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2018/11/18 風をよむ「マクロン大統領の心配」

第一次世界大戦終結から100年経った11日、パリで開かれた記念式典。フランスのマクロン大統領が行った演説が、世界から注目を集めました。

マクロン大統領「第一次大戦後、屈辱や復讐心、経済危機や道徳の危機がナショナリズムと全体主義を作り出していきました。今、“古い悪魔”が再び現れつつあり、混沌と死をもたらそうとしています」

マクロン大統領が訴えたのは、今再び姿を現しつつある“古い悪魔”、世界を席巻する“ナショナリズム”への警鐘でした。

マクロン大統領
「ナショナリズムは裏切りです。それは、自分さえよければ他者などどうでもよいという考えで国家から大切なもの、国家を生かし続けてきたもの、そして国家を偉大にしてきたもの、そして倫理観を抹殺するのですー」

世界各国から72人の首脳が参列した今回の式典。ドイツのメルケル首相の隣に座ったのは、自国第一を常々掲げるアメリカのトランプ大統領。憮然とした表情でその演説を聞いていました。

この式典を、イギリスのガーディアン紙は、「マクロン大統領が高まる
ナショナリズムに警鐘」と報じ、また、アメリカのワシントンポスト紙は
「第一次世界大戦から100年、再び強まるナショナリズム」と題した論評を掲載するなど、大きく取り上げたのです。

人類史上初となる世界規模の戦争・第一次世界大戦は、兵士だけでおよそ900万人ともいわれる膨大な戦死者を出し、1918年11月11日に終結しました。

この戦争への反省から、1920年に作られたのが国際連盟でした。ところが、提唱したアメリカは、自国の権益が侵害されるとして議会が反対し参加を見送るなど、当初の加盟国は42か国にとどまります。

さらに1929年、ニューヨーク市場の暴落をきっかけに世界大恐慌が発生。各国に混乱が広がる中、敗戦で莫大な賠償金を課され、 経済的苦境にあえぐドイツでは、国民の不満が高まり、極端なナショナリズムを掲げるナチスが台頭します。

列強各国も自国本位のナショナリズムに走る中、国際連盟は効果的な対応ができず、日本やドイツも脱退。第1次大戦終結からわずか20年余りで二度目の世界大戦へ突入したのです。

国際連盟が機能しなかった理由について専門家は…

油井大三郎 一橋大学・東京大学名誉教授(国際関係史) 

「それぞれの国が排他的なブロックを作って自分の国の市場を
 守ろうとした。そこで強烈なナショナリズムがおこって第二次世界大戦が
 勃発する流れになってしまった。国際連盟は第一に提案したアメリカが
 入らなかったから、基盤が弱くなったことによって無力のままに
 終わってしまった」

再び繰り返された世界大戦。第二次大戦の死者は世界中で6千万人にものぼります。そこで二度とこうした悲劇を繰り返すまい、との反省のもと作られたのが、国際連合でした。

国際連合は、連盟の失敗を踏まえ、第二次世界大戦の戦勝国だった5大国がこぞって参加。現在では世界193か国が参加するなど、名実ともに世界平和のための国際機関となったのです。
 
人類が二度と過ちを繰り返さないために作られた国連。しかし、今、そこにほころびが見えつつあるのです。

今月9日、国連の役割を議題に、安全保障理事会の公開討論が行われました。

そこで、グテーレス事務総長は、各国が互いに協力し、問題解決に当たる“多国間主義”の重要性を訴えたのです。

グテーレス国連事務総長
「2度の大戦を経て築かれたのが、現在の多国間の様々な取り決めです。それが命を救い、経済的、社会的成長をもたらし、第3次大戦を回避してきたのです」

これに、アメリカのヘイリー国連大使が反論。

アメリカ・ヘイリー国連大使
「“多国間主義”はアメリカにとって、“悪しきディール(取引)”であり
 自分たちで自国の原則や国益を進めた方が効果的だと信じたくなる」

では、世界で高まりつつある自国本位で排他的なナショナリズムに
対して、国連は無力なのか、油井教授は…

油井大三郎名誉教授 
「現在、肝心のアメリカが国連から身を引こうとし始めている。ところが国際連合の場合、5大国がまとまらないと機能しない。国連改革をするのであれば、国連総会において3分の2の多数で支持された政策に関しては大国は拒否権を発動できないとか、そういう何か長期的な改革の方針を出していく時期だと思います」

しかし、第一次世界大戦終結から100年経った11日、ポーランドでは、 ナショナリズムを叫ぶ極右団体などによる大規模デモが・・。不穏な空気が世界を覆いつつあります。   

世界に再び現れつつある“古い悪魔”に、私たちは有効に対処できるのでしょうか…

マクロン大統領 

「今、“古い悪魔”が再び現れつつあり、混沌と死をもたらそうとしています…」

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