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ソーダポップの危うさ

「アウトサイダー」という映画をご存じだろうか。
フランシス・コッポラ監督で1983年に制作され、ダイアン・レイン、トム・クルーズ、パトリック・スウェイジ、エミリオ・エステベスなど、今も熟年俳優として名前を耳にするハリウッドスターたちが、駆け出しの若手俳優として総出演していた。

映画の主題歌「ステイゴールド」はスティービー・ワンダーが歌い日本でもCMに使われてヒットした心にしみる名曲で、私などはこの曲をふいに耳にすると胸が熱くなり、ついうるうるしてしまったりする。

ほんとうにザックリとストーリーを説明すると、舞台は1980年代アメリカ、オクラホマ州の小さな町タルサ。お金持ちの住むウェストサイドの少年たち「ソッシュ」と、貧しいイーストサイドの少年たち「グリーサー」の間で抗争が繰り広げられている。
14歳の主人公ポニーボーイ(ポニー)は、夕日の美しさに心を奪われるような繊細な感性を持ち、映画や本が好き、本来は争いごとが好きではないが、イーストサイドに育ち「グリーサー」の兄二人を持つがゆえに、自分もグリーサーだという自覚を持っている。ある日、ポニーと親友のジョニーが夜中に公園にいたところへ、「ソッシュ」の集団が現れて因縁をつけられ、ポニーが襲われる。ジョニーはそれを助けようとしてあやまってソッシュのリーダーを刺し殺してしまう。その事件をきっかけに次々と悲劇が起こり……というお話。

映画のヒットで有名になったが、この「アウトサイダー」、原作はアメリカの一高校生、スーザン・E・ヒントンが17歳のときに友人に起きたできごとをヒントに書いた初めての小説だった。

小説「アウトサイダー」は、原作者スーザンの少女らしい正義感、純粋さ、真摯な思いにあふれた瑞々しい作品で、それでいて物語としての面白さもしっかり兼ね備えていて、もし手に入ればぜひ原作を読んでほしいのだが、その理由のひとつが、映画では時間の制約ではしょられてしまっている主人公ポニーボーイと二人の兄、ダリーとソーダの兄弟愛(両親がいないので、一段と結束が強い)にとても心を動かされるから。

想像だけれど、スーザンはこの兄弟たちのことを相当思い入れをもって描いたのではないかと思う。
私はどうも、主人公以外の人物に感情移入してしまうクセがあって、とくにすぐ上の兄、ソーダ(本名はソーダポップ)が好きだ。
ソーダはポニーによれば「地上に降りたギリシャ神話の神様みたい」な容姿をもちながら、勉強が大嫌いで高校を中退してガソリンスタンドで働いている。いつも能天気でお酒を飲まなくても酔っぱらっているみたいに陽気、だが家族を誰よりも大切に思っていて、弟にはこの上なく優しい。

映画では一番美しかったころのロブ・ロウが演じていて、なかなかはまり役だったけれど、ストーリーの中心はマット・ディロン演じる不良少年ダラスが強烈な個性でかっさらっていってしまっていて、あまり見せ場がないのが残念だ。

小説でもクライマックスを過ぎるまで、ところどころで印象的な言動を見せながらも目立った活躍をしないソーダに作者が出番をあたえるのは、エピローグの少し前の小さなエピソードだ。
ソーダはポニーと長兄ダリーの激しい言い争いの板挟みになって黙っていたが、ついに耐え切れず家を飛び出す。そして驚いて追いかけてきたふたりに、もう兄弟同士で争わないでくれと懇願する。
いつも陽気で、なにものにも動じない彼の見せた初めての涙に、ポニーは初めて自分たちの争いがどれだけソーダを苦しめていたのかに気づく。
映画ではカットされていた(もしかしたら完全版とかには収録されているかも)このシーン。数ある名場面のなかでも個人的に一番好きかもしれない。

いつも明るかったり、頼りがいのある人の見せる、ふとした弱さ。
ギャップ萌えではないけど、そんな「危うさ」に、私はやられてしまう。
もしかしたら、そんな危うさを書きたくて、私は小説を書いているのかもしれない。


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