000mはオレゴン5000m代表だった萩谷楓(エディオン・21)が、31分55秒04で3位。外国勢2人には及ばなかったが、今年から新しく取り組み始めた10000mでも代表入りを狙える力を示した。
 2人は大会3日目に、来年の世界陸上ブダペスト参加標準記録の14分57秒00突破が期待できる5000mで対決する。

●外国勢のペースアップに付けなかった萩谷

萩谷は外国勢2人に、30秒以上の差をつけられた自身の走りに不満を見せていた。
「(3000m付近で)離されたところで、付いていかないといけなかったんです。1人になったらズルズル離れてしまうのはわかりきったこと。そこで頑張ることができていたら、もう少し粘れたと思います。あの場面はきつくても我慢することが、世界で戦うためにも必要だと今日も感じました」
 その前段階として、2、3周目のペースアップが、実際のスピードよりも速いと感じてしまったことがあった。
「1周目が(80秒で)ペースが遅いと感じて、自分で引っ張ることも考えましたが、2周目、3周目とペースが上がっていたので躊躇ってしまいました。最初が遅かったので、3周目の74秒が実際以上に速く感じてしまったんです。世界ではそんなのは当たり前で、もっと上げ下げが激しい。そういうところが自分に足りないところ」
 東京五輪は15分04秒95とタイム的には悪くなかったが、予選を通過できなかった。世界陸上オレゴンでは15分53秒39とタイムを落として予選落ち。国内レースでも外国人選手を目標にし、世界をイメージすることが必要だと、2シーズンの経験を経て強烈に意識するようになった。
「日本で3位以内に入ると(代表入りすると)、スゴいと言っていただけるのですが、それにあぐらをかいていました。オレゴンの後はなかなか気持ちを切り換えられなかったのですが、こんなレベルでウジウジしていても恥ずかしいな、と今は思います」
 最終日の5000mは外国勢も多数出場するし、ライバルの田中とも対決する。外国勢の速いペースに積極的に挑戦するはずだ。対田中という部分でも、中盤から仕掛けて振り切った21年の日本選手権クロスカントリーのように、思い切りのいいレース展開が有効だ。
 5000mは世界陸上12位の田中だけでなく、萩谷の走りにも要注目だ。

●5000mにつながる1500mとして走った田中

大会初日の1500mに4分10秒41の大会新記録で優勝した田中も、自身のレースに不満を示した。
 世界陸上ブダペスト標準記録の4分03秒50は、雨が予想された大会初日の天候や、独走しないと出せないことなどから現実的ではないと判断。「自分でレースを作ることより、上手くレースに乗って、(他の選手が作ったペースでも)自分のものにすることを意識してスタートしました」
 1周目は出場15人中、最後尾で走った。
 ペースは「遅すぎず速すぎず」と、普通の選手なら歓迎する展開だったが、世界大会でスローペースになることや、日本記録を狙ってハイペースにする両端を経験してきた田中にとっては、「いつもと違う形で戸惑いや焦りが生じてしまった」という。
 800m通過は先頭が2分15秒5(筆者計測。以下同)で、田中は5番手あたりまで上がり2分16秒1。1100mで先頭のマーガレット・アキドル(コモディイイダ)の後ろにつけると、360m付近でトップに。ラスト1周を62秒2で走り、アキドルに0.97秒差をつけて快勝したが、田中は「ラストが上がりきらなかった」と自身にダメ出しをした。
 だが今大会は「標準記録を狙っても孤軍奮闘の展開になってしまう」と考えていた1500mよりも、「(1500mは)しっかり勝って明後日(3日目)の5000mに気持ちをつなげる」ことを重視していた。その意味では良い形で1500mを走ったと、客観的には判断できる。
 萩谷と同じではないが、田中も日本選手だけで争うレースにはしたくないと考えている。自分が目標にされたり、勝たなければいけない気持ちが強くなりすぎたりすることで、「窮屈なイメージがついている」という。
 3日目の5000mは外国勢が多いので、田中にとっては「のびのび走れる」レースだ。日本記録を上回る14分40秒台を持つ選手も複数出場する。「世界陸上に近いレースで、もう1回チャレンジできるというイメージを持って走りたい」
 全日本実業団陸上の優勝タイムは20年、21年と、14分50秒台が続いている。田中と萩谷がブダペスト標準記録に挑戦するレースになるだろう。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモ


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