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そろそろ“医療の正義”の話をしよう⑭

在宅医療に見える日本社会の暗い影―ペイシェント・ハラスメント

2022.1.31在宅医療を受けていた母親の死に納得できない家族が、在宅医を射殺する事件が起きた。これを機に、全国在宅療養支援医協会は在宅医150名にアンケートを行い「在宅医療の安全確保に関する調査報告書」をHP上に掲載した(http://www.zaitakuiryo.or.jp/)。


結果はショッキングだった。回答した在宅医の40%が「身の危険を感じるような経験」をしていた。具体的事例57例は、17件(30%)が「恐怖を感じる脅し・暴言」と最多であり、「精神疾患の患者・家族」12件(21%)、「ハサミ・刃物による脅し、暴力行為」10件(18%)、「暴力や物を投げつけるなどの行為」9件(16%)、「長時間患者宅に軟禁」5件(9%)であった。

この報告は「一般的に持たれている在宅医と患者・家族とのイメージ:医師が親身になって患者に寄り添い、患者・家族も心から信頼している」と大きく乖離している。上記協会もこの結果を重く受け止め、厚労省と日本医師会に報告したと伝えている。

なぜ、在宅医療の現場で医療者に対する患者・家族の暴力・脅迫行為(ペイシェント・ハラスメント)が起きるのか?この報告と共に掲載された「会員から寄せられた国等への要望/意見」の中にヒントを見つけた。在宅医から、ペイシェント・ハラスメントの原因について「根本にあるのは患者・家族の孤立である」「努力しても信頼関係が築けない患者」「老いや死を受け入れる心構えの教育が必要」など、主に患者側にある要因が指摘されていた。

このアンケートの回答者は全て在宅医である。私は患者側の意見を聞きたいと思った。医療従事者であり、ご自分のご家族を在宅で看取った経験のある5名に上記アンケートを見てもらい、意見を伺った。3名が「家族の病状が良くない時、どうしても在宅医に不信感を持ってしまった」という正直な気持ちを示された。また、「他職種に相談したくても、それを快く思わない医師で困った」、「在宅医も様々で、人間関係構築が困難な医師もいた」等の医療者側の問題を指摘する声も認められた。これらは、医師対象のアンケートからは聞こえてこない声だろう。

 在宅医療におけるペイシェント・ハラスメントの問題は、専門家の検討が始まりその対策が話し合われるであろう。被害を受けるのは医療者なので、医療者の要望を軸に検討が進むであろう。しかし、患者・家族が置かれた社会的・医療的環境や、彼らの感情を無視しては本当の解決にはたどりつかないと思う。患者側・医療者側の双方向の視点を持って話し合われることが大切だと考える。


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