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塗師屋(ぬしや)冥利

塗師屋として一番嬉しい瞬間は、自分がデザインから完成まで携わった作品が、お客様に認められてご購入頂いた瞬間です。

作品作りは、まずはコンセプトやデザインを考え、何人もの職人さんとディテールを詰めていきます。
自分が塗師屋として何を作りたいか、どこにこだわりたいかを、何度も話し合い、作品が出来上がっていきます。

2年前に作った「二段重日本昔話蒔絵」は、そういった意味ではかなり思い入れの深い作品です。
どうしたらお客様に1年を通してお重箱を使っていただけるか、お正月にだけ出てくる遠い器にしないためにはどうしたらいいか、そのコンセプトからスタートしました。

漆器のお重箱は、中の食べ物を一定時間保存するのに向いています。
木と漆が温度と湿度を保ってくれますし、漆には抗菌作用もあります。

昔こんなことがありました。
小学生の時、自分の輪島塗のお弁当箱に入ったサンドイッチだけ、ほかの友達のサンドイッチと比べてパサパサになっていなかったのです。
この経験も通年使えるお重箱というコンセプトに活かされています。

お重箱に様々な使い方があることは、お客様にも教えてもらっています。
来客の際のお菓子箱に使ったり、ちらし寿司を入れたり、ガラスの小鉢や陶磁器を入れて松花堂弁当のように使ったり、色んな使い方があります。
1年に一度しか登場しないお重箱より、普段使われているお重箱の方が間違いなく丈夫で、多様な使い方をされているお客様は輪島塗の使い手としてプロだと思います。

「二段重日本昔話蒔絵」は多様な用途で年間を通して使っていただきたいと思い、蓋を工夫しました。
このお重箱は蓋が4枚付いており、四季によって蓋を替えて使っていただけるお重なのです。

それぞれの蓋には、季節と日本昔話が蒔絵によって施されています。
小さなお子様からお年寄りまで、この日本昔話のキャラクターを囲んで話に花が咲いてくれると良いなーと思い、作りました。

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無地の漆器がトレンドの現在で、蒔絵は決して邪魔な物ではなく「美しい」ということをお客様にお見せしたいという塗師屋としての思いも込めています。

そのため、蒔絵も古典的な仕上がりではなく、現代社会に馴染みやすいようにと蒔絵師と何度も話しました。

このお重箱にかける思いは、どれだけでも書くことができますが、おそらく長くなりすぎます。
本日、札幌三越のギャラリーにご来店されたお客様に、自分の塗師屋としての思いとこのお重箱への愛情をお話しすると、その思いを受け入れてくださり、ご購入頂けました。
自分が一から携わった作品がお客様に認められるというのは、本当に嬉しいことなんだと改めて感じました。

そんな塗師屋冥利に尽きる1日でしたが、やっぱり札幌は寒くなってきました。
風邪をひかないように、あと2日間、お客様に塗師屋の思いを熱くお伝えしてきまーす。

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