マガジンのカバー画像

【小説】太陽のヴェーダ

49
どう見ても異常があるのに「異常なし」しか言わない医者たちに失望した美咲。悪化した美咲に手を差し伸べたのは、こうさか医院の若き院長、高坂雪洋。雪洋の提案は、一緒に暮らすことだった。…
小説の本編は無料で読めます。番外編や創作裏話などは有料になることが多いです。
¥1,000
運営しているクリエイター

#異常

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(3)

(第1話/あらすじ) 「体の痛みはいつからですか?」 「五、六年前から……」 「この紫斑は?」 「一年くらい前から時々。今は、毎日……」 診察台で仰向けになったまま、美咲は答えた。 「病院へは?」 「先月、個人病院から出された薬で一ヶ月様子をみましたけど、何も変わりません」 「先月? 一年前と、五、六年前は?」 「……五年前までは行ってましたけど、それ以降、病院へは行ってません」 あからさまに美咲の声のトーンが落ちた。 雪洋から目をそらす。美咲の口元は笑っていたが、目

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(2)

(第1話/あらすじ) アスファルトに足を引きずる乾いた音が響く。夏の日差しが反射して、足元からも攻撃してくる。 「暑い……。暑いし痛い……」 ぴったりめのTシャツがやせた体のラインをなぞる。 この暑さの中、紫斑を隠すためにカーゴパンツを足首まで下ろしてはいている。 以前住んでいた場所は職場までやたら遠かったこともあり、二年ほど前に今のアパートへ引っ越してきた。平日は仕事に追われ、休日は体の痛みでダウンしているから、近所に何があるのかまったく把握していない。 瀬名に教

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(1)

(あらすじ/あとがき) 第1章 「異常なし」   ●もうやめた 市内にある高坂総合病院。 皮膚科診察室。 「天野美咲さんですね」 白衣姿の若い医者が所見を述べる。 「検査の結果は――」 うつむいて次の言葉を待つ。 膝に乗せた、節々が不格好に腫れている手指をにらみながら。 「特に異常無しですね」 「――え?」 医者の言葉に思わず顔を上げる。 目が合ってしまったので、また自分の両手へ視線を落とす。 「異常……無し……」 医者の言葉を力なく復唱する。 この病院で何回目