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【日本選手権クロスカントリー2022プレビュー⑥田村友佑&前日会見】

3年連続3~4位の田村が優勝に強い意欲

前日会見では東京五輪トリオも優勝狙いを明言

 2月26日、福岡市の海の中道海浜公園で行われる日本選手権クロスカントリー。シニア男子(10km)は東京五輪3000m障害7位入賞の三浦龍司(順大2年)、同5000m代表の松枝博輝(富士通・28)と坂東悠汰(富士通・25)、五輪代表トリオが優勝争いの中心と言われている。だが、⑤で紹介した高校生の佐藤圭汰(洛南高3年)、そして田村友佑(黒崎播磨・23)もダークホースとして注目すべきだろう。

 田村は今大会で19年大会3位、20年3位、21年4位と、3年連続3~4位を続け、勝つことへの意欲は年々強くなっている。また、昨年11月の八王子ロングディスタンス、元旦のニューイヤー駅伝、そして2週間前の全日本実業団ハーフマラソンと高いレベルで安定した戦績を出し続けている。隠れた本命という評価も出ているほどだ。

●世界陸上オレゴンを意識することがハイレベルの戦績に

 ここに来て田村の評価がぐんぐん上がっている。八王子ロングディスタンス10000mで27分48秒42、ニューイヤー駅伝3区では区間4位、そして全日本実業団ハーフマラソンは3位。10000mはチーム新記録で、3区は37分21秒の区間新、ハーフは優勝者と同タイムで1時間00分38秒の日本歴代8位だった。高いレベルで安定した成績を続けていることでは、参加選手中一番かもしれない。

 ハーフから2週間のインターバルだが、黒崎播磨の澁谷明憲監督は「疲れが出ると筋肉が細くなりますが、今回の田村にはそれがありません」という。それが可能になった理由として「本人の中でビジョンが明確になった」ことを澁谷監督は挙げる。

「27分48秒がきっかけだったと思います。どう取り組んでいったら世界陸上の標準記録(27分28秒00)が狙えるか、イメージでき始めた。話していても、何をやって、どこで記録を出して、という内容がより具体的になってきました」

 自身の将来が具体的にイメージできれば、今やるべきことがはっきりする。そうなれば以前に増して、目の前のことに集中して取り組める。その結果、高いレベルが安定し始める。

 今は5月の日本選手権10000mに一番の照準を合わせているが、そこで標準記録を破るためには、今回のクロスカントリーで優勝することがステップになる。そのイメージが田村の中で明確にできている。


●田村が得意とする攻めのレース展開

 しかし澁谷監督は「田村はレースが下手なところがあって、前に出て利用されてしまうことが多いんです。全日本実業団ハーフマラソンもそうでした。スパートはタイミングを見てやってほしい」と注文もつけることも忘れない。

 その一方で、昨年11月の九州実業団駅伝1区では、最初に井上大仁(三菱重工・29)が前に出たことを利用してハイペースのリズムに乗った。井上が下がっても田村はそのリズムを維持し、マラソンで2時間6分台を持つ井上と、10000m日本記録保持者の相澤晃(旭化成・24)を振り切った。攻めの走りは田村の武器になっていることも確かだろう。

 どの選手もクロスカントリーは勝ち負けよりも、今後につなげることを目的として出場する。動きのチェックを行う選手も多い。だがクロスカントリーの意味づけを考えすぎてしまうと、思い切ったレースができなくなる可能性もある。田村や高校生の佐藤が早い段階で飛び出したときに、冷静な走りでペースを抑えてしまうと、気がついたら差が大きくなっていた、ということもあるのではないか。

 前日会見で松枝、坂東、三浦も勝つことに意欲を見せていた(下記コメント参照)。誰かが前に出れば、別の選手がすかさず追走する。レースは淡々と進むのでなく、前半からペースの上げ下げが行われる展開になるのではないか。

 集団で進む選手たちの表情や、微妙な駆け引きの様子がテレビ画面越しに見られる日本選手権クロスカントリーになる。

●「強化の一環ですが、その中でも勝つことが重要」

◇松枝博輝

「全員が(東京五輪代表で)トラックを極めているメンバーです。出場の目的は強化の一環ですが、その中でも勝つことが重要です。去年、三浦君に負けているので今年は勝ちたい。隣の坂東君にも。東京五輪は5000mで出ましたが、まったく歯が立ちませんでした。すごく悔しさを感じて思い悩む期間がありましたが、それを払拭するためにもオレゴンで勝負をしたい。東京五輪は世界ランキングで出場しましたが、オレゴンは(世界ランキングより上のレベルになる)標準記録を切って出場し、なんとしても勝負をしたい。5000mでオリンピックのリベンジをします」

◇坂東悠汰

「松枝さんと同じで練習の一環で出ますが、前回(19年)出たときは優勝して、トラックでも自己記録を更新したり、初めて日本選手権に出たりして、充実したシーズンになりました。今回も同じように優勝したいです。世界陸上は自分も5000mで狙って行きます」

◇三浦龍司

「強化の一環でもありますが、22年の開幕として弾みをつけたい。去年はここで優勝して3000m障害につながりました。今年も弾みになる良い走りをしたいですね。世界陸上は1年の大きな目標ですが、パリ五輪への脚作り、経験を積む意味合いもあります。東京五輪のような積極的な走りをして、タイム的には7分台も狙っています」

◇小林成美

「今の時期は春のトラックシーズンに向けて練習を積んでいます。今大会の目的は現状を確認することです。世界陸上は10000mで勝負したいと思っています。オレゴンの参加標準記録を(昨年7月に)突破して、目線が上に向きました。狙えるなら5月の日本選手権で勝負をしたい」

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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