見出し画像

表現を取り戻す

 季節の変わり目、なんだかやる気が出ず、noteの更新ができていませんでした。気を取り直して

・誰の作品?

 「これでいいですか?」・・・絵を描き終えた後に、子供が発します。それに対して大人は「ん〜。もっとここは大きく描いて、ここはこの色の方がいいよ」と子供にアドバイスを授けます。そして、それを聞いた子供はその通りに直し始めます。私は、このような場面を学校の中で数多く目撃してきました。そして、疑問を感じてきました。「完成した作品は誰の作品なんだろう?」って。子供の作品?大人の作品?子供を使った大人の作品?

 何が言いたいのかというと、子供の表現でなくてはならないのに、大人が良かれと思って行ったアドバイスや絵の修正が子供の表現を奪っているんじゃないか。ということです。大人が修正した作品を見た子供はどう思うでしょうか。もしかしたら「あれ、こんな作品になる予定じゃなかったのに」と思うかもしれませんし、自分の表現を否定されたように受け取る子供もいるかもしれません。そのような過程で、いつしか子供たちは、大人の評価に捉われて、表現することを恐れるようになったり、忘れたりするんじゃないでしょうか。私たちはもっと慎重になるべきです。

 画家の富永ボンドさんもブログで似たようなことを書かれていました。

彼女は現在、中学3年生。
絵を描くことが大好き"だった"
発達障害の女の子です。
彼女は、記憶力と観察力が人並み外れて優れており、何年も前のことを鮮明に記憶できる能力がある。幼い頃から絵を描くことが大好きで、写実的な絵画やデッサンが得意だったそうです。
しかし、小学校の時......
描いた絵を先生に無理矢理.......
直されてしまった......
その時のことを、彼女は昨日のことのように鮮明に覚えているそうで、数年経った今でも彼女はまだ、絵を描くことが出来ません。
https://www.bondgraphics.com/post/20200205

・スキルに捉われない

 それではなぜ、このようなことに陥ってしまうのでしょうか。それは教育が客観的な評価を求めるからだと思っています。このような場合、表現しようとする心ではなく、目に見える形が大事なのでいかにスキルを使えているかが重要になりがちです。スキルを使わないといけないので、大人の「もっとこうしたほうがいい」という正しさが子供の表現に介入することになります。

・絵に正しさはあるのか

 先日、「13歳からのアート思考」という本を読みました。面白い本でした。常識を覆してきた20世紀の芸術家たちの思考を読み解く本です。その中でデュシャンの「泉」という作品がありました。この作品はデュシャンが男性用の小便器にサインをしただけの作品だそうです。自分で作ったわけじゃないし、美しいわけでもない。アートに正しさがないんじゃないかということを考えさせてくれます。そうであれば、美術にも正しさは必要ないんじゃないかと思うのです。

画像2


・絵を描くことは楽しかった

 そんな折、姪っ子が実家に遊びに来ていました。もうすぐ3歳になりますが、とっても元気で、とっても可愛かった。クレヨンを持てば、画用紙いっぱいになるまで自由に円を描きまくり、どれも同じような円なのだけれど、その円には、それぞれ名前が付いていました。なんという想像力。そこに正しさはありません。そう思っているからそうなんです。子供はすごいなぁと感じました。また、とても楽しそうに絵を描き続けている姿は、見ているこっちまで楽しくなるほどです。表現することに恐れなんてなくて、ただひたすら楽しんでいるだけです。

 こんな姪っ子の様子を見ながら、学校でも表現を楽しむ時間があってもいいんじゃないかと思い、こんな授業をしました。

・みんなでラクガキングダム

落書きAR授業.002

 ちょうどクレヨンしんちゃんの映画が上映されているということもあり、らくがきARというアプリを使って授業をしてみました。(ちなみにしんちゃんの映画は面白かったです!一人で観に行った!)この授業で大事にしたことは、「描くことを楽しむこと」と「失敗なんてない」ということです。少し難しかったですか、以下のスライドも紹介しました。

落書きAR授業.005

 それぞれ、落札価格や販売価格を適当に載せてあります。生徒たちにはまず、価格を見せずに「どの絵が1番上手か」について問いかけます。(4人中2人の生徒は左下のライオンの絵を選んでいました。)そのあと、価格を紹介します。生徒は驚きます。なんで下手くそな絵が1番高いんだ!って。そこで、”「本物そっくりに描いた絵=上手」とは限らない。”ということから生徒たちの「上手に描かなければならない」という洗脳を解いてあげます。あとは、ガンガン描いて、アプリを使って楽しむだけです。結果として、なんのスキルも身につかない授業ではありましたが、絵に自信がない生徒が生き生きしている姿を見られてよかったです。絵を楽しむことを少しでも思い出せたんじゃないでしょうか。

 最後に、スキルが必要ないと言っているわけではないことを理解いただきたいと思います。表現の幅を広げるためのスキルとして、表現することの大切さを忘れないようにしたいです。しんちゃんのように

 それではまた


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?