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若い頃の祖父と僕をつなぐもの

名古屋の展示会を抜け出して、岐阜の大垣まで納品に。
大垣の粋料亭助六さんは、祖父の時代からのお客様で、今回は修理を請け負った品を仕上げて持っていきました。
http://sukeroku.com

祖父がまだ駆け出しの塗師屋の頃、仕事が全くなくて困ったなと思いながら電車に乗っていたときのこと、先代の助六の社長さんが横に座り、たまたま声をかけてくださったそうです。
以来ずっと仕事を頂いています。
お客様との出会いは、ひょんなことであったり、お客様の優しい気持ちから生まれることが多いと感じていただけに、祖父の若い頃も今も変わらないのだと改めて思いました。

今日は納品のついでに、料亭助六さんが新しくオープンさせた、みよし亭を見させていただきました。
https://miyoshitei.jimdofree.com/

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店内には若い頃の祖父が納めさせていただいた輪島塗の品が沢山あり、3世代に渡ってお付き合いいただいていることに、心から感謝です。

すごいと感じたのは、現代ではなかなか使われる機会の少なくなったお膳がディスプレイされていたことです。
お店に入るとカウンター越しに、輪島塗のお膳が綺麗に並べられています。
女将さんに話を聞くと、30年以上前に祖父が納品したもので、全部で100個あるとのことでした。
しかもその100個全てに異なる蒔絵の草花が描かれているそうです。

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普段、祖父が仕事に打ち込む姿は見ています。
しかし祖父の駆け出しの頃の仕事を見るのは、本当に初めてでした。
若い頃の祖父が、100種類の草花の図案を考える姿は、自分も塗師屋だけに目に浮かびます。
単に100の草花の図案を考えれば良い訳ではなく、草花の意味、花言葉、蒔絵にして美しいかなど、沢山の事に考慮する必要があります。
その時の祖父の苦労が手に取るように分かり、家族ながら改めて近いものを感じました。

普段は頑固で寡黙な祖父ですが、自分のように若い頃があり、塗師屋として全国を飛び回っていた時代があり、一生懸命に仕事に打ち込んでいた青春があったのだと感じると、目頭が熱くなりました。
今ここに自分が仕事をできるルーツを改めて感じ、綺麗事抜きに感謝しました。
おそらく女将さんの前で少し泣いてしまったと思います。
こう書くと祖父は亡くなっているかのようですが、まだ現役で工場で仕事をしています。

輪島塗が時を超えても美しい姿のまま残っているということも素晴らしいですが、僕にはそれが寡黙な祖父が商品を通して語りかけてきたように感じられました。
常日頃、祖父が口にするのは、「嘘のない商品を誠実にお客様に届ければ長く商売はできる」ということ。
自分が生まれる前に納品されたお膳が、今自分に語りかけているのは、まさにこの祖父の仕事への姿勢が、お客様に伝わっているからだと思いました。

感極まって長く書いてしまいましたが、塗師屋の仕事について改めて考えさせられました。
先代の社長から受け継いだ輪島塗をこのように大切に使っていただいているという事に、助六の女将さんにも輪島塗を作る職人や塗師屋の思いが間違いなく伝わっていると感じ、当たり前ですが、嘘なく誠実にモノづくりをする企業でありたいと思いました。

まだまだ現役ですが少し歳をとってきた祖父を、必ず春までに大垣のみよし亭に連れて行こうと思い、明日からの仕事にも打ち込みます。

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