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【プリンセス駅伝2021見どころ⑤ ダイハツ】

東京五輪候補選手だった松田欠場も
期待のルーキー加世田に快走の予感

 ダイハツが大エース不在をどう乗りきるか。10月24日に福岡県宗像市を発着点とする6区間42.195kmで行われるプリンセス駅伝で、ダイハツは資生堂、エディオンとともに3強の1つに挙げられていた。しかし東京五輪マラソン候補選手(補欠選手)だった松田瑞生(26)が欠場することに。
 松田に代わってエース区間の3区は、ルーキー加世田梨花(22)が走る。学生女子長距離の第一人者だった選手で、「パリ五輪を狙える素材」(山中美和子監督)といわれている。実業団駅伝デビューでどんな走りを見せるのか注目したい。

●学生長距離界のクイーンだった加世田

 加世田の名城大時代は紹介したい実績がずらりと並ぶ。全日本大学女子駅伝と全日本大学女子選抜駅伝では、1年時から以下の成績を収めている。
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1年・全日本:5区(9.2km)区間2位
〃 ・選 抜:5区(10.5km)区間3位
2年・全日本:5区(9.2km)区間2位
〃 ・選 抜:5区(10.5km)区間1位
3年・全日本:5区(9.2km)区間1位
〃 ・選 抜:5区(10.5km)区間1位
4年・全日本:5区(9.2km)区間1位※区間新
〃 ・選 抜:5区(10.5km)区間3位
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 加世田の在学中、名城大は全日本大学女子駅伝で4連勝、全日本大学女子選抜駅伝も3連勝中だ。チーム内にも学生トップレベルの選手が何人かいたが、最長区間は加世田が走り続けた。
 トラックの日本インカレは以下の成績である。
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1年・5000m2位
2年・10000m1位
3年・10000m3位
4年・5000m2位
〃 ・10000m1位
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 向かうところ敵なし、というわけにはいかなかったのは、1学年上に関谷夏希(大東大)や佐藤成葉(立命大、現資生堂)、五島莉乃(中大、現資生堂)、1学年下に鈴木優花(大東大)や和田有菜(名城大)、2学年下に小林成美(名城大)と、同レベルのライバルが多数いたからだ。
 だが、駅伝では優勝チームのエース区間を担い続けたこと、全日本大学女子駅伝は最長区間の区間記録を持っていること、昨年の日本選手権では学生最上位の9位(31分39秒86)に入っていることなどから、学生女子長距離の第一人者と評価できた。
 実業団ではマラソンに挑戦していくこと、パリ五輪を目標としていることに、入社時には意欲を見せていた。


●加世田の走りの特徴とは?

 実業団初戦は6月の日本選手権5000m。15分39秒47の9位と、無難なスタートを切った。7月のホクレンDistance Challengeシリーズでは、網走大会10000mで32分10秒98の4位と、これも可も無く不可も無く、という成績。しかし1週間後の千歳大会5000mでは15分27秒81と、自己記録を5秒近く更新した。夏合宿の疲れが出て9月の全日本実業団陸上は10000mで33分かかってしまったが、順調な滑り出しを見せている。
 ダイハツの山中監督はまだ半年で、どんな練習が合っているかをつかみきれていないとした上で、加世田の特徴を以下のように話した。
「体幹がしっかりしている割に、柔軟性も持ち合わせているので、軸がぶれずに大きなストライドで走れる選手です。見た目の筋肉というより、インナーの筋肉が強いのだと思います。走りの中での筋力ですね。高校、大学とクロスカントリーを練習に取り入れていたからだと思います。頑張り屋というところはすごく感じます。頑張り屋ゆえに人と比べてしまって、自分を見失ってしまうこともあったようですが、負けず嫌いなところが成長を支えてきたんだと思います」
 5000mで自己新は出したが、ダイハツの練習を自分のものとするのはこれからだろう。5000mの自己記録を、高校卒業後は大学1年、3年、4年、そして実業団1年目で更新している。確実に成長していると言っていいが、高校時代に15分39秒66を出していることを考えると、本当に少しずつの成長である。
 逆に言えば、大学時代に基礎的なところをしっかりやり、記録は出ていないが4年間をかけて土台が築かれていた可能性はある。その土台を生かし、実業団で飛躍するキッカケをつかむのに、萩谷楓(エディオン)らと一緒に走るプリンセス駅伝は、またとない好機になるかもしれない。
「松田が抜けたのでエース区間を任せることになりましたが、気負わず練習通りの走りをしてくれたら、良い仕事をするんじゃないかと思います。本番の強さがある選手なので安心して任せられる。自分のリズムで、加世田らしいダイナミックな走りをしてくれたら、と思っています」
 加世田が学生長距離のエースから、実業団のエースへと変貌するレースとなる可能性がある。

●エース不在だからこそ

 加世田のプレッシャーを軽くするには、前半2区間でで好位置につける必要がある。
 1区の下田平渚(23)は9月に3000m9分09秒44の自己新、5000mを15分44秒99のセカンド記録で走るなど好調だ。2区の武田千捺(21)も9分14秒35と5年ぶりに自己記録を更新した。
「下田平は昨年のクイーンズで1区候補だったのですが、絶対に出遅れができなかったので松田に1区を託しました。下田平は『来年こそ1区を走ります』と力強く言ってくれましたね。武田は最初から速いペースで突っ込んでいける選手。昨年のクイーンズ2区で区間2位と快走しましたが、その後足底に痛みが出て走れない時期がありました。故障明けで自己新を出したのでスピードは戻ってきています」(山中監督)
 下田平、武田がトラックシーズンの走りを再現できれば、加世田に上位でつなぐことができ、ルーキーを「変なプレッシャーを感じさせず、のびのびと走らせる」(同監督)ことができる。
 そして後半区間は粘りを発揮し、競り合いになれば競り勝つ走りが求められる。
 4区は竹本香奈子(25)、5区は上田雪菜(23)、アンカーの6区が竹山楓菜(25)。
 竹本は3月の名古屋ウィメンズマラソンを2時間28分40秒で走ったスタミナ型の選手だ。「故障が少なく安定感があります。マラソンを経て、5000mでもセカンド記録を出しました」
 実業団駅伝初出場となる上田は筑波大出身で、名古屋ウィメンズマラソンではペースメーカーを務めた。「名古屋では風の強い中でも3分17~18秒で引っ張りました。5区はさらに強いも風が吹きますが、3分20~25秒ペースで押し切れば区間5位以内に入れます」
 竹山は昨年の全日本実業団ハーフマラソンに優勝した選手だが、クイーンズ駅伝ではメンバーから外れている。下田平と同様、今年の駅伝に懸ける思いは強い。マラソンへも積極的に挑んでいく予定だ。
 山中監督はエースを欠くことになったが、チーム全体に手応えを感じている。
「あまり区間にこだわらず、(距離に対する)固定概念も捨てて、全員が長い距離をやってきました。その中でスピードも出せています。練習の成果を出して普通に走ってくれれば、トップ通過は無理でも3位には入る実力はある」
 エース不在だからこそ、次代のエース候補の力を試す好機となるし、チーム全体の底力も確認できる。ダイハツにとって意味のあるプリンセス駅伝とできるはずだ。

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TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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