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2022.11.12〜美しき愚か者たちのタブロー〜

ちょうどいま、国立西洋美術館では「ピカソとその時代展」が開催されている。来年の1月までだ。
ドイツ生まれの美術商ベルクグリューンが、個人で収集した作品達が基になっているベルクグリューン美術館の作品が日本にやってきているのだ。その殆どが日本初公開。
ピカソの多才さにびっくりする展覧会なのでぜひ観に行ってほしい。

そんな国立西洋美術館もまた、ひとりのコレクターの収集品によってその礎が築かれた美術館だったりする。川崎造船所の社長、また衆議院議員も務めた実業家松方幸次郎氏による、通称「松方コレクション」である。

国立西洋美術館。その礎となった「松方コレクション」は、第二次世界大戦の渦中で数奇な運命をたどっていく。その軌跡を描いた作品が「美しき愚か者たちのタブロー」である。フィクションだが、登場人物や重要な部分についてはほぼ史実のとおりになっている。

この作品は、大きく3つの時系列の物語が絡み合い進んでいく。松方コレクションを集めた松方幸次郎そのひと、松方コレクションの収集に同行し、第二次世界大戦の日本敗戦後にフランスに差し押さえられてしまった松方コレクションの返還に尽力した田代雄一(こちらは偽名だがモデルがいる)、そして、戦時中に松方コレクションをフランスで極秘に守り抜いた日置釭三郎である。

日本の未来のために。そのことを思いビジネスに尽力してきた松方氏。全く美術に興味のなかった彼が、ロンドンで戦争プロパガンダのポスター、そして造船所の絵と出会い、「絵が人の心に与える力」に気づかされていく。その中で「青少年のための美術館を日本に建てたい」という一心で、名作を買い漁っていく。その想いをしかと受け取った日置、そして田代が、戦争に揺さぶられながらも志を貫き、松方コレクションを日本に取り戻す。ほぼ実話とは思えぬドラマチックさに胸が熱くなった。

また、物語の途中で読者は松方と「とある重大な秘密」を共有しながら作品を読み進めていくことになる。その他の登場人物が知らない秘密を抱えながら物語を追うことで、会話には決して現れない松方の心の内を想像せずにはいられない。そんな作品構成がとてもたまらなかった。

芸術の秋。ピカソとその時代展と、こちらの一冊をどうぞ。

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