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【背振山系風力発電事業】とある取材者の整理

これまで二度にわたって唐津市七山で計画されている風力発電事業について記事を書いた。

(こちらは風力発電事業の計画急増を考察したもの)

(1月下旬に行われた事業者による唐津市内での説明会レポートと所感)

唐津でも今回の件で動きが出始めた。糸島で今回の事業の周知に努めている「唐津^糸島の山の未来を考える会」という団体の唐津支部ができるという。

「現状、賛成か、反対かはひとまず置いて、この事業について市民が知るべきだ」と唐津の同会関係者。活動が先鋭化し、市民感情が離れることを危惧している様子だった。

その懸念は1月の事業者説明会で筆者が抱いたものと同じだ。本件は少し入り組んでいて、ちょっとわかりにくい。
概略だけを言えば、「七山という唐津市の端っこの地区の、その山の上に風力発電所を作ろうという計画」なので、なぜ賛否が別れるのかと不思議に思われるかもしれない。

そこで今回の記事では、①土地②建設③稼働後の3つに分けて本件の論点をまとめようと思う。これは記事の執筆段階でわかっていることで、その後に明らかになるものは記事を別にして触れる可能性がある。

①土地について――唐津市所有の土地、保安林にも近く

現在、大和エネルギーは意見書の中で事業計画地をこのように掲載した。

大和エネルギー公開の環境影響評価意見書より抜粋スクリーンショット 2021-03-05 095748

(大和エネルギーが公開した環境影響評価方法書の第三章より一部抜粋)

赤丸が風車、曲がりくねった細長い部分は道路にあたる。大きくとられた半円の上部は背振山系の一つ女岳の稜線をそのままなぞっている。

そしてこの女岳の山頂付近というのは佐賀県・福岡県でともに県立自然公園に指定されている。本来なら自然公園に風力発電所を作ることはできないが、2012年に規制が緩和されて可能となった。

また、同地は合併前の七山村から引き継いだ唐津市が所有する土地となっている。今回の環境影響評価に当たって唐津市側が地権者として出したコメントは、

唐津市は再生可能エネルギーの導入を推進しており、行為者の計画している風況観測タワー設置は七山地区での風力発電の推進に繋がるものであると考えている。

その一方で、唐津市は都市計画マスタープランの中で七山地区でエコツーリズムを主とする産業育成に力を入れるとしているほか、今回の事業計画地の近辺は水源かん養保安林にも設定されている。

また、同地内では縄文時代の遺跡が発見されており、県から試掘調査を行うよう勧告されている。試掘調査は教育委員会が行うが、その際に記録すべき遺跡があるとわかった場合は発掘調査が行われることになる。この時の費用は前者が唐津市教育委員会、後者は原因者負担として工事を行おうとする個人・法人に請求するという(請求先については法令等で決まっていないため、自治体によっては対応が異なる可能性がある)。

七山村時代に編纂された『七山村史』によれば、七山は御影石として知られる花崗閃緑岩が多い土地だという。これは風化すると真砂土という流動性の高い土になってしまい、土砂災害の大規模化に繫がる。県の環境影響評価審査会では委員から風化度の観点で配慮事項にすべきだと提言され、事業者も「検討する」としていた。
ところが1月の事業者説明会でこの風化度の調査について質問したところ、「(風化度の調査は)環境影響評価が一通り終わった後の、工事許可の申請前になるだろう」という回答だった。

また、同地で土砂災害が発生すれば玉島川流域にも影響する。玉島川下流では毎年春前にシロウオ漁の仕掛けが行われ、地域の風物詩となっている。唐津市内で人口増が進む浜玉地区は、その一方で水田の減少から治水対策との兼ね合いが図られ、現在は鏡山から流れる横田川の整備が行われている。


②建設について――工事車両は通れるか?騒音は?

車道が工事計画地に入っているのは、現状では工事車両が通りづらいためとみられる。中央ルートは七山地区の中心に近い滝川集落を通過する。また、東西ルートにあたる林道は唐津市があまり整備をしていない。(林道整備は国から予算が降りるが、唐津市は財政逼迫を理由にその予算を別に付け替えている)

そのため、林道整備から始まり風車の完工に至るまで長期化することが予想されており、その間の騒音が懸念されている。


③稼働後について――疑念根強い「超低周波音」、不透明な地域への貢献

風車が発する超低周波音についての懸念は根強い。静音化を図った最近の風車は音としては聞こえないことが多いが、人によってはブーンという低い音を耳にする。これが常に聞こえることで地域住民に健康被害が出るのではないか、という疑いは依然としてある。

国はこれについて研究させ、以前よりも音の大きさを厳しく設定した。しかし、お墨付きを得たとされる研究はあくまで「騒音」かどうかということを問題にしたもので、超低周波音によるストレスと健康被害を関心事として行われた疫学調査ではなかったため疑念をますます深めている。

また、経済的な点でいえば、地域の雇用の受け皿になることも難しい。風力発電に限らず再生可能エネルギーは、発電所に人が常駐することはほとんどない。電力需給のバランスを保つために接続停止を強いる出力制限のこともあって、近年は遠隔制御が主流だ。「地元にお金が落ちる」タイミングは工事の時だけと考えるのが妥当だろう。
1月の事業者説明会の段階では、事業者側から地域への還元策は打ち出していない。

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