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3この10年にナニがあった

10年前にある勉強会で彼女に会った。離婚して子供二人を育てるためにある会社の広報部に入社したと聞いた。そんな彼女が壁の花になってうつむいているのを見て「ナニしに来ているんだ?いろいろなヒトと名刺交換して会社をPRするのが自分の仕事だろ」と言いながら手を引き自分の知り合い全員と名刺交換をさせた。その後、他の勉強会でも相変わらず壁の花になっていたので、そのたび手を引っ張って名刺交換させた。そんな事が2~3回あったと思う。そのあとは会っていなかった。

もうほとんど途切れていたSNSで誕生日のおめでとうを告げたら返事が来た。今度転職するという。ある病院が別事業を立ち上げ家庭で使える健康器具を販売する会社だという。

「久しぶりに会おうか」

会社の場所は中川区の高畑、交通の便の良いところだ。上司を紹介されて商品の説明を聞くと、機械は出来ているがどうやってPRするかまだ定まっていないとの事。どうも販売戦略は後回しにして先に商品作ったみたいな様子。「いつでも相談に乗りますよ」と言ったものの、あまりにもなんにも決まっていなかったのでこの状態で発注されても困るから社交辞令として受け取ってくれればというのがホンネだった。

上司が退席して事務室に二人だけになった。SNSだけの会話よりもリアルに会った方が話が弾む。前の会社もしっかり頑張ったけど、今回の会社の責任者に引っ張られて転職を決めたと。子供たちは大きくなってもう大学を卒業する歳になった。そりゃあ10年前12歳だった子供は10年経てば大学を卒業する歳になるわなぁ、なんて会わなかった年月を埋める会話をしていると音楽が好きだという話になったので切り出してみた。

「ジャズクラブ行かない?」

「え、高級なお店なんでしょ」

「いや、そんな事もないよ。錦とかじゃなく名古屋駅近くだから」

「行ってみたいけど・・・」

「来週の火曜日あたりどう?」

さりげなく馴染みのピアニストの日で訊いてみる。彼女は口が堅い。

「えー、じゃあ連れて行ってくれますか」

10年前は離婚したてでけっこう顔に必死さが出ていたけど、いまの彼女はなんだか余裕がありそうな感じがする。いろいろな出逢いがあってオトコに磨かれたんだろう。まぁ、それくらいの女性の方が気楽で楽しい。

「それじゃあ、19時半から演奏が始まるからお店で19時に待ち合わせで」

それに対する返事は意外なモノだった。

「え、迎えに来てくれないんですか?」

地下鉄で15分だよな。しかも定期券持っている通勤途中だよなぁ・・・。

その言葉が出るというのは会わなかった10年間にイロイロなコトがあったんだな。

その時アタマの中で流れていた曲は「As Time Goes By」

そう、「時の過ぎゆくままに」

ホント、オンナは変わるね。

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