自分の尾びれを追いかけて延々と回転するマグロ

サトシ:5月29日



釣具屋が潰れてコンビニになった、という話なら全国にいくらでもありそうだけど、コンビニが潰れて釣具屋になった、という例はなかなか珍しいのではないか。ぼくは聞いたことがない。釣具屋はいつだって潰れる側の存在だと思っていた。コンビニがもう飽和状態ということなのか、あるいはコロナで釣り人の人口が増えてひそかにブームが来ているのか、とか色々と勘ぐってしまう。

そういえば少し前、うちの近所でもセブンイレブンが潰れたのだった。建物が空っぽになりテナント募集の紙が貼られたかと思ったら、そこから50メートルほどのところにある、美容院が潰れた跡地に新しいセブンイレブンがオープンした。これが噂に聞くセブン&アイグループの戦略かと震えつつも、そこで買い物をすることに慣れてきたころ、潰されたセブンイレブンの方のテナントで新しい美容院がオープンしており、ついに人間は頭がおかしくなったのかと思った。自分の尾びれを追いかけて延々と回転する巨大なマグロのような。

また昨年ごろ、僕が2年ほど住んでいた家が取り壊されたその現場を半ば偶然見かけたのだけど、ものすごく苦労して設営した展覧会が終わり、元のホワイトキューブに戻ってしまったときの、あの時間はいったい何だったんだろうという感覚に似ていた。

ホワイトキューブだと、こんなに広かったのかと思いがちだけど、その空き地は異様に狭く感じられ、自分はこんな箱庭みたいなところに2年も暮らしていたのかと。ここを通りかかる人たちはきっと、前は何があったんだっけ?という会話をしているはずだ。近所でも、取り壊されて初めて意識される場所、というものはある。そこで暮らしたり仕事をしたりしていた人にとっては強烈な思い出の地でも、他の人からしたら、ここ何があったっけ?くらいがせいぜいだろう。めちゃくちゃたくさんの人間がそれぞれに生きているのだという、当たり前のことを思う。


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