どうせ点滅するから走るのはやめた
幼い頃から、自分より遥かに背の高い“信号機”という存在に対して妙な競争心を抱いていた。
何か嫌な予感がした時にはもう既に遅い。
私は大抵、信号機へ向かって走りかけると、その青い光は瞬きを始めてしまう。
私たち人間の行動を読み取るセンサーでも付いているんじゃないかと疑いたくなるくらい、あの大きなステンレスの塊には敵対心があった。
だからもう私は奴と競うのはやめた。
どうせ点滅させるんだ。
私の足取りを横目でちらりと確認しながら、
歩みを強制的に止めようとしてくるんだ。
奴はとってもずる賢いんだ。
けれどもそんな貴方は反対に、点滅などすることなく即座にその色を赤色に変えて私を突き放した。
ほんの僅かな間を与えることもなく、隙も見せず。
だから私は走りかけることもできなかった。
走り方すら忘れてしまう程、夢中になっていた。
そんなんだったら、点滅させて突き放す助走を披露してくれる奴の方が案外優しいのかもしれない。
まあ、どうせ点滅するから走るのはやめたけど
貴方のせいなのか、奴のせいなのか、その日から赤色を見ると「近づかないで」と声にならない言葉が聞こえてくるような気がしている。
そんな私の爪色は今、赤色だ。
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